神子だろうが、なにもかも捨てて俺は逃げる。

白光猫(しろみつにゃん)

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第二十一話 心臓がおかしいです。

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 王都のお祭りは、俺の知る日本のものとは全然違っていた。
 焼きそばも、タコ焼きも、チョコバナナも金魚すくいも無かった……当たり前か。

 通り沿いには、カラフルな屋台がズラリと並び、子供よりもむしろ大人が楽しめるような、酒に合うB級グルメが所狭しと売られている。どの通りも人で溢れかえっていて、路上にも広場にも、たくさんのテーブルやベンチが設置されていた。

 ワインを飲みながら屋台のグルメをつまんでいる者や、生演奏に合わせて陽気に踊ってる集団もいれば、酔っぱらって喧嘩している若者たちもいる。そんな中、人目も気にせず恋人たちはチュッチュしている。
 要するに、王様の誕生日にかこつけてやりたい放題だ。羨ましすぎる。

 俺なんて……、
 昼間から男とお手手繋いで歩いてるんだぞ? 神様は不公平だ。

「……どうしても移動時に、手を繋いでいないと駄目なのか?」
「駄目だ。さっきみたいに、はぐれたらどうする」
「悪かったよ。反省してるからさあ」

 リンダと別れてから数分も経たないうちに、俺は何度も迷子になりかけた。
 だって見るもの全てが、珍しいし初めてなんだよ? 余所見してしまうのは仕方ないじゃないか。焦ったアーチーに素早く捕獲されること数回……、俺の信用度はSTOP安を叩きだし、ただいま男友達と恋人繋ぎの状況だ。

「……野郎同士のこの絵柄はキツイって」
「自分の恰好を思い出せ」
「うぐっ」

 必死に抵抗してみるも、あえなく撃沈して今に至る。

「それに、いまのユキがひとりでウロつくのは危険すぎる」
「なんで?」

 眉を寄せて横を歩く長身を見上げれば、

「……なんでも」

 アーチーは柔らかく微笑むと、手をぎゅっと握りなおしてきた。

 いやいや、答えになってないぞ?
 そもそも、この格好のまま連れ出したのはお前だからな?

 それに、なんか……なんかさ。
 こんなふうに手を繋いで街を歩くって……これってその……完全にデートじゃないか? がっつりデートじゃないか? いまさら気づく俺も俺だけど。

 ただ横を歩いているときは、そんなこと感じなかったのに。
 友人として普通に振る舞えていたのに。
 指を絡まれ、大きな手でぎゅと握りこまれた途端に、告白されたときのことを、鮮明に思い出してしまった。

 俺は女性が好きだ。
 いまの身体は両性だけど、中身はしっかりと男なんだ。

 それなのに、なんでこんなにドキドキしちゃってるんだよ。
 オスカーにファーストキス奪われた時もそうだったけど、こんなの俺じゃない。

 たぶん、前世の時も奥手で、しかも中身はおっさんで、こういった少女漫画みたいなシチュエーションに全く慣れていないから、経験不足で脳が混乱して、変に意識しすぎているだけなんだ。
 男相手に、ドキドキしたり、キュンキュンしたりするのも、慣れない状況に心臓が緊張しているだけなんだ。そうに違いない。

「……ユキ?」

 急にアーチーが顔を傾けて覗き込んできた。

「な、なななな、なにっ?」

 【な】を何回言った俺? 動揺しすぎだろう。

「……いや、ずっと百面相してるから、どうしたのかなって」
「おまえがこの先、手を離してくれれば、即時解決する」
「何が食べたい? アレなんてどうだ?」

 ……あからさまに話をそらしやがったな、コイツ。
 ブンブンと腕を振ってみてもビクともしない。それどころか、やればやるほど、喜んでいるようにみえる。傍目から見れば、ただのはしゃいでいるカップルじゃないか。日頃の強面はどうした。さっきの黒豹モードと同一人物とは思えんぞ。戻ってこい。

 アーチーが指さした先には、美味しそうな肉の串焼き屋さんがあった。目の前でジュージューと焼かれて肉汁が滴っている。食欲をくすぐる香ばしい匂いに、俺の腹の虫もぐぅと小さく鳴った。 アーチーがくすりと笑う。

「アッチも美味いぞ。食べたことある?」
「……ない」

 その隣には、大きな貝がナマのまま売られていた。ハーブと柑橘系のソースをかけて、直前に軽くあぶって食べるらしい。前世で生ガキが大好物だった俺には、たまらないビジュアルだ。

「王都は物流が盛んだから、新鮮な海産物が安価で手に入るんだ」
「へええ」

 ……ちくしょう。美味そうだな。
 でも、俺はごまかされないぞ。
 食べものなんかで、ごまかされないんだから。

「そんなことより、いい加減この手を離せ……」
「ワインも売ってるぞ? 今日は特別な日だから、未成年でも酒が飲めるんだ」
「いただきましょう(キッパリ)」

 今日は楽しいお祭りだ。
 串焼きと貝をつまみに、昼間から一杯やろうじゃないか。
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