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閑話 その頃のリリーナ教会の偉い人
しおりを挟むリリーナ教会から派遣された聖巡回士アリノは震えを隠せなかった。
「こ、これは私を聖巡回士と知っての挑発か!?」
四十代で外遊する聖巡回士の筆頭とも呼ばれる地位にアリノはあった。だから今回勇者に関わる重要な件でダンジョンのあるこの街に立ち寄ったのだ。
世の悪事を暴き、時に教会に不利な事件を葬り去るのも聖巡回士の仕事の一つである。綺麗な仕事ばかりではない。欲にまみれた事件も多い。多くの罪人を処罰してきたアリノ・ト・ワタリーは立ち上がれずにいた。
もうそろそろ槍の勇者ヤーリ・ツィンガーの立会人として指定された場所に向かわねばならないのに、椅子に座ったまま立ち上がれないのだ。
アリノの太腿を跨ぐように男が座ったのだ。重さは無い。簡単に跳ね除ける事ができるはずだ。ただ触れ合う肌の熱さを感じる。冬の刺すような大気のように凍えているのに焼きごてを当てられたような奇妙な感触だ。
「ぶ、無礼者!私の腿から降りなさいなんて失礼な!!」
『貴方に聞いて欲しい話があるのだ。一人の巡回士の話を。他の誰かの耳に入ってはまずいのでな』
アリノは咄嗟に逃げなければと思った。この男が現れた瞬間にここから逃げなければならなかったのだ。しかしどこへ?男の目を見た瞬間にここがどこかもわからなくなっていた。目を鎖で繋がれたようにそらすこともできない。
『ふふ、そう怯えずとも危害は加えない。貴方は大切な客人だから、ただ私の話を聞いてくれれば良いのだよ』
囚われたのは目だけではなかった。目の前で跨る男は眉目形が美しいが、声も快かった。腰から背筋にかけて何かが走り抜ける。この甘い響きに絡めとられて立ち上がれない気さえする。
白い指が折り曲げられた時に生ずる小さな皺、長いまつ毛の下に落ちる繊細な影さえ美しく見える。
『どうして聖巡回士という者は美しい肉体をこんな荊のような着心地の悪い服で包むのだ。もっとくつろげて息を楽にすれば良い』
白い指が蛇のように蠢き、アリノの立ち襟を緩めた。そのまま表に見えないように配された銀の釦が一つずつ外される。
鍛えられた、しかし労働で日に焼けることのない肌が露わになる。
『それに自然な欲求を否定するのに、こんな飾りをつけるなど愚の極み。本当は…自らがこうされたいのだろう?』
アリノ胸の先に取り付けられた戒めの金具が捻られる。
乳首を挟まれてアリノは悲鳴を押し殺した。
服の上から胸を撫でられると、乳首の先を荒縄で擦られたようにちくちくと痛む。
銀の釦は全て外されて長衣はすっかりはだけてしまった。男の手は無遠慮にベルトにかかり、その金具も外してしまう。胸に付けられた金具と揃いの男性用貞操帯をアリノは装着していた。先端に穴が開いているため排尿は可能だが勃起できないように陰茎が金属で押さえつけられている。
決して人に見せてはいけないのに、触れさせてもいけないのに。
「よせ、や…めろ…」
『私が聞かせたいのは一人の真面目な聖巡回士の話だ。教会の教えをよく守り、精神と肉体を鍛え職務に忠実だった男がいた。その真面目さゆえに尊敬されてもいたし敬遠されてもいた。かたすぎる、とね』
白い指が陰茎を包む冷たい金属を優しく握り込む。
『多くの者が脱落していくのに、その聖巡回士は不犯の誓いを守り続けていた。近寄らなければ、知らなければ耐えられると思っていたのだろう。実によく耐えていた。だがある日大事な貞操帯の皮が切れて壊れてしまった。修理に出す間その聖巡回士は世俗の誘惑から逃れるために、教会の書庫に引き篭もった。埃くさい古書の棚の間ならば誰にも会うことはないと思って。そうだ、誰一人そこを訪れる者はなかった。が、聖巡回士はそこにあってはならない本を見つけてしまったのだよ。本来なら焚書されるべき本を彼は手に取ってしまった。覚えているかな?『白茎の露』教主と美貌の少年の愛の物語だったね。その男は、聖巡回士は本を読むうちに昂りを抑えられなくなってしまった。彼はとても可愛いかったよ。手を使わずに必死に椅子の脚と座席に隠部をこすりつけて、耐えようとした。いつもなら押さえつけてくれる冷たい金属が無くて、涙ぐみながら何度も、何度も。あの姿を誰も目にしていなかったなんて残念でならない。聖巡回士は愛されたいと思っていた。一人孤独で行う仕事に心が折れそうになっていた。だが、男とも女とも交わらぬと決めていたな。聖巡回士は壊れた乗馬鞍と異教で崇拝されていた手足の無い人形のような置物や、木や角で出来た玩具を器用に組み合わせた。そして…』
「やめろ、やめてくれ…」
アリノは嗚咽した。
『泣かなくても良いのに。ただ寂しいとさえ貴方が言えば満たされるまで慰めてあげるのに。貴方は言ったな男とも女とも交わらぬと。ここに男でも女でもない者が…』
「悪魔よ去れ!」
アリノは声を張り上げた。
誘惑に打ち勝つために必要なのはそれだけだった。
次に目を開けた時そこには誰もいなかった。温もりもない。だが夢でなかった証に長衣はひどくはだけていた。
そしてまたアリノは立ち上がれずに震えた。
身につけていた貞操帯が壊れていた。皮の部分ではなく大事な部分を覆う金属部が。アリノの悲鳴替わりに鈍い金属音を響かせて床に落ちた。
これでは何処へ向かう事も出来ない。槍の勇者の立会人としての役目など果たせるはずもない。
アリノは誰も居ない部屋で独り蹲った。
ハハハ(ノ*´꒳`)人( ´•̥ω•̥` )ウェーン
「マオウ、マオウシャマー」
『ハハハどうしたティン。塩水製造機にでもなったのか?』
「なんで呼んだ時来てくれなかったんだよー」
『うむ、我も時々茶漬けではなく良く煮込んで味の染みた牛すじ煮込みか、噛めばかむほど味のするスルメイカのようなひなびた味わいが欲しくなる時があるのだ』
( ´•̥ω•̥` )ナニイッテルカワカンナイ…
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