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風紀委員長様は放課後に愚痴を聞く(3―S教室編)
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瑞貴には委員会室に少し遅れる旨をメールしておいた。
授業が終わって誰もいなくなった教室で、俺はいま如月とふたりきりだ。
先程、忘れ物をしたらしい生徒が教室に入ってきたが、俺達と目が合った途端に、脱兎のごとく逃げていった。
おいコラ、まがりなりにもクラスメイトだぞ? その態度はないだろう。
「……それで? 話というのは?」
机に片肘をつき、俺の方へ身体を向けた状態で、如月が偉そうに問うてきた。
「ああ。例の転校生のことだ。生徒会は理事長から直接世話を頼まれたのだろう? その割には、あちこちで問題を起こしているじゃないか。理事長の甥ならば何をしても許されるわけではない。ちゃんと教育はしているのか?」
「それなんだが……俺も正直、考えあぐねているところだ」
「……なんだと?」
普段の如月らしからぬハッキリしない返答に、俺は目を丸くした。
なんだどうした? 天変地異の前触れか?
「俺以外の生徒会の役員どもが、次々と転校生にのめり込んでしまったんだ。それは聞いているか?」
「ああ。規則を破って食堂の二階席に上げるくらい惚れこんでいるようだとは報告を受けている」
「そうだ。しかも奴らは、ここ二週間全く生徒会の仕事をしていない。先ほども話したが、関係者以外立ち入り禁止の生徒会室にまで転校生を招き入れ、授業免除をいいことに遊び呆けているんだ」
「……は?」
「いくら注意しても誰一人聞く耳を持たない。あまりにも騒々しいから、保健室の一角を借りて、仮眠しながら仕事をしていたが、俺の処理能力もそろそろ限界を超えつつある。二週間、他言しなかったのは、あいつらが目を覚ますのを多少なりとも期待していたからだ。我ながら甘いとは思うが、転校生が来るまでは、気の合う大事な仲間だった。俺の求心力が無くなったといえばそれまでだが、あいつらの生徒会役員としての誇りと責任感にかけてみたくなったんだ。だがそれも、残り数時間で終わってしまうがな。来週の定例会で、あいつらは恥をさらすことになるだろう。俺もそこまで尻拭いするつもりもない」
目の前で苦笑している男が、こんなにも弱音を吐いたところを初めて見た。
予想の上をいく生徒会の現状に、似たような立場の人間として、かける言葉が咄嗟に思いつかなかった。
「そんな状態だったのに、よく保健室でセックスできたな。まだまだ元気じゃないか」
「……藤堂、慰めの角度が微妙にズレているぞ」
俺もそう思うが、それしか浮かばなかったんだから許してくれ。
「そこはほら、【疲れマ○】ってやつだ。相手はもう忘れちまったが、性欲解消できてスッキリはした。いろいろ溜まっていたからな。親衛隊もたまには役に立つ」
おまえも真面目に答えてくるんじゃない。
だがいまのやりとりで、若干空気が和らいだように思えた。
「保健室での性行為は控えてほしいが、書類が遅れていたことに関しては、責めたりして悪かった」
「いや、迷惑かけてたのは事実だしな」
「しかし、あの副会長までもがそんな醜態をさらしているとは驚きだ」
「なんでも、初対面のときに【嘘くさい笑顔だ】と、転校生に一発で見破られたらしい。それでコロッと恋に落ちたんだと」
「そうか。俺はいままで副会長の【腹黒さ】をチャームポイントとしてとらえていた。腹黒対抗馬の瑞貴も、このことを知れば、さぞかし残念に思うだろう」
「……大喜びで、傷口に塩を塗りにくるんじゃないのか?」
いつも瑞貴に噛みつかれている如月は、いまいち納得できていないようだった。
「とにかく、生徒会室が占拠されているのは由々しき事態だ。おまえ今日はどうする? いっそ風紀委員室へ来るか? 生徒会役員も転校生も、さすがにウチにまでは押し寄せてこないだろう」
「……いいのか?」
「ああ。ただし長期的に生徒会と慣れ合うつもりはない。あくまでも一時的避難だ」
「助かる。寮でもあいつらに付きまとわれて、困っていたところだ」
「……ん? 付きまとわれている?」
生徒会室を占拠されているだけではなく?
状況が把握できずに首をかしげていると、
「どうやら転校生の本命は俺らしい」
如月が実に迷惑そうに答えてくれた。
「……なるほど。モテる男は苦労するな。まあ頑張れ」
「棒読みの激励ありがとう」
それで嫉妬に狂った副会長たちが、如月の言うことを聞かなくなったと……そういうわけか。
恋は盲目とはいうが……それにしても……。
なにか……小骨が喉に引っかかっているような、この感覚はなんだろう。
如月が本気で手を回せば、副会長たちはリコールされ、理事長も転校生もただでは済まないだろう。こいつの実家は理事長など歯牙にもかけない日本屈指の大財閥だ。
そんな無敵の生徒会長が、受け身のまま黙って耐え続け、二週間も猶予を与えてくれていたことに、彼らは本当に気づいていないのか? そこまで愚かな奴らだったか?
如月はこの二週間、ひとりきりで生徒会の仕事をこなしていたという。
遅れていた書類も、提出期限ギリギリではあったが、完璧に仕上がってた。
そう……この男は遊び人にみえて、仕事となると常に完璧にこなす。完璧すぎるのだ。
それは逆に、他の生徒会役員の存在意義を、否定する行為ではなかったのか?
それが分かっていて如月もやっていたとしたら?
実はこいつも、意地になっていたのだとしたら?
如月は自分で処分すると言ってはいるが、二週間を待たずして俺に全ての事情を話してきた。
考えすぎかもしれないが、それが俺には、第三者が介入してほしいという、無意識のSOSに感じられたのだ。
(……一度、副会長たちとも会っておくか)
曲者ぞろいで面倒だが、如月にはオムライスとプリンの恩もある。
そういえば、硬いプリンは寮でも作れるのか?
瑞貴なら俺好みのものを作れるかもしれない。器用だから今度やらせてみるか。
「……藤堂? なにを考えている?」
「ん? 瑞貴の手作りプリンについてだ」
「ああん? なんだとコラ」
……如月が急にチンピラになったぞ。何故だ?
こいつもなにかと面倒臭いやつだと、俺は秘かに溜息を吐いたのだった。
授業が終わって誰もいなくなった教室で、俺はいま如月とふたりきりだ。
先程、忘れ物をしたらしい生徒が教室に入ってきたが、俺達と目が合った途端に、脱兎のごとく逃げていった。
おいコラ、まがりなりにもクラスメイトだぞ? その態度はないだろう。
「……それで? 話というのは?」
机に片肘をつき、俺の方へ身体を向けた状態で、如月が偉そうに問うてきた。
「ああ。例の転校生のことだ。生徒会は理事長から直接世話を頼まれたのだろう? その割には、あちこちで問題を起こしているじゃないか。理事長の甥ならば何をしても許されるわけではない。ちゃんと教育はしているのか?」
「それなんだが……俺も正直、考えあぐねているところだ」
「……なんだと?」
普段の如月らしからぬハッキリしない返答に、俺は目を丸くした。
なんだどうした? 天変地異の前触れか?
「俺以外の生徒会の役員どもが、次々と転校生にのめり込んでしまったんだ。それは聞いているか?」
「ああ。規則を破って食堂の二階席に上げるくらい惚れこんでいるようだとは報告を受けている」
「そうだ。しかも奴らは、ここ二週間全く生徒会の仕事をしていない。先ほども話したが、関係者以外立ち入り禁止の生徒会室にまで転校生を招き入れ、授業免除をいいことに遊び呆けているんだ」
「……は?」
「いくら注意しても誰一人聞く耳を持たない。あまりにも騒々しいから、保健室の一角を借りて、仮眠しながら仕事をしていたが、俺の処理能力もそろそろ限界を超えつつある。二週間、他言しなかったのは、あいつらが目を覚ますのを多少なりとも期待していたからだ。我ながら甘いとは思うが、転校生が来るまでは、気の合う大事な仲間だった。俺の求心力が無くなったといえばそれまでだが、あいつらの生徒会役員としての誇りと責任感にかけてみたくなったんだ。だがそれも、残り数時間で終わってしまうがな。来週の定例会で、あいつらは恥をさらすことになるだろう。俺もそこまで尻拭いするつもりもない」
目の前で苦笑している男が、こんなにも弱音を吐いたところを初めて見た。
予想の上をいく生徒会の現状に、似たような立場の人間として、かける言葉が咄嗟に思いつかなかった。
「そんな状態だったのに、よく保健室でセックスできたな。まだまだ元気じゃないか」
「……藤堂、慰めの角度が微妙にズレているぞ」
俺もそう思うが、それしか浮かばなかったんだから許してくれ。
「そこはほら、【疲れマ○】ってやつだ。相手はもう忘れちまったが、性欲解消できてスッキリはした。いろいろ溜まっていたからな。親衛隊もたまには役に立つ」
おまえも真面目に答えてくるんじゃない。
だがいまのやりとりで、若干空気が和らいだように思えた。
「保健室での性行為は控えてほしいが、書類が遅れていたことに関しては、責めたりして悪かった」
「いや、迷惑かけてたのは事実だしな」
「しかし、あの副会長までもがそんな醜態をさらしているとは驚きだ」
「なんでも、初対面のときに【嘘くさい笑顔だ】と、転校生に一発で見破られたらしい。それでコロッと恋に落ちたんだと」
「そうか。俺はいままで副会長の【腹黒さ】をチャームポイントとしてとらえていた。腹黒対抗馬の瑞貴も、このことを知れば、さぞかし残念に思うだろう」
「……大喜びで、傷口に塩を塗りにくるんじゃないのか?」
いつも瑞貴に噛みつかれている如月は、いまいち納得できていないようだった。
「とにかく、生徒会室が占拠されているのは由々しき事態だ。おまえ今日はどうする? いっそ風紀委員室へ来るか? 生徒会役員も転校生も、さすがにウチにまでは押し寄せてこないだろう」
「……いいのか?」
「ああ。ただし長期的に生徒会と慣れ合うつもりはない。あくまでも一時的避難だ」
「助かる。寮でもあいつらに付きまとわれて、困っていたところだ」
「……ん? 付きまとわれている?」
生徒会室を占拠されているだけではなく?
状況が把握できずに首をかしげていると、
「どうやら転校生の本命は俺らしい」
如月が実に迷惑そうに答えてくれた。
「……なるほど。モテる男は苦労するな。まあ頑張れ」
「棒読みの激励ありがとう」
それで嫉妬に狂った副会長たちが、如月の言うことを聞かなくなったと……そういうわけか。
恋は盲目とはいうが……それにしても……。
なにか……小骨が喉に引っかかっているような、この感覚はなんだろう。
如月が本気で手を回せば、副会長たちはリコールされ、理事長も転校生もただでは済まないだろう。こいつの実家は理事長など歯牙にもかけない日本屈指の大財閥だ。
そんな無敵の生徒会長が、受け身のまま黙って耐え続け、二週間も猶予を与えてくれていたことに、彼らは本当に気づいていないのか? そこまで愚かな奴らだったか?
如月はこの二週間、ひとりきりで生徒会の仕事をこなしていたという。
遅れていた書類も、提出期限ギリギリではあったが、完璧に仕上がってた。
そう……この男は遊び人にみえて、仕事となると常に完璧にこなす。完璧すぎるのだ。
それは逆に、他の生徒会役員の存在意義を、否定する行為ではなかったのか?
それが分かっていて如月もやっていたとしたら?
実はこいつも、意地になっていたのだとしたら?
如月は自分で処分すると言ってはいるが、二週間を待たずして俺に全ての事情を話してきた。
考えすぎかもしれないが、それが俺には、第三者が介入してほしいという、無意識のSOSに感じられたのだ。
(……一度、副会長たちとも会っておくか)
曲者ぞろいで面倒だが、如月にはオムライスとプリンの恩もある。
そういえば、硬いプリンは寮でも作れるのか?
瑞貴なら俺好みのものを作れるかもしれない。器用だから今度やらせてみるか。
「……藤堂? なにを考えている?」
「ん? 瑞貴の手作りプリンについてだ」
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