人間さんと暮らしてみましたが、ちっとも馴染めません。

白光猫(しろみつにゃん)

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王太子

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『……何か御用でしょうか?』

 私は切羽詰まっていたので、話しかけてみることにしました。

 いまだに父様たちは帰ってこないし、突然知らない神獣たちが訪ねてくるし、もしかしたらこの三頭が、何か事情を知っているかもしれません。

 関係なかったら早々にお帰り願いましょう。いまは父様たちのことが最優先です。

 それにしても。
 お~い。うおぉ~い。
 三頭とも、さっきからずっとだんまりです。
 ぽやっとした表情のまま、ちっとも動きません。一体どうしたのでしょう?

『何か・御用・でしょうか?』

 今度は、少し声量を上げて話しかけてみました。
 三頭の肩がビクッと震えたあと、ようやく瞳に生気が戻ってきました。
 よくわかりませんが、お帰りなさい。

『……あ……失礼しました。その……あなたが想像以上に……美しく……て……』

 真ん中の綺麗な青い目の神獣が、頬を赤らめて、片手で口を押えながら答えてくれました。でも声がくぐもっていて、語尾がよく聞き取れなかったです。

 あなたがあまりにも……なに?
 あまりにも【変顔】とか?
 
 徹夜明けの顔が酷すぎて、呆れられてしまったのでしょうか。こちらから聞き返す勇気がありません。
 私の心の平穏のためにも、深く掘り下げることはやめておきます。

『何か御用でしょうか? 父様のお知り合いのかたですか?』
『いいえ違います。私はあなたのお母様の知り合いです。はじめましてイレーヌ殿』

 え? 母様の?

 驚く私をみて、青目(あおめ)さんの顔がふわっとほころびました。
 父様と母様以外から、こんなに柔らかな笑顔を向けられたのは初めてです。森の神獣たちは、甘えて身体をこすり付けることはあっても、口角を上げて笑うようなことはありません。目元が少し和らぐ程度です。

 不意の笑顔のおかげで、私の緊張も少しずつほぐれてきました。
 母様のお知り合いの方なら、父様のことを相談しても大丈夫かな?

『私の名は、アシュラウル=ログーザと申します。この森の隣にあるログーザ国の王太子です』
『……』
『後ろのふたりは護衛の騎士です。剣を携えてはおりますが、あなたに危害を加えることは決してありません。あなたのお母様とも顔見知りで、とても信頼のおける者たちです。私たちが話している間、見張りとして家の近くに控えることをお許しいただけますでしょうか?』
『……』
『……あの、イレーヌ殿? 私の神語(シンゴ)はうまく伝わっておりますでしょうか? もしや人語(ジンゴ)の方がよろしかったですか? ログーザ語ならば話せるのですが』

 途方に暮れて見上げるばかりの私に、青目さんが心配そうに話しかけてくれています。
 どうしよう。
 知らない単語が多すぎて、何を言われているのか全然分からない。

『それともお父様のことを心配されているのでしょうか? それならばご無事ですからどうかご安心ください。いまもご両親があなたの将来について話し合われているところです』

 父様が無事? しかも母様と一緒なの? 嬉しい!
 ひと晩かかえていた不安が、身体の中で一気に溶けて流れでていきました。
 途端に笑顔全開になった私に、青目さんも嬉しそうにひとつ頷いてくれます。細められた青い瞳が、本当に綺麗ですね。

 そうだ。気になっていたことが、もうひとつ残っていました。
 こちらもこの勢いに乗って、一気に解決してしまいましょう!

『あの、【王太子】ってなんですか?』

 あれ?
 三頭のお顔が、ピキッと固まってしまいました。
 どうしたのでしょう?

 あっ、立ち話もなんですから、どうぞ中にお入りください。
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