24 / 59
風紀委員長様は転校生と初めて話す(食堂編)
しおりを挟む
食堂に似つかわしくないバタバタした足音を響かせて、そのモサモサ頭の奇妙な生物は嬉しそうに近づいてきた。満面の笑みだ。
それとは対照的に、大声で【伊織】と名指しされた塚崎の顔色が、明らかに剣呑な表情に切り替わってしまった。
先程までの可愛らしいニャンコっぷりが見る影もない。
「久しぶりだな伊織! 最近全然会えてなかったから心配してたんだ。俺がいなくて寂しかっただろ?」
転校生から俺の顔を隠すようにして、塚崎が立ち上がった。
どうやら自分一人で処理するつもりらしい。
「……お久しぶりです。純太、お会いできたのは嬉しいですが、残念ながらここは役員以外は立ち入り禁止の場所です。お話しはまた次回会った時にしましょう。とりあえず一階へ……」
「なんでだよ。前はここで一緒に食べてたじゃないか。生徒会室にも寮にも急に入れなくなっちゃったし、同じ生徒なのに差別はいけないと思う。今日は俺もここで食べる。他人の目なんて気にするな。伊織もその方が楽しいだろ」
「いけません。さあ一階へ行きましょう。ここにいて罰を受けるのはあなただけなのですよ?」
「いやだっ! 伊織の意地っ張り!」
せっかく塚崎が差しのべた手を、バチンと乱暴に転校生は弾き返した。痛そうな音だった。転校生は噂通りの性格らしい。
しかし元はといえば、恋にトチ狂って転校生を優遇してしまった塚崎たちの自業自得なのだ。自分たちで蒔いた種は、最後まで責任を持って刈りとってほしい。俺は見守っているぞ。背後から飯を食いながら。この漬け物うまい。
そう思っていたのに、塚崎が少しズレたときに、転校生と目が合ってしまった。呆けたようにこちらを見つめている。
……俺の顔に、飯粒でも付いているのか?
「……お……まえ、すごくカッコイイな」
伊織を押しのけて、転校生がズンズンと目の前にやってきた。
テーブルに両手をバンと付き、目を爛々と輝かせて、俺の顔面をいろいろな角度から覗きこんでくる。慌てた塚崎が転校生の肩に手をかけようとしたが、俺は目で制した。
「俺は一年の高宮純太だ。おまえの名前は? 俺と友達になろう」
ニパッと笑顔満開で話しかけられた。
……よくその恥ずかしいナリで自己紹介できるな。
いかにもカツラの不潔そうなモジャモジャ頭に、顔の半分をしめる伊達っぽいダサ黒縁眼鏡。小柄なので頭でっかちに見える。
とにかく【素顔隠している感】がすごい。
たぶん変装といたら美少年とか、そんな在り来たりな秘密なのだろうが、興味が湧かないから触れる気も起こらない。
「俺は風紀委員長の藤堂だ」
「下の名前は? あっ、俺のことは純太って呼んでいいぞ。みんなそう呼んでる。みんな友達だからな」
立ち上がってまで相手をする人物でもなさそうだ。
「先ほど副会長が警告した通り、ここは役員以外立ち入り禁止だ。速やかに一階へ降りろ。従わない場合は、風紀委員としてそれなりの対処をする」
「……初対面の人間にそんな失礼なこと言ったらダメだぞ。俺は気にしないけど今度から気をつけろよ? それより下の名前は? 友達になってやるって言ってんだろ」
以前、如月奪還のために、俺の部屋を急襲したことを覚えていないのか?
自分に都合が悪いことは忘れる頭らしい。
「……そうか、そんなに俺と友達になりたいのか?」
「うん。なりたい」
「どうしても? 名前も知りたい?」
「うん!」
転校生の背後では、塚崎が探るような眼差しでこちらを見ている。
「なら、その口調を改めてくれないか。俺は下級生からそういうふうに話しかけられるのに慣れていないんだ。副会長もそれが分かっているから、俺にはすごく丁寧な口調で話しかけてくれる。だから一緒に食事をする程の友達になれたんだ。なあ【伊織】? そうだよな?」
「……はっ? え、ええ、そうですね」
塚崎がコクコクと頷いた。耳が赤いがどうした?
「……でも、俺はおまえと対等に話したい。友達ってそういうもんだろ?」
転校生は腑に落ちないようだ。
「そうか。それなら残念だが話はこれで終わりだ。ここにはキミが座る席は無い。邪魔だから出ていってくれないか。……ほら【伊織】、いつまでも立ってないで座れよ。食事の続きをしようじゃないか」
俺は初めて転校生の前で笑みを浮かべた。
ことさら優しい口調で、塚崎へテーブルにつくように促すと、ギクシャクとしながらも彼は従った。……だから顔が真っ赤なんだが、どうしたんだ?
「【伊織】……キミは【そこの転校生よりも】俺の願いに耳を傾けてくれるし、礼儀正しくて思いやりがある。そういう優しいキミだからこそ、友達になれたんだ。大好きだよ、【伊織】……俺の親友はキミだけだ。キミもそうだろう?」
「……は、はい。そ……そうです……ね」
「おっ……俺だって出来るぞ! こっちむけよ! 無視すんな!」
いないように扱われて、転校生が癇癪を起こした。
こんなに高速で地団太を踏む奴を、リアルで初めて見たぞ。
「……本当に? キミに出来るのか? それなら自己紹介から仕切り直そう。……ほら、やってみてくれないか」
「……え……あ……もういいだろ。さっきしたんだから」
「口調が全然直ってないな。いま言ったことは嘘だったのか?」
冷たい眼差しで指摘する。
「うっ、嘘じゃない……です」
「いい子だな。ほら自己紹介してみろ。聞いてやる。……相手がキミだから、聞いてやるんだ」
柔らかく自尊心を刺激してやれば、転校生はごくりと唾を飲みこんだ。
認められるのに必死で、上下関係が逆になったことも気づかない。
「……俺の名前は、高宮純太だ……です。一年生です。と、友達に……なって……くれ、……くれませんか」
塚崎が目を瞠った。
転校生の敬語を初めて聞いたのかもしれない。
俺が返事をしないでいると、
「これでいいだろ! 俺と友達になれ! 下の名前教えろ!」
また転校生が駄々をこねだした。十秒も我慢が効かない体質らしい。
からかうのも飽きてきたな。
転校生の人となりも把握したことだし、そろそろ風紀委員として対処しようか……と思いかけたのだが、
「……おまえごときが委員長と友達に? ふざけるな。身の程知らずのウジ虫が……いますぐ殺す。グッチャグチャに叩き潰す」
……早かったな、瑞貴。
仮にもおまえは風紀委員だろう?
グッチャグチャは、さすがにマズイと思うぞ?
それとは対照的に、大声で【伊織】と名指しされた塚崎の顔色が、明らかに剣呑な表情に切り替わってしまった。
先程までの可愛らしいニャンコっぷりが見る影もない。
「久しぶりだな伊織! 最近全然会えてなかったから心配してたんだ。俺がいなくて寂しかっただろ?」
転校生から俺の顔を隠すようにして、塚崎が立ち上がった。
どうやら自分一人で処理するつもりらしい。
「……お久しぶりです。純太、お会いできたのは嬉しいですが、残念ながらここは役員以外は立ち入り禁止の場所です。お話しはまた次回会った時にしましょう。とりあえず一階へ……」
「なんでだよ。前はここで一緒に食べてたじゃないか。生徒会室にも寮にも急に入れなくなっちゃったし、同じ生徒なのに差別はいけないと思う。今日は俺もここで食べる。他人の目なんて気にするな。伊織もその方が楽しいだろ」
「いけません。さあ一階へ行きましょう。ここにいて罰を受けるのはあなただけなのですよ?」
「いやだっ! 伊織の意地っ張り!」
せっかく塚崎が差しのべた手を、バチンと乱暴に転校生は弾き返した。痛そうな音だった。転校生は噂通りの性格らしい。
しかし元はといえば、恋にトチ狂って転校生を優遇してしまった塚崎たちの自業自得なのだ。自分たちで蒔いた種は、最後まで責任を持って刈りとってほしい。俺は見守っているぞ。背後から飯を食いながら。この漬け物うまい。
そう思っていたのに、塚崎が少しズレたときに、転校生と目が合ってしまった。呆けたようにこちらを見つめている。
……俺の顔に、飯粒でも付いているのか?
「……お……まえ、すごくカッコイイな」
伊織を押しのけて、転校生がズンズンと目の前にやってきた。
テーブルに両手をバンと付き、目を爛々と輝かせて、俺の顔面をいろいろな角度から覗きこんでくる。慌てた塚崎が転校生の肩に手をかけようとしたが、俺は目で制した。
「俺は一年の高宮純太だ。おまえの名前は? 俺と友達になろう」
ニパッと笑顔満開で話しかけられた。
……よくその恥ずかしいナリで自己紹介できるな。
いかにもカツラの不潔そうなモジャモジャ頭に、顔の半分をしめる伊達っぽいダサ黒縁眼鏡。小柄なので頭でっかちに見える。
とにかく【素顔隠している感】がすごい。
たぶん変装といたら美少年とか、そんな在り来たりな秘密なのだろうが、興味が湧かないから触れる気も起こらない。
「俺は風紀委員長の藤堂だ」
「下の名前は? あっ、俺のことは純太って呼んでいいぞ。みんなそう呼んでる。みんな友達だからな」
立ち上がってまで相手をする人物でもなさそうだ。
「先ほど副会長が警告した通り、ここは役員以外立ち入り禁止だ。速やかに一階へ降りろ。従わない場合は、風紀委員としてそれなりの対処をする」
「……初対面の人間にそんな失礼なこと言ったらダメだぞ。俺は気にしないけど今度から気をつけろよ? それより下の名前は? 友達になってやるって言ってんだろ」
以前、如月奪還のために、俺の部屋を急襲したことを覚えていないのか?
自分に都合が悪いことは忘れる頭らしい。
「……そうか、そんなに俺と友達になりたいのか?」
「うん。なりたい」
「どうしても? 名前も知りたい?」
「うん!」
転校生の背後では、塚崎が探るような眼差しでこちらを見ている。
「なら、その口調を改めてくれないか。俺は下級生からそういうふうに話しかけられるのに慣れていないんだ。副会長もそれが分かっているから、俺にはすごく丁寧な口調で話しかけてくれる。だから一緒に食事をする程の友達になれたんだ。なあ【伊織】? そうだよな?」
「……はっ? え、ええ、そうですね」
塚崎がコクコクと頷いた。耳が赤いがどうした?
「……でも、俺はおまえと対等に話したい。友達ってそういうもんだろ?」
転校生は腑に落ちないようだ。
「そうか。それなら残念だが話はこれで終わりだ。ここにはキミが座る席は無い。邪魔だから出ていってくれないか。……ほら【伊織】、いつまでも立ってないで座れよ。食事の続きをしようじゃないか」
俺は初めて転校生の前で笑みを浮かべた。
ことさら優しい口調で、塚崎へテーブルにつくように促すと、ギクシャクとしながらも彼は従った。……だから顔が真っ赤なんだが、どうしたんだ?
「【伊織】……キミは【そこの転校生よりも】俺の願いに耳を傾けてくれるし、礼儀正しくて思いやりがある。そういう優しいキミだからこそ、友達になれたんだ。大好きだよ、【伊織】……俺の親友はキミだけだ。キミもそうだろう?」
「……は、はい。そ……そうです……ね」
「おっ……俺だって出来るぞ! こっちむけよ! 無視すんな!」
いないように扱われて、転校生が癇癪を起こした。
こんなに高速で地団太を踏む奴を、リアルで初めて見たぞ。
「……本当に? キミに出来るのか? それなら自己紹介から仕切り直そう。……ほら、やってみてくれないか」
「……え……あ……もういいだろ。さっきしたんだから」
「口調が全然直ってないな。いま言ったことは嘘だったのか?」
冷たい眼差しで指摘する。
「うっ、嘘じゃない……です」
「いい子だな。ほら自己紹介してみろ。聞いてやる。……相手がキミだから、聞いてやるんだ」
柔らかく自尊心を刺激してやれば、転校生はごくりと唾を飲みこんだ。
認められるのに必死で、上下関係が逆になったことも気づかない。
「……俺の名前は、高宮純太だ……です。一年生です。と、友達に……なって……くれ、……くれませんか」
塚崎が目を瞠った。
転校生の敬語を初めて聞いたのかもしれない。
俺が返事をしないでいると、
「これでいいだろ! 俺と友達になれ! 下の名前教えろ!」
また転校生が駄々をこねだした。十秒も我慢が効かない体質らしい。
からかうのも飽きてきたな。
転校生の人となりも把握したことだし、そろそろ風紀委員として対処しようか……と思いかけたのだが、
「……おまえごときが委員長と友達に? ふざけるな。身の程知らずのウジ虫が……いますぐ殺す。グッチャグチャに叩き潰す」
……早かったな、瑞貴。
仮にもおまえは風紀委員だろう?
グッチャグチャは、さすがにマズイと思うぞ?
63
あなたにおすすめの小説
平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)
優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。
本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
普通の男の子がヤンデレや変態に愛されるだけの短編集、はじめました。
山田ハメ太郎
BL
タイトル通りです。
お話ごとに章分けしており、ひとつの章が大体1万文字以下のショート詰め合わせです。
サクッと読めますので、お好きなお話からどうぞ。
俺にだけ厳しい幼馴染とストーカー事件を調査した結果、結果、とんでもない事実が判明した
あと
BL
「また物が置かれてる!」
最近ポストやバイト先に物が贈られるなどストーカー行為に悩まされている主人公。物理的被害はないため、警察は動かないだろうから、自分にだけ厳しいチャラ男幼馴染を味方につけ、自分たちだけで調査することに。なんとかストーカーを捕まえるが、違和感は残り、物語は意外な方向に…?
⚠️ヤンデレ、ストーカー要素が含まれています。
攻めが重度のヤンデレです。自衛してください。
ちょっと怖い場面が含まれています。
ミステリー要素があります。
一応ハピエンです。
主人公:七瀬明
幼馴染:月城颯
ストーカー:不明
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
内容も時々サイレント修正するかもです。
定期的にタグ整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果
ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。
そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。
2023/04/06 後日談追加
平凡なぼくが男子校でイケメンたちに囲まれています
七瀬
BL
あらすじ
春の空の下、名門私立蒼嶺(そうれい)学園に入学した柊凛音(ひいらぎ りおん)。全寮制男子校という新しい環境で、彼の無自覚な美しさと天然な魅力が、周囲の男たちを次々と虜にしていく——。
政治家や実業家の子息が通う格式高い学園で、凛音は完璧な兄・蒼真(そうま)への憧れを胸に、新たな青春を歩み始める。しかし、彼の純粋で愛らしい存在は、学園の秩序を静かに揺るがしていく。
****
初投稿なので優しい目で見守ってくださると助かります‼️ご指摘などございましたら、気軽にコメントよろしくお願いしますm(_ _)m
イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした
天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです!
元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。
持ち主は、顔面国宝の一年生。
なんで俺の写真? なんでロック画?
問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。
頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ!
☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる