風紀委員長様は今日もお仕事

白光猫(しろみつにゃん)

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副委員長様の親友は休み明けに相談される(聴取室編)

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 ※那須田目線です。


 月曜の昼休み、珍しくCクラスに訪れたのは、風紀副委員長の佐藤瑞貴だ。お綺麗な【鬼の副委員長】様の突然の来訪に、すねに傷ある者は目をそらし、大多数は興味津々で聞き耳を立ててくる。

「那須田、ちょっといいですか?」
「ああ」

 放課後にも会う予定だったが余程の緊急案件か?

「どうした?」
「例の同人誌の件、進展はありましたか?」
「同人誌? いや特には……」
「そうですか。わかりました。ではこうしましょう。どうせ黒幕はあの広報チビッコ委員長なんですから、これからサクッと拉致して口を割らせ……むぐっ!」
「落ち着けって」

 次から次へとNGワードが出る口をふさぎ、なかば抱え上げるようにして教室から連れ出した。級友はあんぐりと口を開け、通行人からは何度も二度見されたぞ。風紀の副委員長が配下の俺に拉致されそうになってるなどと、通報でもされたらどうしてくれる。そんな愉快な報告書を、俺は藤堂様へは出したくない。絶対にからかわれる。

 誰もいない聴取室へと佐藤を放り込んで一息ついた。
 ここなら遮音対策もされている。遠慮なく話を聞けるだろう。

「それで? 何をそんなに怒っているんだ?」
「これが怒らずにいられるか!」

 バシンッ! と勢いよく床へと叩きつけられた薄い本。
 拾い上げてパラパラとページをめくってみる。なるほど。

「【いま流行りの転生をしたら、イケメン生徒会長様と麗しの風紀委員長様に挟まれて攻められる嫁(♂)でした♡】……タイトル長すぎないか?」
「そこはどうでもいい!」
「【新歓鬼ごっこでドキドキ裏罰ゲーム編】……閉会式終わって間もないのに、土日に妄想フル稼働して仕上げたんだろうなあ」
「朝一で俺の机に放り込まれてた」
「それは……風紀っていうより、おまえがもて遊ばれてるとしか」
「なあ那須田、もう番屋半殺しにしていいか? 情報屋として使えても人間的にアウトだろう。玲一様にバレなきゃいいよなあ?」
「今のおまえも風紀としては完全にアウトだぞ」

 俺たちは中等部から知り合い、価値観も行動もやたらと気が合った。早々に面倒臭がったコイツは、ふたりきりの時は素で接するようになり、何かあればこんな感じで相談もされる。相談内容のほとんどが藤堂様がらみなのと物騒なのが玉に傷だが……。

「そもそも副委員長なんかガラじゃねえんだよ。玲一様がやれって言うから仕方なく……」
「やれと言われて簡単に出来る仕事じゃない。あの人の見る目は確かだと思う」
「そういうこと真顔で言うんじゃねえよ。クソ真面目が」

 この佐藤という男は実に器用だ。素はこんなに荒っぽい口調なのに、身構える相手や目上の者がいる場では、嫌味なほど丁寧な言葉を扱う。
 敵とみなせば、針のように「デスマス」口調を扱い、チクチクと相手の神経を逆なでしている。如月会長に対する態度が良い例だろう。

 ただし藤堂様に対してだけは、心から丁寧語を使っているのが良く分かる。いまだに緊張してたまに噛んでることも知っている。佐藤にとって、身が震えるほどの「特別」はあの人だけなのだ。俺はたぶん、親友ポジであることを信じたい。

「藤堂様には報告したのか?」
「……まだ」
「いま委員会室か? 報告してしまおう」
「……絶対にからかわれる」

 ……まあ、そうだろうな。


  ***


 その藤堂様は委員会室で弁当を食べ終わり、くつろいでいるところだった。あくびを噛み殺し、涙目で気だるげに佐藤の話を聞く姿すら、壮絶な色気を放っている。俺は異性愛者なはずなのだが、上役が無駄に美形すぎて、目のやり場に困ってしまう。

「藤堂委員長。これは明らかに風紀委員会への挑戦状です。受けて立ちましょう。あの広報チビッコ委員長を拷問……もとい、尋問する許可をください」
「そうは言うが、犯人がハムナガだという証拠は? それに風紀への挑戦状なら俺の机にも入れてくるはずだ。これは風紀というより瑞貴自身への挑戦状だろう」
「……」
「ハムナガが犯人というなら、しっかり尻尾を掴んでからここへおいで。この件はおまえに一任している」
「……分かりました」

 ……ハムナガって、番屋先輩か?
 内心首をひねりながらも、俺はふたりの会話に耳を傾けた。

 藤堂様は渦中の同人誌を手に取ると、

「【いま流行りの転生をしたら、イケメン生徒会長様と麗しの風紀委員長様に挟まれて攻められる嫁(♂)でした♡】……か。見てみろ那須田。こんなに長いタイトルが、こんな薄い本の背表紙に全部おさまっている。敵の技術力は超一流だ。あなどるなよ」
「はあ」

 真顔でどうでもいい忠告をしてくれた。
 ……この人、完全に面白がってるな。

「那須田、行きましょう。満腹でお寝むモードな委員長に相談した私が愚かでした」
「待て瑞貴。その本は置いていけ」
「は?」
「放課後、生徒会室で如月会長と会う予定だ。ついでに見せてみよう」
「……何ですかソレ。初耳なんですが?」
「新歓の後始末だ。過激な写真が出回らないよう、今年は俺と如月がカメラデータを検閲する。ちなみにハムナガも同席予定だ」
「それを早く言え! 馬鹿だろアンタ!」

 なんだかんだ言って、藤堂様は佐藤にとことん甘い。
 一任すると言いながら、結局は力を貸してくれるようだ。これでしばらくは、大量に出回ってた同人誌も抑制されるだろう。

 お調子に乗った番屋先輩は、小説どおり【イケメン生徒会長様と麗しの風紀委員長様に挟まれて】……を体感するわけか。恐ろしい。俺なら即座に圧迫死する。

 自業自得とはいえ、敵ながら少し気の毒に思った。
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