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地味な俺は拾われて届けられる(2―C教室編)
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※一般生徒目線です。
ふあああ、ずっと眠かったぜ。ホント勘弁して欲しい。
ようやく先生が出て行ってくれたので、大きく伸びをして肩をほぐした。周りの級友もみんな辛そうだった。
体育あとのこの授業は、俺達にとっては週に一度の苦行だから。
あの先生の声は、低くて抑揚が無く、聞き取りづらくてまるで呪文だ。
黒板の文字も小さくて読みづらいから、内容がちっとも頭に入ってこない。そのくせ、居眠りする生徒には厳しいもんだから、腹が立つったらまったく……。
眼鏡を外して、目元を指で揉みほぐしていると……
「え? 嘘! キャアアアアアアアッ! **様ァ!」
うわあっ! びっくりした!
教室の後ろで急に叫び声が!
いきなり、なに? 誰が来たって? 心臓止まりかけただろうが!
ドア付近に誰かが立っているのは分かったけど、眼鏡が無いと、ぼやけていて全然見えないんだよな。あっ……眼鏡汚れてるっぽい。気になる。拭こう。
モタモタしたあげくに、もう一度振り返ったときには、そこは人で溢れかえっていた。なんだよぉ、結局見えないじゃないか。ちぇっ。
あいつらのあの喜びようは……たぶん会計様がいらしたのかもしれない。いま先頭きってワイワイ騒いでいるグループは、会計様の親衛隊だから。
でも下っ端すぎてお傍に近づくことができないみたいで、何時も教室で愚痴っている。それなのに、下級生の誰かを裏で制裁した……なんて物騒な会話をこの間コソコソしているのをたまたま耳にした。きっと会計様から相手にされない鬱憤を、弱い者いじめで晴らしたんだろう。あいつら全員、親衛隊の上層部や、風紀にバレて痛い目にあっちゃえばいいのに。このクラスにも風紀がいるから相談してみようかな。でもうちの風紀はいかにも大柄な筋肉系で超怖えんだよなあ。反対の意味でそっちも苦手だ。悩む。
あー…それにしても、うるせえ。
まだキャーキャー声がする……。
俺は机に突っ伏して、居眠りを決め込むことにした。あいつらと一緒にミーハーみたいに騒ぐのが癪になってきたからだ。噂の会計様はちょっぴり見てみたいけど……すごく見たいけど……変な意地だ。自覚はある。
……それにしても、ずいぶん盛り上がっているな。
親衛隊の奴らどころか、教室中がざわめいている。隣りのクラスの生徒たちも異変に気付いたのか、廊下もどんどん騒がしくなってきた。
……会計様じゃないのか?
どよめきの種類が、いつもとは違う気がする。
不安に駆られて顔を上げかけたところで、ようやく教室が少し静かになった。やれやれ、会計様はいなくなったらしい。
潮が引くようにみんな席へと戻ってきたが、【カッコいい】【綺麗】【オーラが凄い】など、容姿を褒めちぎる言葉が次々と周囲から漏れ聞こえてくる。ふうん、ナマの会計様はそんなに凄いのか。
……などとボンヤリ考えていたら、ポンポンと肩を叩かれた。
あっ……さっき頭に浮かんだ強面の風紀委員だ。
んん? どうした? 顔がうっすら赤いぞ?
真面目そうなおまえでも、会計様に骨抜きにされたのか? だとしたら半端ねえな。
「おい、コレおまえの手帳か?」
「……へっ? そうだけど? あれ?」
彼から差し出されたものは、買ったばかりの俺の手帳だった。
慌てて周辺を探ってみたが無い。やっぱり俺のだ。
「なんでおまえが持ってるんだ?」
「……じゃあ、おまえのなんだな?」
「だからそうだって」
「体育館のそばに落ちていたそうだ」
「へ? そうなの? さんきゅ」
さっき更衣室へ移動する際にでも落としたんだろう。
ふい~。危ねえ、危ねえ。見られて困るような情報書きこんでなくて良かったぜ。
「……拾ったのは俺じゃない。ここまで届けてくださったのは風紀委員長の藤堂様だ」
「……はい?」
俺の聞き間違いかな? いまなんと?
「……ごめん。誰が届けてくれたって?」
「風紀委員長の藤堂様が拾って、ここまで届けてくださったんだ」
「……」
風紀委員長……風紀委員長って……。
藤堂様……え? あの……有名な……藤堂様?
生徒会長様と双璧の……壇上にも滅多に上がらない……あの? あの藤堂様?
突如登場した学園のラスボスに、思考回路がまったく追いつかない。
「あの方はお忙しいし、休み時間で時間も限られているから、俺がひとまず預かっておいた。確かに渡したぞ。藤堂様には俺から結果を伝えておく」
「……」
「皆あんなに大騒ぎしてたのに、おまえひとりだけ寝てるんだもんな。驚いたよ」
滅多に笑わない風紀委員が、苦笑しながら去って行った。
俺はポカンと大口を開けたまま、その背中を呆然と見送るしかなかった。
ふあああ、ずっと眠かったぜ。ホント勘弁して欲しい。
ようやく先生が出て行ってくれたので、大きく伸びをして肩をほぐした。周りの級友もみんな辛そうだった。
体育あとのこの授業は、俺達にとっては週に一度の苦行だから。
あの先生の声は、低くて抑揚が無く、聞き取りづらくてまるで呪文だ。
黒板の文字も小さくて読みづらいから、内容がちっとも頭に入ってこない。そのくせ、居眠りする生徒には厳しいもんだから、腹が立つったらまったく……。
眼鏡を外して、目元を指で揉みほぐしていると……
「え? 嘘! キャアアアアアアアッ! **様ァ!」
うわあっ! びっくりした!
教室の後ろで急に叫び声が!
いきなり、なに? 誰が来たって? 心臓止まりかけただろうが!
ドア付近に誰かが立っているのは分かったけど、眼鏡が無いと、ぼやけていて全然見えないんだよな。あっ……眼鏡汚れてるっぽい。気になる。拭こう。
モタモタしたあげくに、もう一度振り返ったときには、そこは人で溢れかえっていた。なんだよぉ、結局見えないじゃないか。ちぇっ。
あいつらのあの喜びようは……たぶん会計様がいらしたのかもしれない。いま先頭きってワイワイ騒いでいるグループは、会計様の親衛隊だから。
でも下っ端すぎてお傍に近づくことができないみたいで、何時も教室で愚痴っている。それなのに、下級生の誰かを裏で制裁した……なんて物騒な会話をこの間コソコソしているのをたまたま耳にした。きっと会計様から相手にされない鬱憤を、弱い者いじめで晴らしたんだろう。あいつら全員、親衛隊の上層部や、風紀にバレて痛い目にあっちゃえばいいのに。このクラスにも風紀がいるから相談してみようかな。でもうちの風紀はいかにも大柄な筋肉系で超怖えんだよなあ。反対の意味でそっちも苦手だ。悩む。
あー…それにしても、うるせえ。
まだキャーキャー声がする……。
俺は机に突っ伏して、居眠りを決め込むことにした。あいつらと一緒にミーハーみたいに騒ぐのが癪になってきたからだ。噂の会計様はちょっぴり見てみたいけど……すごく見たいけど……変な意地だ。自覚はある。
……それにしても、ずいぶん盛り上がっているな。
親衛隊の奴らどころか、教室中がざわめいている。隣りのクラスの生徒たちも異変に気付いたのか、廊下もどんどん騒がしくなってきた。
……会計様じゃないのか?
どよめきの種類が、いつもとは違う気がする。
不安に駆られて顔を上げかけたところで、ようやく教室が少し静かになった。やれやれ、会計様はいなくなったらしい。
潮が引くようにみんな席へと戻ってきたが、【カッコいい】【綺麗】【オーラが凄い】など、容姿を褒めちぎる言葉が次々と周囲から漏れ聞こえてくる。ふうん、ナマの会計様はそんなに凄いのか。
……などとボンヤリ考えていたら、ポンポンと肩を叩かれた。
あっ……さっき頭に浮かんだ強面の風紀委員だ。
んん? どうした? 顔がうっすら赤いぞ?
真面目そうなおまえでも、会計様に骨抜きにされたのか? だとしたら半端ねえな。
「おい、コレおまえの手帳か?」
「……へっ? そうだけど? あれ?」
彼から差し出されたものは、買ったばかりの俺の手帳だった。
慌てて周辺を探ってみたが無い。やっぱり俺のだ。
「なんでおまえが持ってるんだ?」
「……じゃあ、おまえのなんだな?」
「だからそうだって」
「体育館のそばに落ちていたそうだ」
「へ? そうなの? さんきゅ」
さっき更衣室へ移動する際にでも落としたんだろう。
ふい~。危ねえ、危ねえ。見られて困るような情報書きこんでなくて良かったぜ。
「……拾ったのは俺じゃない。ここまで届けてくださったのは風紀委員長の藤堂様だ」
「……はい?」
俺の聞き間違いかな? いまなんと?
「……ごめん。誰が届けてくれたって?」
「風紀委員長の藤堂様が拾って、ここまで届けてくださったんだ」
「……」
風紀委員長……風紀委員長って……。
藤堂様……え? あの……有名な……藤堂様?
生徒会長様と双璧の……壇上にも滅多に上がらない……あの? あの藤堂様?
突如登場した学園のラスボスに、思考回路がまったく追いつかない。
「あの方はお忙しいし、休み時間で時間も限られているから、俺がひとまず預かっておいた。確かに渡したぞ。藤堂様には俺から結果を伝えておく」
「……」
「皆あんなに大騒ぎしてたのに、おまえひとりだけ寝てるんだもんな。驚いたよ」
滅多に笑わない風紀委員が、苦笑しながら去って行った。
俺はポカンと大口を開けたまま、その背中を呆然と見送るしかなかった。
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