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風紀委員長様は貢がれる(自室編)
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「……如月。俺はおまえと友人になれて幸せだ」
「そうだろう。そうだろうとも。なんなら恋人に昇格してもいいんだぞ?」
何か言われたようだが、全く頭に入ってこない。それどころではない。
俺の意識も目線も、テーブル上の一点にそそがれているからだ。
(なんて美味そうなチーズケーキなんだっ!)
如月が部屋へと上がりこんできた時刻は、夕飯時よりもだいぶ早かった。
まだ何の準備もしていないのに……、戸惑う俺に差し出されたものが、この宝箱だったのだ。
しかも料理研究部の部長が、わざわざ手作りしてくれたそうだ。親しくもない俺の為に何故? 隣りのクラスだというから、近日中に挨拶に行こう。きっと天使に違いない。
「如月ありがとう。これを心の糧にして、いろいろ頑張れそうだ」
「それは良かった」
「そんなわけで、おまえは一旦部屋に戻ってくれ」
「はあ? なにを言ってる?」
「見ての通り、夕飯の仕度をまだ何もしていないんだ。その間おまえは暇だろう? 自分の部屋で待っている方がくつろげるんじゃないか?」
「それなら気にするな。前に一泊して、この部屋にもだいぶ慣れた。部屋へ戻るのも面倒だから、適当にくつろがせてもらう」
「……ならいいが」
「それと、あとひとつ……料理部長からおまえへのプレゼントだ」
なんだとっ! 俺は前世でとんでもない徳でも積んだのか!
期待に打ち震えながら、如月が差し出した紙袋を受け取る。
そっと開くと……そんな! まさか! 嘘だろう?
「菓子じゃないだとっ!」
「……いや、おまえどんだけ甘党なんだよ。チーズケーキじゃまだ足りねえか?」
「すまない。勝手に期待して勝手に落胆した俺が全面的に悪い。……ところで、なぜ部長が俺にコレを?」
広げてみれば、それはどこからどう見てもエプロンだった。
「おまえが自炊していると話したら、ついでにくれたんだ。……丁度いいじゃねえか。これから夕飯作るんだろ? はおってみろよ」
「しかし……」
「料理研究部にはエプロンが山ほどあるらしい。今年は部員が少なかったから在庫が余っていると嘆いていた。在庫処分だ。素直に受け取ってやれ」
「……そういうことなら」
そこまで言われては、突き返す理由もない。
ありがたく受け取ることにしよう。
俺が普段エプロンをしない理由は、単に紐を結ぶのが面倒だからだ。
だがコレは、上からすっぽりと被れるサロペットエプロンだった。若竹色なのも上品で良い。厚みのある混紡素材でシワになりにくそうだ。なるほど、着丈も簡単に調節できるのか……これから俺にもラクラク扱えそうだ。さっそく着てみよう。
(……若干、裾が気になるな)
ウエストから下が、やけにふんわりしている、
添付されていた商品説明書によると、「男女兼用」らしい。【気になる腰回りやお尻がカバーできる、お洒落なゆったりデザイン】と書いてあった。……どうりで。
素朴な疑問なのだが、男子校なのになぜ男女兼用を購入したのだろう? 在庫が余った件といい、如月の友人は、少々うっかり屋さんなのかもしれない。
「ふうん、似合ってんじゃねえか」
如月は革張りのソファで足を組み、片肘を背もたれに投げ出しながら、満足げにコチラを眺めている。訪問五分で、まるでアラブの王様のような馴染みっぷりだ。
「藤堂は全体的に色素が薄いから、淡い色を着ると透明感が際立っていいな。目も緑がかったヘーゼルだし」
「色素が薄くて透明感が増すというのは、存在感が薄くなるという事か?」
「違えよ」
「違うのか」
俺の色素が薄いのは、母方の祖母が北欧系の外国人だからだ。
そういえば、この学園に入学した当初は、髪を染めているのか、カラーコンタクトをしているのかと、教師や風紀委員から散々指摘された覚えがある。煩わしくなり疑惑を晴らした途端、まんまと風紀委員に任命されてしまった。疑われたままの方が楽だったと今でも後悔している。
ケーキを冷蔵庫へ入れ、俺はキッチンで準備を始めた。
ハンバーグの材料を、粘りが出るまでよく混ぜる。ひたすら混ぜる。
(照り焼きソースにでもするか)
「……如月。照り焼き風味でも大丈夫か?」
「ああ。ちなみに今なにを作ってくれているんだ?」
「ハンバーグだ」
「藤堂の手作りハンバーグか。肉料理は好物だから楽しみだ」
「それは良かった。焦げないように祈っててくれ」
「了解」
リビングに背中を向けたまま、ノールックで時折如月と会話する。
誰かの為に料理を作るのは、やっぱり楽しい。
前の時に邪魔者扱いしたせいか、今日の如月はキッチンには近寄ってこなかった。
そうだ。さっぱりしたものも作ろう。
白ネギで簡単な和え物でも……あっ、思い出した。
「そういえば、先程おまえの親衛隊……世羅に挨拶をされたのだが」
「ああっ? なんだとコラ。詳しく話せ」
……背中にとてつもない冷気を感じる。
どうやら俺は、踏まなくてもいい地雷を踏んでしまったようだ。
「そうだろう。そうだろうとも。なんなら恋人に昇格してもいいんだぞ?」
何か言われたようだが、全く頭に入ってこない。それどころではない。
俺の意識も目線も、テーブル上の一点にそそがれているからだ。
(なんて美味そうなチーズケーキなんだっ!)
如月が部屋へと上がりこんできた時刻は、夕飯時よりもだいぶ早かった。
まだ何の準備もしていないのに……、戸惑う俺に差し出されたものが、この宝箱だったのだ。
しかも料理研究部の部長が、わざわざ手作りしてくれたそうだ。親しくもない俺の為に何故? 隣りのクラスだというから、近日中に挨拶に行こう。きっと天使に違いない。
「如月ありがとう。これを心の糧にして、いろいろ頑張れそうだ」
「それは良かった」
「そんなわけで、おまえは一旦部屋に戻ってくれ」
「はあ? なにを言ってる?」
「見ての通り、夕飯の仕度をまだ何もしていないんだ。その間おまえは暇だろう? 自分の部屋で待っている方がくつろげるんじゃないか?」
「それなら気にするな。前に一泊して、この部屋にもだいぶ慣れた。部屋へ戻るのも面倒だから、適当にくつろがせてもらう」
「……ならいいが」
「それと、あとひとつ……料理部長からおまえへのプレゼントだ」
なんだとっ! 俺は前世でとんでもない徳でも積んだのか!
期待に打ち震えながら、如月が差し出した紙袋を受け取る。
そっと開くと……そんな! まさか! 嘘だろう?
「菓子じゃないだとっ!」
「……いや、おまえどんだけ甘党なんだよ。チーズケーキじゃまだ足りねえか?」
「すまない。勝手に期待して勝手に落胆した俺が全面的に悪い。……ところで、なぜ部長が俺にコレを?」
広げてみれば、それはどこからどう見てもエプロンだった。
「おまえが自炊していると話したら、ついでにくれたんだ。……丁度いいじゃねえか。これから夕飯作るんだろ? はおってみろよ」
「しかし……」
「料理研究部にはエプロンが山ほどあるらしい。今年は部員が少なかったから在庫が余っていると嘆いていた。在庫処分だ。素直に受け取ってやれ」
「……そういうことなら」
そこまで言われては、突き返す理由もない。
ありがたく受け取ることにしよう。
俺が普段エプロンをしない理由は、単に紐を結ぶのが面倒だからだ。
だがコレは、上からすっぽりと被れるサロペットエプロンだった。若竹色なのも上品で良い。厚みのある混紡素材でシワになりにくそうだ。なるほど、着丈も簡単に調節できるのか……これから俺にもラクラク扱えそうだ。さっそく着てみよう。
(……若干、裾が気になるな)
ウエストから下が、やけにふんわりしている、
添付されていた商品説明書によると、「男女兼用」らしい。【気になる腰回りやお尻がカバーできる、お洒落なゆったりデザイン】と書いてあった。……どうりで。
素朴な疑問なのだが、男子校なのになぜ男女兼用を購入したのだろう? 在庫が余った件といい、如月の友人は、少々うっかり屋さんなのかもしれない。
「ふうん、似合ってんじゃねえか」
如月は革張りのソファで足を組み、片肘を背もたれに投げ出しながら、満足げにコチラを眺めている。訪問五分で、まるでアラブの王様のような馴染みっぷりだ。
「藤堂は全体的に色素が薄いから、淡い色を着ると透明感が際立っていいな。目も緑がかったヘーゼルだし」
「色素が薄くて透明感が増すというのは、存在感が薄くなるという事か?」
「違えよ」
「違うのか」
俺の色素が薄いのは、母方の祖母が北欧系の外国人だからだ。
そういえば、この学園に入学した当初は、髪を染めているのか、カラーコンタクトをしているのかと、教師や風紀委員から散々指摘された覚えがある。煩わしくなり疑惑を晴らした途端、まんまと風紀委員に任命されてしまった。疑われたままの方が楽だったと今でも後悔している。
ケーキを冷蔵庫へ入れ、俺はキッチンで準備を始めた。
ハンバーグの材料を、粘りが出るまでよく混ぜる。ひたすら混ぜる。
(照り焼きソースにでもするか)
「……如月。照り焼き風味でも大丈夫か?」
「ああ。ちなみに今なにを作ってくれているんだ?」
「ハンバーグだ」
「藤堂の手作りハンバーグか。肉料理は好物だから楽しみだ」
「それは良かった。焦げないように祈っててくれ」
「了解」
リビングに背中を向けたまま、ノールックで時折如月と会話する。
誰かの為に料理を作るのは、やっぱり楽しい。
前の時に邪魔者扱いしたせいか、今日の如月はキッチンには近寄ってこなかった。
そうだ。さっぱりしたものも作ろう。
白ネギで簡単な和え物でも……あっ、思い出した。
「そういえば、先程おまえの親衛隊……世羅に挨拶をされたのだが」
「ああっ? なんだとコラ。詳しく話せ」
……背中にとてつもない冷気を感じる。
どうやら俺は、踏まなくてもいい地雷を踏んでしまったようだ。
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