55 / 59
風紀委員長様は父親と再会する(休日編)
しおりを挟む
外泊届けを持ってきてくれた瑞貴と、俺の部屋から出ていくところだった如月が、ものの見事に鉢合わせをした。
悪ノリした如月が、瑞貴を通さずに玄関口で立ちふさがっている。獲物を捕らえた背中がとても楽しそうだ。
「如月会長! あんたここで何してるんですかっ!」
「何って、愛する藤堂としっぽりナニしてただけだが?」
「……今すぐオモテへ出ろ。コロス」
「言われなくても出るところだ。じゃあな藤堂」
「ああ」
殺気だつ後輩へと平気で背を向け、如月は去っていった。
すかさず追いかけようとした瑞貴を、首根っこを捕まえて捕獲する。
「こらこら瑞貴、方向が違う」
「なぜバ会長がここにいるんですか! 無事ですか! おかしなことはされてませんか!」
「おかしなことはされていないが、お菓子はもらったな」
「真顔でふざけないでください! 人がちょっと目を離した隙に何され……いや、したのか? あんたが招いたのか? どっちだ? ええい吐け! 洗いざらい全部吐きやがれ!」
瑞貴が敬語を吹き飛ばすほどに混乱している。
普段の猫かぶり瑞貴も可愛いが、化けの皮がはがれた瑞貴もとても可愛らしい。むくれるネコの機嫌を適当に取りながら、午前中は平穏に過ごしたのだった。
キッチンで昼食を作り始めた時に、瑞貴からの電話が鳴った。
『いま留司様から電話がありました。理事長室を出られて、こちらへと向かわれています』
「……随分早いな。なら、下まで迎えに行くか」
『それが、ついでに私の部屋も見学したいとの仰せで……』
「わかった。手間をかける」
……どうしたものか。
軽い昼食でチャチャッとすませるつもりだったが、父の分も作った方がいいのか? そもそもド素人の料理が、あの人の口に合うのか?
冷蔵庫の中身と相談する。恐ろしいほどに何も浮かばない。
……まあいい。こうなったら、作りかけだった料理をかさ増しするだけだ。俺は開き直ってキッチンでの作業を再開した。
待ち人到着の知らせに、玄関へと向かう。
若干緊張しつつ扉を開ければ、懐かしい人物がスーツ姿で立っていた。
「……玲」
甘く名を呼ぶ声も、ふんわりと細められた瞳も、二年前と少しも変わらない。相手が醸し出す優しい雰囲気に、こちらも自然に顔がほころんだ。
「お久しぶりです。お父さん」
そう挨拶をした直後、俺は手首を掴まれ、逞しい腕の中へと囚われていた。嗅ぎなれたコロンの香りが、この二年で生まれた距離感を一瞬で吹き飛ばす。
「……ようやくだ」
「……」
「ようやく会えた。私の玲」
艶のある囁きに鼓膜をなぞられ、ぞくりと反射的に背筋が震えた。服越しに指が食い込むほどに、強く抱きしめられている。体格差があり身動きが取れない。苦しい。
「……うっ」
たまらずうめけば、ハッとしたように力がゆるめられた。少し身体を離した父は、俺の顎を持ち上げて、心配そうに覗き込んでくる。
そのまま優しく頬を撫でられ、額にそっとキスをされた。
小さなリップ音は、こめかみやまぶた、頬へと滑っていき、最終的に唇にまで躊躇なくキスをされる。
この調子で、俺はファーストキスもセカンドキスも、ちゅっちゅ、ちゅっちゅとこの人に奪われてきた。幼い頃に本気でこばんだら、それ以上に大人げなくすねられたので、この挨拶は継続されている。
幼児が大人に駄々を捏ねられて渋々折れたのだ。どういう環境だ。
いまも一向に、キスと抱擁の嵐が止みそうにない。離れていた二年間で、父の偏愛っぷりにますます磨きがかかったようだ。
「夢じゃないんだね……本物の玲だ……。ずっとこのまま抱きしめていたい」
「それだと日が暮れますので、そろそろ中へと入りましょうか」
「ふふ、そのつれない態度……正真正銘、私の玲だね」
微笑む父の頬に、俺は軽くキスを返した。
「――ッ!」
「誤解しないでください。俺も会えて嬉しいんです。ただお父さんの勢いに押されて、なかなか挨拶を返せなかっただけで……」
「……」
「お元気そうですね。安心しました」
「――玲っ!」
また腰を引き寄せられ、顔中に唇を押し付けられた。
……いつになったら、玄関から抜け出せるんだ?
いい加減に腹もすいてきたので、俺は今度こそ父を引きはがし、リビングへとあげたのだった。
「……驚いた。玲の手料理は絶品だね。感動して涙が出そうだ」
ただの味噌汁なのだが、感慨深げに父は飲んでくれている。
豚バラとピーマンの炒め物に、豆腐と玉ねぎの味噌汁、漬物とサラダという、超シンプルな料理なのだが、すこぶるお気に召したようだ。
早々にスーツの上着を脱いでネクタイをゆるめた父は、笑顔を浮かべて、すっかりリラックスモードだ。ラフな姿でも、いちいち大人の色香をまとっていて、むかつくほどにカッコいい。
「ここの住み心地はどうだい?」
「充分すぎるほどです」
「それは良かった。天真の感想とは大違いだね。アレには狭苦しい寮生活が合わなかったようだが……。天真が一人暮らしを始めたのは知ってる?」
「いいえ。つい最近、電話をもらいましたが、そういった話は出ませんでした」
「へえ。やり取りしてたの? 意外だなあ」
「いろいろと、気にかけてくれています」
……だいぶ省略したが、嘘は言っていない。
悪ノリした如月が、瑞貴を通さずに玄関口で立ちふさがっている。獲物を捕らえた背中がとても楽しそうだ。
「如月会長! あんたここで何してるんですかっ!」
「何って、愛する藤堂としっぽりナニしてただけだが?」
「……今すぐオモテへ出ろ。コロス」
「言われなくても出るところだ。じゃあな藤堂」
「ああ」
殺気だつ後輩へと平気で背を向け、如月は去っていった。
すかさず追いかけようとした瑞貴を、首根っこを捕まえて捕獲する。
「こらこら瑞貴、方向が違う」
「なぜバ会長がここにいるんですか! 無事ですか! おかしなことはされてませんか!」
「おかしなことはされていないが、お菓子はもらったな」
「真顔でふざけないでください! 人がちょっと目を離した隙に何され……いや、したのか? あんたが招いたのか? どっちだ? ええい吐け! 洗いざらい全部吐きやがれ!」
瑞貴が敬語を吹き飛ばすほどに混乱している。
普段の猫かぶり瑞貴も可愛いが、化けの皮がはがれた瑞貴もとても可愛らしい。むくれるネコの機嫌を適当に取りながら、午前中は平穏に過ごしたのだった。
キッチンで昼食を作り始めた時に、瑞貴からの電話が鳴った。
『いま留司様から電話がありました。理事長室を出られて、こちらへと向かわれています』
「……随分早いな。なら、下まで迎えに行くか」
『それが、ついでに私の部屋も見学したいとの仰せで……』
「わかった。手間をかける」
……どうしたものか。
軽い昼食でチャチャッとすませるつもりだったが、父の分も作った方がいいのか? そもそもド素人の料理が、あの人の口に合うのか?
冷蔵庫の中身と相談する。恐ろしいほどに何も浮かばない。
……まあいい。こうなったら、作りかけだった料理をかさ増しするだけだ。俺は開き直ってキッチンでの作業を再開した。
待ち人到着の知らせに、玄関へと向かう。
若干緊張しつつ扉を開ければ、懐かしい人物がスーツ姿で立っていた。
「……玲」
甘く名を呼ぶ声も、ふんわりと細められた瞳も、二年前と少しも変わらない。相手が醸し出す優しい雰囲気に、こちらも自然に顔がほころんだ。
「お久しぶりです。お父さん」
そう挨拶をした直後、俺は手首を掴まれ、逞しい腕の中へと囚われていた。嗅ぎなれたコロンの香りが、この二年で生まれた距離感を一瞬で吹き飛ばす。
「……ようやくだ」
「……」
「ようやく会えた。私の玲」
艶のある囁きに鼓膜をなぞられ、ぞくりと反射的に背筋が震えた。服越しに指が食い込むほどに、強く抱きしめられている。体格差があり身動きが取れない。苦しい。
「……うっ」
たまらずうめけば、ハッとしたように力がゆるめられた。少し身体を離した父は、俺の顎を持ち上げて、心配そうに覗き込んでくる。
そのまま優しく頬を撫でられ、額にそっとキスをされた。
小さなリップ音は、こめかみやまぶた、頬へと滑っていき、最終的に唇にまで躊躇なくキスをされる。
この調子で、俺はファーストキスもセカンドキスも、ちゅっちゅ、ちゅっちゅとこの人に奪われてきた。幼い頃に本気でこばんだら、それ以上に大人げなくすねられたので、この挨拶は継続されている。
幼児が大人に駄々を捏ねられて渋々折れたのだ。どういう環境だ。
いまも一向に、キスと抱擁の嵐が止みそうにない。離れていた二年間で、父の偏愛っぷりにますます磨きがかかったようだ。
「夢じゃないんだね……本物の玲だ……。ずっとこのまま抱きしめていたい」
「それだと日が暮れますので、そろそろ中へと入りましょうか」
「ふふ、そのつれない態度……正真正銘、私の玲だね」
微笑む父の頬に、俺は軽くキスを返した。
「――ッ!」
「誤解しないでください。俺も会えて嬉しいんです。ただお父さんの勢いに押されて、なかなか挨拶を返せなかっただけで……」
「……」
「お元気そうですね。安心しました」
「――玲っ!」
また腰を引き寄せられ、顔中に唇を押し付けられた。
……いつになったら、玄関から抜け出せるんだ?
いい加減に腹もすいてきたので、俺は今度こそ父を引きはがし、リビングへとあげたのだった。
「……驚いた。玲の手料理は絶品だね。感動して涙が出そうだ」
ただの味噌汁なのだが、感慨深げに父は飲んでくれている。
豚バラとピーマンの炒め物に、豆腐と玉ねぎの味噌汁、漬物とサラダという、超シンプルな料理なのだが、すこぶるお気に召したようだ。
早々にスーツの上着を脱いでネクタイをゆるめた父は、笑顔を浮かべて、すっかりリラックスモードだ。ラフな姿でも、いちいち大人の色香をまとっていて、むかつくほどにカッコいい。
「ここの住み心地はどうだい?」
「充分すぎるほどです」
「それは良かった。天真の感想とは大違いだね。アレには狭苦しい寮生活が合わなかったようだが……。天真が一人暮らしを始めたのは知ってる?」
「いいえ。つい最近、電話をもらいましたが、そういった話は出ませんでした」
「へえ。やり取りしてたの? 意外だなあ」
「いろいろと、気にかけてくれています」
……だいぶ省略したが、嘘は言っていない。
67
あなたにおすすめの小説
平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)
優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。
本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
普通の男の子がヤンデレや変態に愛されるだけの短編集、はじめました。
山田ハメ太郎
BL
タイトル通りです。
お話ごとに章分けしており、ひとつの章が大体1万文字以下のショート詰め合わせです。
サクッと読めますので、お好きなお話からどうぞ。
俺にだけ厳しい幼馴染とストーカー事件を調査した結果、結果、とんでもない事実が判明した
あと
BL
「また物が置かれてる!」
最近ポストやバイト先に物が贈られるなどストーカー行為に悩まされている主人公。物理的被害はないため、警察は動かないだろうから、自分にだけ厳しいチャラ男幼馴染を味方につけ、自分たちだけで調査することに。なんとかストーカーを捕まえるが、違和感は残り、物語は意外な方向に…?
⚠️ヤンデレ、ストーカー要素が含まれています。
攻めが重度のヤンデレです。自衛してください。
ちょっと怖い場面が含まれています。
ミステリー要素があります。
一応ハピエンです。
主人公:七瀬明
幼馴染:月城颯
ストーカー:不明
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
内容も時々サイレント修正するかもです。
定期的にタグ整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果
ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。
そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。
2023/04/06 後日談追加
平凡なぼくが男子校でイケメンたちに囲まれています
七瀬
BL
あらすじ
春の空の下、名門私立蒼嶺(そうれい)学園に入学した柊凛音(ひいらぎ りおん)。全寮制男子校という新しい環境で、彼の無自覚な美しさと天然な魅力が、周囲の男たちを次々と虜にしていく——。
政治家や実業家の子息が通う格式高い学園で、凛音は完璧な兄・蒼真(そうま)への憧れを胸に、新たな青春を歩み始める。しかし、彼の純粋で愛らしい存在は、学園の秩序を静かに揺るがしていく。
****
初投稿なので優しい目で見守ってくださると助かります‼️ご指摘などございましたら、気軽にコメントよろしくお願いしますm(_ _)m
イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした
天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです!
元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。
持ち主は、顔面国宝の一年生。
なんで俺の写真? なんでロック画?
問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。
頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ!
☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる