だんじょんきーぱー

小目出鯛太郎

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閑話 薔薇騎士団総会

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『開廷』

やわらかな光が降り注ぐ高い天井とそれを支える白い六本の柱。その空間に座した一人が戯れに小さな白銀のベルを鳴らした。

ティーンと澄んだ音が響く。
選び抜かれた音色だ。2度叩くとティンティンと鳴く。この場にこれ程相応しいものはない。それが集まった皆の総意だった。

『今日の議題は【青い従者】の騎士階級への昇進についてである。意見のある者は挙手せよ』

歌うような声に対して、ずばっと右手を突上げ叫んだ者がいた。「異議あり。それを議題とするにはあまりにも時期尚早。【青い従者】は従属した時期も浅くもとを正せば敵方ではありませんか。それも敵方の最主力。あまりにも危険です」

突き刺すような声量の割に意見は至極まともなものだった。
『敵方、か。ふふ、そう云う意見もあろうな。だが奴の献本を見たか?』

その場にいた数名はぐっと息を呑んだ。
『(T)に対するあふれんばかりの思慕と恋慕。我々が亡くした青臭いときめき。ともすれば肉欲の宴ばかりとなる我らの筆よりも輝いて見えないか?』

一人がほぅと恋する少女のようにため息をもらした。
「あぁん。あの野原の膝枕のくだりはアタシ好きだわ。膝枕してもらいながら(T)の太腿の感触に胸の高まりを抑えて必死に寝たふりをするのよね。普段気が付けなかった(T)の香りに包まれて、優しく髪を撫でられて、すぐにも告白したくなるのを堪えて…青いわぁ。アタシなら即押し倒してむしゃぶりついちゃう…」
赤騎士は鍛えられた大胸筋を感動したように震わせた。

「あー私もあそこ好きぃ。そこから無防備に寝ちゃう(T)の寝顔を見つめて身悶えるとこがまた青いわぁ。(T)の頭を自分の太腿に載せたときに触れた耳とか頬とか唇の感触に陶然として、それから襟元から偶然見えちゃった胸元に頬を赤らめる所とかもう清らかなDTらしさが漂ってぇ…ごちそうさまって感じぃ。でもまっ平らでしょ、絶壁でしょ、そこになんで萌えるのかだけ理解出来ないけどぉ……あ、ねぇ【青い従者】ってほんとに経験ないの?」
白騎士もまたぷりりんと豊かな胸を震わせた。胸が収まる甲冑がないため机の上に乗っているが、気にする者はいなかった。

「す、少なくとも我々と旅していた頃は童…」
「黙れ電気椅子、貴様に発言を許してはいないぞ」
紫騎士は自分の下で人間椅子になっている男を軽く細鞭で叩いた。


「あら、パリリ…じゃなくて紫騎士はもっと椅子を大事に使ってあげなきゃ可哀想だよぉ。電気治療器として日夜頑張ってくれてるんだから」
白騎士自身も胸の重み故か、肩こりに悩み何度か電気治療器には世話になっていた。

「こやつは正筆せいひつ達の尻に敷かれて鼻を伸ばしていたからな。労ってやる必要はない」
ちなみに正筆と呼ばれているのは美しい文字で特別な本の写本をする乙女達と許された数名の男子である。
紫騎士は肩こりも腰痛も無縁のため電気治療器の世話になる必要がなく、今ひとつ重宝さが理解できずにいた。

「黒騎士様、私は【青い従者】の件よりも『ダンジョンは愛の牢獄(成人)』の続刊がいつ刊行されるかの方が重要かと。人の時間は有限、生きている間に続きが読みたいと貴腐人達から書簡も届いています」

『うぅん…筆が乗らぬ…』
気怠げに黒騎士は答えて長い脚を机の上に投げ出した。しかし行儀の悪い行いを咎める者はこの場にはいない。

『赤騎士は『堅物剣士は僕のペット』を完成させよ。白騎士は『美少女メイドの濡れた花びら-御主人様が一人じゃなくて』に美形ではない太った男と枯れオジを主人にして書くこと。特にどちらかが粘着でな』
黒騎士は淡々と告げた。

「えーやだぁ、美形じゃないと萌えないぃ」
白騎士が不満げに身を揺するが、黒騎士が懐から出した物を見るなり居住まいを正した。
机の上にガチャリと置かれたそれなりに重量のある袋だ。

『中身は白金貨プラチナだ。大口顧客スポンサーだ。我々は、我々の欲求と本能に忠実たるべきだが、紙も筆もインクも正筆達の給与も人間のことわりの中にある。それ故大口顧客の意向には逆らえぬ』

「魔王様がお金に逆らえないなんて!なんとおいたわしや!!」
紫騎士が涙声で顔を覆う。

『嘘泣きはよせ、それから紫騎士はオーク姦と触手姦の孕ませ物ばかり書くのはやめよ。一定の需要はあるがマンネリだ』

「酷い!一生懸命書いているのに!私だって魔王様…いえ、黒騎士様が抱いてくださったらいくらでも人気の女装騎士物でも男装令嬢物でも書いてみせますのに」

紫騎士はよよと泣き崩れ、電気椅子はふんばって主を支えた。

黒騎士は脚を投げ出したまま、ふんと鼻を鳴らした。
『…女相手ではな……。うぅん、【青い従者】に異国語の一冊を(T)の前で朗読させてみるかな。『勇者は淫獣になりたい』『ケダモノになった勇者』どちらが良いか…』

赤騎士はその言葉に脳内検索ソートした。手持ちにどちらの書物もない。書き写した覚えもない。黒騎士の手記や本は全て網羅していると自負があったのに今述べられた2冊は無いのだ。

「も、もしやそれは最新刊…」


『本日はこれにて閉廷』
【青い従者】の処遇が決まらぬまま、部屋には絶叫が響いた。

「ずるい!まだ読んでないのにぃ」
「アタシだってまだよぉ」
「おのれ勇者め去勢してやりたいぃぃぃ」
『ふふふ』




「・・・」__|\○_(勇者に随行していた魔法使いコンドー・ムーラは人間椅子となり紫騎士もといパリリンを支えたまま震えていた。自分の魔法は攻撃として何の役にも立たず、頼みの勇者は魔物に惚れて定住すると言っているらしく、頼りにしていた剣士ヴァィは捕らえられ屈辱的な拷問を今も受けているらしいのだ。パリリンの手元にあった写本を見てコンドーは愕然としたのだ。かって国の一番の剣豪、剣聖と謳われた男が、今は魔物に辱められている記録。そして、コンドーを震えさせたのはそれだけではない。その写本が納められた箱はどう見ても教会教主の印である【銀の百合】が刻まれていたのだ。馬鹿な、偽造だ、まやかしだとコンドーは思おうとした。しかし、パリリンはコンドーに事も無げに言ったのだ。
「ああ、これはリリーナ王国のリリーナ教主が所望している写本だ。奴は屈強な戦士が精神的にも肉体的にも調教される話が好きなんだ。前金で払ってくれるし金払いが良くて助かる。お前も術師ではなく逞しい戦士だったらオーク姦調教の主人公にしてやれたんだが…」
俺達は見捨てられ、いや、最初から教会に見限られていたのか?助けを求める先を無くしたコンドーは途方にくれた。機を見て脱出し、救助を願い出る腹積もりだったのに。教会教主が大枚をはたいて淫らな手記を書かせて読んでいるなど……。

しかしコンドーは我が身の少しばかりの幸運に涙した。パリリンは言動はどうあれ、見た目だけはダークエルフの美少女なのだ。時々鞭を喰らってしまうが、屈強な雄の魔物に拷問されるよりずっといい。
塔で良く顔を合わせるプリリンのように胸は無いが手足は優雅に長い。見事な脚線美だ。しかし、人間椅子にされると見ることはできない。だが、背にそこはかとなくぬくもりと、やわらかさを感じる。剣士ヴァィと比べれば自分の身の上に起きることなど些細なことでしかなかった。いつか脱出、明日こそは明後日こそはと思いながら、パリリンに呼びつけられ、犬のように這わされて背の上に座られると、コンドーの逃亡の意思は揺らいだ。特に頭をもしゃもしゃと撫でられたり、軽く尻をぱんぱん叩かれると、屈辱よりも喜びを感じてしまうのだ。パリリンがどことなく淋しげな様子の時にばかり呼びつけられ、コンドーは椅子にされてしまうのだ。自分のぬくもりが、美少女を慰めているのかもしれないと思うと、彼女などいた事の無い年月イコール実年齢なコンドーはたまらない気分になった。おのれ魔王、こんな美少女に思われながらコンチクショー…等と思いながらコンドーは遣る瀬無く今日も想い人の人間椅子になるのであった。)













雨上がりの夜
☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡

(_;´꒳`;):_ユウシャ!チョットソコニスワリナサイ!
もう本はないって言ったよね?
言ったよね?
言ってない?
なに、この
『勇者のいけない妄想』
『勇者の夢でならいいよネ』

ムキャー(ティンノサケビハヨルノシジマニコダマシタ)
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