風紀委員長様は今日もお仕事

白光猫(しろみつにゃん)

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風紀委員長様は夜はお食事(お誘い編)

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「……おら、持ってきてやったぜ」

 残務作業を丁度片づけた俺の机上に、バサリと分厚い書類が置かれた。
 顔をあげれば、如月が偉そうに踏ん反り返って見下ろしている……またか。

「委員会関連の書類は、入口のトレーに置くか、そこにいる風紀委員に渡してもらえれば事足りる。奥まで持ってきてもらってすまないが、いい加減覚えてほしいものだ。何度言えばわかる」
「そんなに俺と顔を合わすのが嫌なのか」
「嫌ということはないが、おまえも仕事があるだろう? 書類を回すたびにお互い手を止めるのは効率的とは言えないな。世間話を楽しみたいなら教室で話しかけてくれ。ここにいるときは委員長として仕事に集中したい。おまえが来ると話が長くなる」
「ならこれから教室行くか」
「そういう問題ではない。ところで瑞貴はどこへ行った?」

 いつもはアイツが防波堤になって止めてくれるのに、珍しく傍から消えている。
 ぐるりと見渡せば、風紀委員が俺を含めてふたりしかいなかった。一年の新人委員が、滅多にお目にかかれない生徒会長をみて、あからさまに頬を染めている。人選失敗したか?

「佐藤副委員長は何処に行ったかと聞いているのだが?」

 声を低くしてもう一度尋ねてみれば、放心状態だった一年が息を吹き返した。

「すみませんっ! み、瑞貴様なら先ほど、転校生が親衛隊に制裁されかけていると通報が入り、数人連れて急行したところです」
「なんだと?」

 そんな通報、俺には入っていないが……むむむ?
 なるほど、スマホの電源が切られている。アイツの仕業だな。油断も隙もない。
 仕事に集中しすぎて全く気づかなかった。

「委員長は寝不足でお疲れのようだと、大変心配されていました」
「瑞貴にしては優しいじゃないか」
「体力仕事は下のものに任せて、委員長は私の分まで書類を片づけてくれと……」
「……アイツ、帰ってきたらお仕置きだな」

 どうりで今日はやけに、回ってきた書類が多いと思ったんだ。違和感を覚えつつも片づけてしまった己の処理能力に腹が立つ。

「おい、俺を無視してアイツの話してんじゃねえ」
「ああ、すまない。なんの話だったか……」
「これからふたりで夕飯でも食いに行こうという話だ。ほら、行くぞ」
「は?」

 俺の意思とは関係なしに、風紀委員会室がみるみる遠ざかっていく。

「いやおい、待て、手を離せ」
「断る。俺は仕事終わりで今にも腹が減って死にそうだ。たまにはおまえも付き合え」
「なぜ俺が……」

 食堂は賑やか過ぎてどうにも苦手だ。役職付き専門の二階席にも、あまり足を踏み入れたことは無い。
 特に最近は、転校生にトチ狂った生徒会役員が、無断で転校生を上にあげて食事をとっていることが問題視されている。トラブルメーカーの転校生や生徒会役員どもと鉢合わせなんて冗談じゃない。そいつらのせいで、俺はいま疲れているんだ。

「……ああ、転校生なら来る心配はない。いま制裁受けてドタバタの真っ最中なんだろう? 佐藤にまかせていればいいさ。生徒会の役員どもも、最近仕事をさぼって転校生に付きっきりだ。要はいまがチャンスってわけだ」
「そういえばそうだったな……って、おまえも当事者だろうが。転校生に惚れているんじゃなかったのか? 食堂でキスしたと報告が入っていたが」
「副会長がやけに誉めちぎるから、好奇心にかられて味見しただけだ。あいつ唇カッサカサでさ。言動も粗野だし不潔だしで、全く俺の好みじゃなかった。生理的に無理って奴だ。火遊びする気にもなれない」
「そうか」
「……安心したか?」
「ああ。トラブルの種が減って助かる」
「そういう意味じゃないんだが……」
「??」
「まあいい。そんなわけで、たまにはクラスメイトで飯でも食おうぜ」
「お前と行くと、なにかと目立つから嫌だ」
「オムライス」
「……なに?」
「今夜はシェフが、フワフワオムライスを作ってくれる。ケチャップたっぷりの俺専用の特別メニューだ。さっき予約しておいた。おまえにも分けてやる」
「ケチャップたっぷり……」
「甘めのケチャップだ。おまえ甘党だろう? プリンもつけてやる」
「プリン……」
「疲れた体には甘いものが一番だ。おまえ今どきの柔らかいプリンよりも、固いプリンの方が好きだったよな? どうだ、行く気になったか?」
「……行く」
「そうこなくっちゃ」
「手を離せ」
「ちっ、つまらない奴だ」

 なぜコイツが俺の好みを熟知しているのか?
 なぜ手を離すことがつまらないのか?

 正直分からないことだらけだが、いまは脳に糖分を補給することが第一優先だろう。
 プリンか……久しぶりでヨダレが出そうだ。

「……いつもそうやって笑っていればいいのに」
「ん? なにか言ったか?」
「いいや、なにも」

 横を歩く如月が何事かを呟いていたが、俺の脳内はオムライスとプリンでいっぱいで、それどころではなかった。

 デザートを食べている最中に、青筋を立てた瑞貴が「あんたチョロ過ぎるんですよっ!」と雪崩れ込んでくるのだが、それはまた別の話。
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