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第一章 兄とは妹を守るために存在する
本日、もっとも重要な式典は、妹の入学式。以上だ。
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「入団式? なぜ俺が出席せねばならん」
「団長だからです」
執務室に、尊大な舌打ちがひびく。
黒い本革の椅子にふんぞり返り、行儀悪く机に足を乗せているのは、二十代始めの青年だ。
艶のある蜂蜜色の髪をかき上げ、涼やかな碧眼を憎々しげに歪めている。
四年前から王立騎士団の竜騎士団長を務める、ギルバート・ブレイデンである。
彼の態度の悪さは今に始まったことではないので、副団長であるエリオットは、気にせず続けた。
「ですから、明日の休暇は認められません」
「玉璽が押してあっただろう」
「国王を脅すのはおやめくださいと、先月も申しあげましたが」
「アンジェリカのために最善を尽くして、なにが悪い」
アンジェリカとは、ギルバートが溺愛する、年の離れた妹だ。
まったく悪びれたところがない態度に、エリオットは思わずため息をついた。
前方からなにかが飛んできて、エリオットは、とっさに首をかたむける。
間一髪でかわしたそれは、背後の壁に突き刺さる。
小さな影しか見えなかったので、振りかえり確認すると、それは羽ペンだった。
「貴様、なんだその態度は。いいだろう。特別に、先週のアンジェリカの、使用人への慈愛あふれるエピソードを披露してやろう」
「結構です。深夜まで残業している身には、堪えますので」
「待て、いま何時だ」
「日付が変わったところです」
多忙を極める竜騎士団の、団長と副団長は、明るいうちに帰宅できたことなど、数えるほどしかない。
「こうしてはおれん! アンジェリカの晴れ姿を脳内に焼きつけ、学院まで護衛し、式典での一挙一動を余すところなく見届けなくては!」
重い。
エリオットがげんなりしている間に、ギルバートが扉に向かう。
その腕を、エリオットはすかさず捕獲する。
「離せエリオット。不敬罪で牢にぶちこまれたいか」
「貴方こそ。反逆罪での極刑をお望みですか」
いま逃すと、彼は絶対に入団式に来ない。
つかんだ手に力を込めると、ギルバートがつぶやいた。
「術式展開」
ギルバートの腕から、電撃のような魔力が駆ける。
エリオットは、たまらず手を離す。
直後、エリオットを囲うように、透明な壁が出現した。
魔力の箱に閉じ込められたエリオットは、唖然とたたずむ。
油断した。
というか、王立の建物内は、魔術が発動しない仕組みではなかったのか!?
「こんなこともあろうかと、カーペットの下に魔術陣を書いておいて正解だったな」
「そんなことをする暇が、あったんですか」
魔術陣は、難解な古代文字を正確に書き写す必要があるため、一朝一夕では完成しない。
手間に比べて威力は弱いが、確実に発動させたい時に使用されることが多い。
「よく聞け、エリオット」
凛とした声音に、エリオットはハッと顔を上げる。
目の前には、威厳に満ちあふれた、団長然としたギルバートの姿があった。
「兄とは妹を守るために存在する。つまり、本日、もっとも重要な式典は、妹の入学式。以上だ」
騎士団の制服をひるがえし、ギルバートは颯爽と執務室をあとにする。
言っている内容は、まったく意味がわからなかった。
エリオットがあらゆる手段でようやく魔力の箱から脱出した時には、空が白みはじめていた。
寝不足と疲労の中、昇る朝日に、エリオットは固く誓う。
――あいつ、絶対に、連行してやる。
「団長だからです」
執務室に、尊大な舌打ちがひびく。
黒い本革の椅子にふんぞり返り、行儀悪く机に足を乗せているのは、二十代始めの青年だ。
艶のある蜂蜜色の髪をかき上げ、涼やかな碧眼を憎々しげに歪めている。
四年前から王立騎士団の竜騎士団長を務める、ギルバート・ブレイデンである。
彼の態度の悪さは今に始まったことではないので、副団長であるエリオットは、気にせず続けた。
「ですから、明日の休暇は認められません」
「玉璽が押してあっただろう」
「国王を脅すのはおやめくださいと、先月も申しあげましたが」
「アンジェリカのために最善を尽くして、なにが悪い」
アンジェリカとは、ギルバートが溺愛する、年の離れた妹だ。
まったく悪びれたところがない態度に、エリオットは思わずため息をついた。
前方からなにかが飛んできて、エリオットは、とっさに首をかたむける。
間一髪でかわしたそれは、背後の壁に突き刺さる。
小さな影しか見えなかったので、振りかえり確認すると、それは羽ペンだった。
「貴様、なんだその態度は。いいだろう。特別に、先週のアンジェリカの、使用人への慈愛あふれるエピソードを披露してやろう」
「結構です。深夜まで残業している身には、堪えますので」
「待て、いま何時だ」
「日付が変わったところです」
多忙を極める竜騎士団の、団長と副団長は、明るいうちに帰宅できたことなど、数えるほどしかない。
「こうしてはおれん! アンジェリカの晴れ姿を脳内に焼きつけ、学院まで護衛し、式典での一挙一動を余すところなく見届けなくては!」
重い。
エリオットがげんなりしている間に、ギルバートが扉に向かう。
その腕を、エリオットはすかさず捕獲する。
「離せエリオット。不敬罪で牢にぶちこまれたいか」
「貴方こそ。反逆罪での極刑をお望みですか」
いま逃すと、彼は絶対に入団式に来ない。
つかんだ手に力を込めると、ギルバートがつぶやいた。
「術式展開」
ギルバートの腕から、電撃のような魔力が駆ける。
エリオットは、たまらず手を離す。
直後、エリオットを囲うように、透明な壁が出現した。
魔力の箱に閉じ込められたエリオットは、唖然とたたずむ。
油断した。
というか、王立の建物内は、魔術が発動しない仕組みではなかったのか!?
「こんなこともあろうかと、カーペットの下に魔術陣を書いておいて正解だったな」
「そんなことをする暇が、あったんですか」
魔術陣は、難解な古代文字を正確に書き写す必要があるため、一朝一夕では完成しない。
手間に比べて威力は弱いが、確実に発動させたい時に使用されることが多い。
「よく聞け、エリオット」
凛とした声音に、エリオットはハッと顔を上げる。
目の前には、威厳に満ちあふれた、団長然としたギルバートの姿があった。
「兄とは妹を守るために存在する。つまり、本日、もっとも重要な式典は、妹の入学式。以上だ」
騎士団の制服をひるがえし、ギルバートは颯爽と執務室をあとにする。
言っている内容は、まったく意味がわからなかった。
エリオットがあらゆる手段でようやく魔力の箱から脱出した時には、空が白みはじめていた。
寝不足と疲労の中、昇る朝日に、エリオットは固く誓う。
――あいつ、絶対に、連行してやる。
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