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第11話 ボクの記憶
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差し出されてきた大きく温かい手をボクは握った。すると、いろいろな光景が再びボクの中に流れ込んで来た。
これまでも、こういうことは幾度となくあったが、今日はちょっと違っている。ほんの数秒だが、頭の中で映像をとめて見渡すことが出来た。それも無意識にそのコツをつかめたんだ。
最初に見えたのは、戦場のようなところ。激しい爆撃、銃弾の嵐が飛ぶ中、ボクは走っていた。視界の高さからして、身長170センチくらいだろうか、今のボクよりも遥かに高い。
走って、塹壕に飛び込んで、わずかに顔を出して、遥か遠くの敵を狙撃する。近くの隊長に呼ばれて、一緒に行動し別のエリアに移動する。
移動しては、攻撃。退避を繰り返し、敵の戦力を削っていく。隊長の顔は、誰かに似ている感じがする。ザック兄貴?いや、ゲオルグ・パパ?分からない。
でも、兵隊が皆すごく若い。ほとんどが10代、隊長クラスでも20代前半ってところだ。これが噂に聞く、内戦時の様子だろうか?
それじゃ、ボクはいったい誰なのだろう。この状況からして、とても女の子ではないようだ。
今度は、ある家族と楽しくバーベキューをしている。相手は、少年と少女とその両親のようだ。最初に話している人は、長髪で若いけど見覚えがある。ザック兄貴だ。間違いない。面影がある。そして、隣は短髪のガンツ兄貴かな?。
その隣には、とても美しい女の子が居る。この人も知っている、たぶん、カルメンシータさんだ。毒気ゼロで清楚なお嬢様って感じだ。そのカルメンさんの手にまとわりついている小さな女の子は、たぶんジョアンナだ。
そして、若奥様な感じのレイラ・ママと、マイホームパパなゲオルグ・パパが幸せそうに笑っている。ボクと握手をして、抱き寄せている。熱い抱擁だ。そして、服装がみんな普通だ。肉体労働者のそれじゃないし、第一場所が大きなお屋敷の庭のようだ。
また、映像がフラッシュバックする。今度は、生まれたばかりの子供をあやすボクがいる。その奥で病院服のようなローブを着た女性が、優しく微笑んでいた。
これって、前世の記憶なのだろうか、でも、映像に見えている人、リアルに今の家族だし、他人の記憶のような感じが全くしていないんだ。懐かしいって、ボクは感じている。
そして、頭に浮かんでくる映像は瞬く間に切り替わる。
今度は、ちょっと汚めな成りの眼鏡の女性がモニタに映っている。この人は実際には会ったことはなかったけど。3D映像で、バーチャル世界で何度も会ってもいた。
彼女の本名は知らないけど、ハンドルネームは、確か、シンデラーだった。意味はシンデレラ(灰かぶり)と東洋の日本という国の言語、死んでいるの感嘆表現、死んでらーをかけたとか言ってた。シンデレラは、大昔の欧州の童話の主人公の名前だ。
そうだ、彼女とは日本のアニメ好きが高じて、知り合ったのだった。コスプレなんかもたまにしたっけ、随分と年上なのに彼女は年季の入ったヲタクだった。
日本と言う国も、昔の国土はほとんどなくなってしまったけど、今も残こった土地に自治区を作って、パシフィック共和国の一部として存在しているんだったけ。
それにしても今度は、かなり現実的に感じた。自分ではっきりと説明できている。最初の記憶は、誰かのもののように思えたが、この記憶はボクのものだと確認できる。体に馴染んでいる感じがするんだ。
ボクが座っている周囲には天井から自由アームに掛かったコンピュータの大型モニタが6つ、その奧は4つの大型タワーコンピューターがあって、手前には山積みの辞典や書籍の他に、お菓子、インスタント食品、ゲーム機、室内無線装置、黒や白の配線の山。
部屋の天井はとても高く、壁と天井にはボルダリング練習用の突起がついている。知らずに部屋に入れば、一目で、「汚い」の言葉が真っ先に出てくる部屋だ。
コンピュータと反対側の奥には筋トレ器具と、シャワールーム、衣装部屋がある。衣裳部屋の戸は開けっ放しで、鏡台や綺麗なドレスがたくさん掛けてあるのが見える。その中にサイズの小さな女学生の制服もあった。デザインからして有名なお嬢様学校だったはず。
ボクはたびたび、学校を無断欠席する問題児だったが、学校の成績は常にトップだった。授業が幼稚であほらしくて、出る気がしなかったんだった。
そして、ボクは紛れもなく女の子なんだ。周囲を見回すとき、机に置いてあった鏡に子供の顔が映った。
それは、男の子とも、女の子ともとれる愛らしい容姿だった。今よりもかなり若いけど、これはボクのようだ。
「所長、いつまで握ってるんですか!」
エレナさんが、目の前のオジ、いや、所長さんを怒っているのに、ボクは何故か自分が怒られた気がして、思わず手を引っ込めた。
「ほら、見なさい。トロイくんが、怖がって手を引っ込めちゃったじゃない。まさかとは思いますが、美少年にも目覚められたのですか?」
「おい、おい、冗談はよしてくれ。昔のキミじゃないんだからさ」
エレナさんは、急にマジ顔になって、所長さんの両頬をつまんで、左右に引っ張りだした。所長さん、涙目で痛がってる。もしかして、エレナさんは、所長さんの恋人なのかな?
「その話を公に言うのはやめてって、言いませんでしたっけ。あなたの子供を産む条件でしたわよ。キースさん!」
「わかった、わかった。すまん、すまん!」
そういえば、所長さんの手を離した途端、頭に浮かんでいた光景がふっと消えてしまった。ボクはいったい、何を思い出したのだっけ?
「いやはや、みっともないところを見せてお恥ずかしい限りだ。トロイくん。気を取り直して、ここでの研究の話をしようか。
社長の紹介だからね。課外学習の学童や就職希望者の見学レベルじゃなく、一般の研究者への見学として説明するよ」
所長さんのマジ顔は、素敵だった。働く男の真剣な顔。ザック兄貴以上にかっこいい!ボクの中の女心が震えた。
所長さんの話は実に興味深いものだった。
アンドロイドがヒトの非生活動作をほぼ90%模倣できている現代の技術を使ったもので、危険難所の作業用のゴースト用スーツの開発だった。ゴーストとは隠語で、所謂、魂のことなんだけど。
ヒトの意識を電気的に人造脳組織にコピーして、その意識を活性化させて、あたかも自我を作り出すというものなのだ。
被験者の意識が被験体の脳に転送されて、その人になるのではなく、被験者の意識がコピーされているだけで、被験体は別人格として被験者と同時に存在するのだ。
被験体は与えられた使命に対し、被験者の思考を介して問題を解決する。犬を使った動物実験では、調教師を認識し、空腹感が来ないのに餌を食べ、尿意も無いのに柱や壁を見て尿をかける行動を起こしたらしい。
ただ猿のような霊長類では、アンドロイド体の動かさなすぎなところがもどかしくて、すぐにノイローゼを起こしたりと、精神不安定な状況が個体差はあるけど半日で起きてしまった。犬も一日も経てば、猿と同様の症状が表れて、壁に全速力で走って激突するなどの奇行を起こし、最後は動作不能になったらしい。
そこで、被験体がヒトであれば、自分の異常な状況を言葉で理解し、うまく動かせるのではという仮説をたて、安全の為に最初からアンドロイドの体を与えず、脳とそれが伝達して動かせる義体のインターフェースをつなぎ疑似体験をさせる実験をつい最近行ったということだった。
結果は、ほぼ失敗。精神が安定できない人がほとんどで、1日と持たなかったらしい。唯一、所長さんだけが15日間も安定し、幸福感をも感じていたらしいけど、義体自体には、プログラムされた指示の理解や対処は全くなく、ただ、気持ちよく眠っただけだった。
残念なのは共同研究者の人が現在行方不明で、実験結果から問題点の分析が難航するって話だった。
不思議なことに、その失踪した科学者がボクの出身国とされるバチスカン公国らしいのだけど、その人の話が、ボクの状況と一部合致する部分があったということだ。
けれども、ここ一か月で、知りえた情報では、同様の事故ケースが実は多数発生していて、ボクだけがその教授の話に合致するとは言い難いってことだった。
細かく調べれば、違いが分かってくるのだろうけど、それが、ボクに必要なこととは思えない。だって、ボク自身は、特に困っていないから。
未だに、ボクは自分が王族の第三王女であるという記録には疑問がある。それは時折、頭の中でフラッシュバックする映像イメージにそれを連想させるようなものが全くと言ってないからだ。現代の王族がどういう暮らしをしているかだなんて、当然知らない。
でも、一般とは違った風習とか、教育とかそういうイメージがあるはずなんだよ。公式に記録していないとしていても、それなら、こんなわざとらしい情報をつけるだろうか?
現に、ボクの事故の前後にも似たようなプレートディスクを体に埋め込み、やれ王族だのを名乗る人がいっぱいいたらしいじゃないか。ただ、彼らのうかつなところは、信ぴょう性を持たせたかったのか、諸外国にいる実在の人物にしてしまい。すぐに消息が分かって、ばれていたのだけどね。
その点、ボクの場合は調べようとしても調べることが出来ない対象だからフェイクともなんとも言えないって、微妙なところなんだよね。
ボクはこの一か月の間に、知らずにできる才能に気づくことは多かった。
マルチリンガルな語学能力、料理をはじめとする家事全般が得意であるということに加え、アスリート並みの基礎体力の高さと、身軽さ、俊敏さを持ち、電気工事、機械工事、コンピュータ技術など、僅か15歳の年齢ではおよそ習得し得ないないほどの多彩な能力を持っている。
更に、リーダー的な資質である臨機応変な状況判断と、解決能力もあると、ゲオルグ・パパは評していた。
ある部分、特に体力や運動神経の良さは、ボクがもとから持っているものなのだろうけど、知識やその使い方に関するものは誰かの知識や経験が追加されたものって感じがするんだ。
それって、なんか所長さんの研究に似てるけど、そもそも人工脳に思考をつかさどる脳の記憶を電気的にコピーするもので、おまけにボクはここに来るのは今日が初めてなんだ。
被験者にボクが居なかったことは、既に調査済み。そこそも被験者は全員身元が分かる20歳以上の技能免許取得者ばかり。
そういえば、ボクがゲート入館時に血液サンプル取られたんだけど、その検査結果から女の子だってバレちゃって、兄貴が平謝りしてたっけ。あらかじめ言わなかったのは、本当にどこまでチェックしているのか疑っていたらしいんだよね。
所長さんの説明は時間を大幅に超過してしまい、昼食ではなく、夕食をジョアンナのオトコの店に行くとこに変わった。所長さんとエレナさんも同伴することになった。ボクも女の子とばれたので、男装を解くことになった。
もう、今のボクにはドレスへの気恥ずかしさは全くない。ジョアンナがオフ時間の度にドレスアップしてくれていたおかげだ。
ボクはサラさんにお風呂に入れられ、体の隅々まで洗われた。サラさんの手づかいは、優しくて、柔らくて気持ちよかった。そして、夜のための化粧を施された。
兄貴のやつ、男装させておきながら、しっかりドレスも用意してたとは、しかも社屋のドレッシングルームに置いてるとか、確信犯だよ。
最終仕上げは、エレナさんが行った。長髪のウィグなども付けられて、肩や背中を吐出したドレスを着せられた。いつもともはかなり違う、ちょっと大人っぽい感じに仕上げられたけど、恥ずかしいどころか、自慢気になっている。
ボクらは、着替えを終え、玄関口にお迎えのリムジンに乗り込んだ。
ボクは、早く、ジョアンナに会いたいと思った。彼女が、ボクの姿を見て、どう驚くのかを知りたくて、とてもわくわくした。
これまでも、こういうことは幾度となくあったが、今日はちょっと違っている。ほんの数秒だが、頭の中で映像をとめて見渡すことが出来た。それも無意識にそのコツをつかめたんだ。
最初に見えたのは、戦場のようなところ。激しい爆撃、銃弾の嵐が飛ぶ中、ボクは走っていた。視界の高さからして、身長170センチくらいだろうか、今のボクよりも遥かに高い。
走って、塹壕に飛び込んで、わずかに顔を出して、遥か遠くの敵を狙撃する。近くの隊長に呼ばれて、一緒に行動し別のエリアに移動する。
移動しては、攻撃。退避を繰り返し、敵の戦力を削っていく。隊長の顔は、誰かに似ている感じがする。ザック兄貴?いや、ゲオルグ・パパ?分からない。
でも、兵隊が皆すごく若い。ほとんどが10代、隊長クラスでも20代前半ってところだ。これが噂に聞く、内戦時の様子だろうか?
それじゃ、ボクはいったい誰なのだろう。この状況からして、とても女の子ではないようだ。
今度は、ある家族と楽しくバーベキューをしている。相手は、少年と少女とその両親のようだ。最初に話している人は、長髪で若いけど見覚えがある。ザック兄貴だ。間違いない。面影がある。そして、隣は短髪のガンツ兄貴かな?。
その隣には、とても美しい女の子が居る。この人も知っている、たぶん、カルメンシータさんだ。毒気ゼロで清楚なお嬢様って感じだ。そのカルメンさんの手にまとわりついている小さな女の子は、たぶんジョアンナだ。
そして、若奥様な感じのレイラ・ママと、マイホームパパなゲオルグ・パパが幸せそうに笑っている。ボクと握手をして、抱き寄せている。熱い抱擁だ。そして、服装がみんな普通だ。肉体労働者のそれじゃないし、第一場所が大きなお屋敷の庭のようだ。
また、映像がフラッシュバックする。今度は、生まれたばかりの子供をあやすボクがいる。その奥で病院服のようなローブを着た女性が、優しく微笑んでいた。
これって、前世の記憶なのだろうか、でも、映像に見えている人、リアルに今の家族だし、他人の記憶のような感じが全くしていないんだ。懐かしいって、ボクは感じている。
そして、頭に浮かんでくる映像は瞬く間に切り替わる。
今度は、ちょっと汚めな成りの眼鏡の女性がモニタに映っている。この人は実際には会ったことはなかったけど。3D映像で、バーチャル世界で何度も会ってもいた。
彼女の本名は知らないけど、ハンドルネームは、確か、シンデラーだった。意味はシンデレラ(灰かぶり)と東洋の日本という国の言語、死んでいるの感嘆表現、死んでらーをかけたとか言ってた。シンデレラは、大昔の欧州の童話の主人公の名前だ。
そうだ、彼女とは日本のアニメ好きが高じて、知り合ったのだった。コスプレなんかもたまにしたっけ、随分と年上なのに彼女は年季の入ったヲタクだった。
日本と言う国も、昔の国土はほとんどなくなってしまったけど、今も残こった土地に自治区を作って、パシフィック共和国の一部として存在しているんだったけ。
それにしても今度は、かなり現実的に感じた。自分ではっきりと説明できている。最初の記憶は、誰かのもののように思えたが、この記憶はボクのものだと確認できる。体に馴染んでいる感じがするんだ。
ボクが座っている周囲には天井から自由アームに掛かったコンピュータの大型モニタが6つ、その奧は4つの大型タワーコンピューターがあって、手前には山積みの辞典や書籍の他に、お菓子、インスタント食品、ゲーム機、室内無線装置、黒や白の配線の山。
部屋の天井はとても高く、壁と天井にはボルダリング練習用の突起がついている。知らずに部屋に入れば、一目で、「汚い」の言葉が真っ先に出てくる部屋だ。
コンピュータと反対側の奥には筋トレ器具と、シャワールーム、衣装部屋がある。衣裳部屋の戸は開けっ放しで、鏡台や綺麗なドレスがたくさん掛けてあるのが見える。その中にサイズの小さな女学生の制服もあった。デザインからして有名なお嬢様学校だったはず。
ボクはたびたび、学校を無断欠席する問題児だったが、学校の成績は常にトップだった。授業が幼稚であほらしくて、出る気がしなかったんだった。
そして、ボクは紛れもなく女の子なんだ。周囲を見回すとき、机に置いてあった鏡に子供の顔が映った。
それは、男の子とも、女の子ともとれる愛らしい容姿だった。今よりもかなり若いけど、これはボクのようだ。
「所長、いつまで握ってるんですか!」
エレナさんが、目の前のオジ、いや、所長さんを怒っているのに、ボクは何故か自分が怒られた気がして、思わず手を引っ込めた。
「ほら、見なさい。トロイくんが、怖がって手を引っ込めちゃったじゃない。まさかとは思いますが、美少年にも目覚められたのですか?」
「おい、おい、冗談はよしてくれ。昔のキミじゃないんだからさ」
エレナさんは、急にマジ顔になって、所長さんの両頬をつまんで、左右に引っ張りだした。所長さん、涙目で痛がってる。もしかして、エレナさんは、所長さんの恋人なのかな?
「その話を公に言うのはやめてって、言いませんでしたっけ。あなたの子供を産む条件でしたわよ。キースさん!」
「わかった、わかった。すまん、すまん!」
そういえば、所長さんの手を離した途端、頭に浮かんでいた光景がふっと消えてしまった。ボクはいったい、何を思い出したのだっけ?
「いやはや、みっともないところを見せてお恥ずかしい限りだ。トロイくん。気を取り直して、ここでの研究の話をしようか。
社長の紹介だからね。課外学習の学童や就職希望者の見学レベルじゃなく、一般の研究者への見学として説明するよ」
所長さんのマジ顔は、素敵だった。働く男の真剣な顔。ザック兄貴以上にかっこいい!ボクの中の女心が震えた。
所長さんの話は実に興味深いものだった。
アンドロイドがヒトの非生活動作をほぼ90%模倣できている現代の技術を使ったもので、危険難所の作業用のゴースト用スーツの開発だった。ゴーストとは隠語で、所謂、魂のことなんだけど。
ヒトの意識を電気的に人造脳組織にコピーして、その意識を活性化させて、あたかも自我を作り出すというものなのだ。
被験者の意識が被験体の脳に転送されて、その人になるのではなく、被験者の意識がコピーされているだけで、被験体は別人格として被験者と同時に存在するのだ。
被験体は与えられた使命に対し、被験者の思考を介して問題を解決する。犬を使った動物実験では、調教師を認識し、空腹感が来ないのに餌を食べ、尿意も無いのに柱や壁を見て尿をかける行動を起こしたらしい。
ただ猿のような霊長類では、アンドロイド体の動かさなすぎなところがもどかしくて、すぐにノイローゼを起こしたりと、精神不安定な状況が個体差はあるけど半日で起きてしまった。犬も一日も経てば、猿と同様の症状が表れて、壁に全速力で走って激突するなどの奇行を起こし、最後は動作不能になったらしい。
そこで、被験体がヒトであれば、自分の異常な状況を言葉で理解し、うまく動かせるのではという仮説をたて、安全の為に最初からアンドロイドの体を与えず、脳とそれが伝達して動かせる義体のインターフェースをつなぎ疑似体験をさせる実験をつい最近行ったということだった。
結果は、ほぼ失敗。精神が安定できない人がほとんどで、1日と持たなかったらしい。唯一、所長さんだけが15日間も安定し、幸福感をも感じていたらしいけど、義体自体には、プログラムされた指示の理解や対処は全くなく、ただ、気持ちよく眠っただけだった。
残念なのは共同研究者の人が現在行方不明で、実験結果から問題点の分析が難航するって話だった。
不思議なことに、その失踪した科学者がボクの出身国とされるバチスカン公国らしいのだけど、その人の話が、ボクの状況と一部合致する部分があったということだ。
けれども、ここ一か月で、知りえた情報では、同様の事故ケースが実は多数発生していて、ボクだけがその教授の話に合致するとは言い難いってことだった。
細かく調べれば、違いが分かってくるのだろうけど、それが、ボクに必要なこととは思えない。だって、ボク自身は、特に困っていないから。
未だに、ボクは自分が王族の第三王女であるという記録には疑問がある。それは時折、頭の中でフラッシュバックする映像イメージにそれを連想させるようなものが全くと言ってないからだ。現代の王族がどういう暮らしをしているかだなんて、当然知らない。
でも、一般とは違った風習とか、教育とかそういうイメージがあるはずなんだよ。公式に記録していないとしていても、それなら、こんなわざとらしい情報をつけるだろうか?
現に、ボクの事故の前後にも似たようなプレートディスクを体に埋め込み、やれ王族だのを名乗る人がいっぱいいたらしいじゃないか。ただ、彼らのうかつなところは、信ぴょう性を持たせたかったのか、諸外国にいる実在の人物にしてしまい。すぐに消息が分かって、ばれていたのだけどね。
その点、ボクの場合は調べようとしても調べることが出来ない対象だからフェイクともなんとも言えないって、微妙なところなんだよね。
ボクはこの一か月の間に、知らずにできる才能に気づくことは多かった。
マルチリンガルな語学能力、料理をはじめとする家事全般が得意であるということに加え、アスリート並みの基礎体力の高さと、身軽さ、俊敏さを持ち、電気工事、機械工事、コンピュータ技術など、僅か15歳の年齢ではおよそ習得し得ないないほどの多彩な能力を持っている。
更に、リーダー的な資質である臨機応変な状況判断と、解決能力もあると、ゲオルグ・パパは評していた。
ある部分、特に体力や運動神経の良さは、ボクがもとから持っているものなのだろうけど、知識やその使い方に関するものは誰かの知識や経験が追加されたものって感じがするんだ。
それって、なんか所長さんの研究に似てるけど、そもそも人工脳に思考をつかさどる脳の記憶を電気的にコピーするもので、おまけにボクはここに来るのは今日が初めてなんだ。
被験者にボクが居なかったことは、既に調査済み。そこそも被験者は全員身元が分かる20歳以上の技能免許取得者ばかり。
そういえば、ボクがゲート入館時に血液サンプル取られたんだけど、その検査結果から女の子だってバレちゃって、兄貴が平謝りしてたっけ。あらかじめ言わなかったのは、本当にどこまでチェックしているのか疑っていたらしいんだよね。
所長さんの説明は時間を大幅に超過してしまい、昼食ではなく、夕食をジョアンナのオトコの店に行くとこに変わった。所長さんとエレナさんも同伴することになった。ボクも女の子とばれたので、男装を解くことになった。
もう、今のボクにはドレスへの気恥ずかしさは全くない。ジョアンナがオフ時間の度にドレスアップしてくれていたおかげだ。
ボクはサラさんにお風呂に入れられ、体の隅々まで洗われた。サラさんの手づかいは、優しくて、柔らくて気持ちよかった。そして、夜のための化粧を施された。
兄貴のやつ、男装させておきながら、しっかりドレスも用意してたとは、しかも社屋のドレッシングルームに置いてるとか、確信犯だよ。
最終仕上げは、エレナさんが行った。長髪のウィグなども付けられて、肩や背中を吐出したドレスを着せられた。いつもともはかなり違う、ちょっと大人っぽい感じに仕上げられたけど、恥ずかしいどころか、自慢気になっている。
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