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砂の国
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しおりを挟むその小僧を見る目はなんだ、と熱波は怒鳴り散らしたくなった。俺を見る目の倍も優しく愛おしげに見つめているではないか。
倍どころか、彼は歯がみした。比較にならぬ。俺に触れる手とあれに触れる手つきの何と異なることか。
怒りで眼が曇り、体が膨れあがる。
熱波が怒ると地面は焼かれ、砂が巻き上がり、周りの生き物の息の根を止めてしまう。
束風の視線は熱波の存在を忘れて腕の中に注がれたままだった。優しげでありながら悲しく幼い子を残して死ぬ母親のような視線でもあり、永遠に置いて行かれることを恐れる子供のような眼差しだった。そしてそれがどちらであっても相手に心配させてはいけないと、また最後まで笑っていなければならないと己に架しているような痛々しさに満ちており、熱波はしゅんとなった。
恐らくそれが他の誰かであったなら、熱波の怒りは収まらなかったに違いない。
くすぶる怒りを無にすることは難しかったが、熱を散らし、小僧を抱いた束風ごと抱えると屋敷の地下へと飛んだ。
彼には水は無縁の存在であるが、屋敷の一番奥底は地表には出ない地下水が流れ最も涼しい場所となっている。その小部屋へ二人を案内した。
細い身体を寝かせて、束風が呼気で冷たい霜の帳を二重にも三重にも重ねるのを熱波は黙って見ていた。
「お前達は何なのだ」
束風の青い瞳が例えようもない淀みに一瞬濁るのを熱波は見逃さなかった。
「…何なんだろう…」
力のない呟きが一つ返される。
これ以上何かを尋ねると過ぎた夢のようなひとときさえ壊れるような気がして熱波は手を差し伸べた。
「行こう」
何処へ、とも何をしに、とも言わずに出された手を束風は掴んだ。
一方、その頃逃げた砂塵は椰子の根元で、砂風や砂嵐と共にぴりっと辛い覇王樹酒や甘口の無花果の酒をちびちびとまわし飲んでいた。
訪れた旅人のために用意したものだったのだが「あんながきに酒は勿体ねぇよ」と瓶を開けてしまった。
麗人の分は兄貴が抜かりなく用意しているだろうし、黒風は綺麗な子を連れて隠れてしまった。今ごろどちらもよろしくやっているに違いない。
「砂塵、あの子はどうしちゃったの?」
無花果酒をペロペロと舐めながら砂風が聞いてくる。
「知らん」
「知らんって、喰い逃げ?やだなぁせっかく来てくれたお客さんにだめじゃない」
「ほんまやのぅ、砂塵が粗相したっちゅう事は、次は儂がおもてなしに行こか」
砂風は嗜め、砂嵐は舌なめずりをした。
「あんなに喜んで連れてったくせに、あ~やだやだ」
砂に模様を描きに行く、とそのまま砂風は千鳥足で去って行った。
「いやぁ、しかし儂には可愛い椰子がおるしのぅ。…様子を見に行ってやらんと黒風が二人とも喰らってしまうかもしれんぞ」
気だるそうな椰子の長い足に寄りかかり、砂嵐はぐいっと覇王樹酒をあおった。
「砂塵、湯を沸かして水にするようなことをするんじゃねぇぞ」
あんなガキ、黒風に喰われたところでどうという事もない…と言い返す事が砂塵には出来なかった。戻って確かめたい。だが恐ろしい。
ふん、と鼻を鳴らして砂嵐の前から掻き消えると、庭が良く見える場所に砂塵は現れた。
しかし、もうそこには花と木の影があるばかりだった。
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