風紀委員長様は今日もお仕事

白光猫(しろみつにゃん)

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風紀委員長様は父親と再会する(休日編)

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 外泊届けを持ってきてくれた瑞貴と、俺の部屋から出ていくところだった如月が、ものの見事に鉢合わせをした。
 悪ノリした如月が、瑞貴を通さずに玄関口で立ちふさがっている。獲物を捕らえた背中がとても楽しそうだ。

「如月会長! あんたここで何してるんですかっ!」
「何って、愛する藤堂としっぽりナニしてただけだが?」
「……今すぐオモテへ出ろ。コロス」
「言われなくても出るところだ。じゃあな藤堂」
「ああ」

 殺気だつ後輩へと平気で背を向け、如月は去っていった。
 すかさず追いかけようとした瑞貴を、首根っこを捕まえて捕獲する。

「こらこら瑞貴、方向が違う」
「なぜバ会長がここにいるんですか! 無事ですか! おかしなことはされてませんか!」
「おかしなことはされていないが、お菓子はもらったな」
「真顔でふざけないでください! 人がちょっと目を離した隙に何され……いや、したのか? あんたが招いたのか? どっちだ? ええい吐け! 洗いざらい全部吐きやがれ!」

 瑞貴が敬語を吹き飛ばすほどに混乱している。
 普段の猫かぶり瑞貴も可愛いが、化けの皮がはがれた瑞貴もとても可愛らしい。むくれるネコの機嫌を適当に取りながら、午前中は平穏に過ごしたのだった。


 キッチンで昼食を作り始めた時に、瑞貴からの電話が鳴った。

『いま留司様から電話がありました。理事長室を出られて、こちらへと向かわれています』
「……随分早いな。なら、下まで迎えに行くか」
『それが、ついでに私の部屋も見学したいとの仰せで……』
「わかった。手間をかける」

 ……どうしたものか。
 軽い昼食でチャチャッとすませるつもりだったが、父の分も作った方がいいのか? そもそもド素人の料理が、あの人の口に合うのか?
 冷蔵庫の中身と相談する。恐ろしいほどに何も浮かばない。
 ……まあいい。こうなったら、作りかけだった料理をかさ増しするだけだ。俺は開き直ってキッチンでの作業を再開した。


 待ち人到着の知らせに、玄関へと向かう。
 若干緊張しつつ扉を開ければ、懐かしい人物がスーツ姿で立っていた。

「……玲」

 甘く名を呼ぶ声も、ふんわりと細められた瞳も、二年前と少しも変わらない。相手が醸し出す優しい雰囲気に、こちらも自然に顔がほころんだ。

「お久しぶりです。お父さん」

 そう挨拶をした直後、俺は手首を掴まれ、逞しい腕の中へと囚われていた。嗅ぎなれたコロンの香りが、この二年で生まれた距離感を一瞬で吹き飛ばす。

「……ようやくだ」
「……」
「ようやく会えた。私の玲」

 艶のある囁きに鼓膜をなぞられ、ぞくりと反射的に背筋が震えた。服越しに指が食い込むほどに、強く抱きしめられている。体格差があり身動きが取れない。苦しい。

「……うっ」

 たまらずうめけば、ハッとしたように力がゆるめられた。少し身体を離した父は、俺の顎を持ち上げて、心配そうに覗き込んでくる。

 そのまま優しく頬を撫でられ、額にそっとキスをされた。
 小さなリップ音は、こめかみやまぶた、頬へと滑っていき、最終的に唇にまで躊躇なくキスをされる。
 この調子で、俺はファーストキスもセカンドキスも、ちゅっちゅ、ちゅっちゅとこの人に奪われてきた。幼い頃に本気でこばんだら、それ以上に大人げなくすねられたので、この挨拶は継続されている。
 幼児が大人に駄々を捏ねられて渋々折れたのだ。どういう環境だ。

 いまも一向に、キスと抱擁の嵐が止みそうにない。離れていた二年間で、父の偏愛っぷりにますます磨きがかかったようだ。

「夢じゃないんだね……本物の玲だ……。ずっとこのまま抱きしめていたい」
「それだと日が暮れますので、そろそろ中へと入りましょうか」
「ふふ、そのつれない態度……正真正銘、私の玲だね」

 微笑む父の頬に、俺は軽くキスを返した。

「――ッ!」
「誤解しないでください。俺も会えて嬉しいんです。ただお父さんの勢いに押されて、なかなか挨拶を返せなかっただけで……」
「……」
「お元気そうですね。安心しました」
「――玲っ!」

 また腰を引き寄せられ、顔中に唇を押し付けられた。

 ……いつになったら、玄関から抜け出せるんだ?

 いい加減に腹もすいてきたので、俺は今度こそ父を引きはがし、リビングへとあげたのだった。


「……驚いた。玲の手料理は絶品だね。感動して涙が出そうだ」

 ただの味噌汁なのだが、感慨深げに父は飲んでくれている。
 豚バラとピーマンの炒め物に、豆腐と玉ねぎの味噌汁、漬物とサラダという、超シンプルな料理なのだが、すこぶるお気に召したようだ。

 早々にスーツの上着を脱いでネクタイをゆるめた父は、笑顔を浮かべて、すっかりリラックスモードだ。ラフな姿でも、いちいち大人の色香をまとっていて、むかつくほどにカッコいい。

「ここの住み心地はどうだい?」
「充分すぎるほどです」
「それは良かった。天真の感想とは大違いだね。アレには狭苦しい寮生活が合わなかったようだが……。天真が一人暮らしを始めたのは知ってる?」
「いいえ。つい最近、電話をもらいましたが、そういった話は出ませんでした」
「へえ。やり取りしてたの? 意外だなあ」
「いろいろと、気にかけてくれています」


 ……だいぶ省略したが、嘘は言っていない。
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