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砂の国
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しおりを挟むたくさんの気配が去って逝き、その場の空気が少し軽くなったような気がした。しかし凩の心は浮かなかった。
あいつら孔雀をいっぱい飼い始めたの。
小さな砂色の蠍の言葉が胸に残る。あの庭園で優雅に羽を広げていた鳥達。砂漠ではどの庭園でも、蠍よけに孔雀を飼うのだろうか。この砂漠に他に庭園が果たしてあるのだろうか。
花盗人に残酷な仕打ちを課し、この恐ろしい場所を作った者が誰であるのかを想像するのが凩には辛く恐ろしかった。
今はそれよりも此処に残された西洋甲冑と残されたものを外に出す方を考えなくては。凩はうつ伏せに倒れたまま考え、自分がまだ何かをしようとしている事に少し驚いてもいた。
悲しくて諦めて何もかも投げ出した気になっていたのに。
鎧の男の生きようという強い意志がおれにもちょっとうつったのかもしれない。あの男からきのこのように生えたしな…。
凩は男の様子を見たかったのだが、相変わらず全身に鉛を詰めたように重く自力では到底起きられそうになかった。あの男の手は、治っただろうか。
せめて仰向けになりたい。延々と地面に口づけていたくない、と思っていると、後頭部を鷲掴みされ、そのまま持ち上げられた。
一夜干しの烏賊になったみたいだと、凩は情けなく思った。白い着物の下から白い足がぷらり揺れる。
「もうちょっと丁寧に扱ってくれても良いじゃないか」
横抱きとは言わないが、鷲掴みはないと思う。
「すまんな、腕の加減がわからなくて。この腕、蠍の力も残っているようだ」
鷲掴みにされたままそろそろと足先から地面に下ろされ、凩は仰向けに寝かされた。
「紙か羽で出来ているように軽いな。お前は一体何者なんだ。何故ここにいる?」
「何故って、おれはおまえに喰われちゃってここにいるんだけど…」
男の顔は全く見えなかったが、見下され『何を馬鹿なことを…』というような表情を兜の下で浮かべているような気がした。
「俺はお前を喰った記憶などないし、現にお前の身体は、ここにあるじゃないか」
「おまえの腹と腕の傷を治すのにおれの身体をつかったじゃないかよ」
不穏な気配が漂い始めた。構えを解いていた西洋甲冑の腕に力が籠もったようだ。かちかちと逆だった鱗がぶつかり立つような音がする。
「…やはりおまえを殺さねば此処を出られないようだな」
「まてまてまてめてて!おれが来た時、おまえは一人だったけど、この場所は壊れていなかった。おれをころしてもお前はきっと出られない」
噛んだが、それどころではない。
振り下ろされた鋏が首を挟んでいた。
「今だって片腕を治してやっただろー」
「…そうだな。…俺も少し混乱しているようだ」
だが男は構えを解かず振り下ろされた蠍の腕の鋏は凩の首を押さえたままだ。危機は去っていない。
凩は途方にくれた。
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