こがらしはしぬことにした

小目出鯛太郎

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砂の国

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 ううん、とこがらしは呻いた。

「なんていうかねぇ、ごうの深い鎖なんだよ。これ」


 例えばこの鎖が絡んでいる西洋甲冑よろいむしゃの足を切って、凩が新しい脚を継ぎなおしてやってここから出られるか?と考えると出られない気がする。気がするどころではなく、確実に出られない感がある。

 指を抜いたら簡単にほどけるような綾取りの気安さではなく、腹を据えてかからねば絶対に解けない重い想いの糸の鎖。

 ここに関わる必要があるだろうか?

 あるとも、と凩の一部が拳を突き上げた。
お前、思ったじゃないか。見るも無残なこの男の身体を癒すのにつきあおうと、あの時思ったじゃないか。これこそ乗り掛かった舟、袖すりあうも多生の縁と。どんな小さな事もちょっとしたことも偶然に起こるのではなく、すべて深い宿縁によって起こるのだから。

 おい、なんだか急に坊主みたいに説教くさくなってきたぞと、正座させられた小僧のように凩はむずむずする。凩の中で進んで何かをしようという自分と尻込みする気持ちに分かれていた。傍観しようとする気持ちもある。
 砕けた、砕かれた夢を見ると、心も砕けちゃうのか?

 素麺のように脆くても気持ちくらいは一つにまとまっていないと。

 揺れる気持ちに踏ん切りをつける。



「ねぇ、鎧の人…。もう一回お願いがあるんだけど…」

「なんだ?」

 今度は返事があった。

「この鎖がなんとかならないか、試してくるからちょっと俺の身体の何処かを持っていてくれないかなぁ…」

「良いだろう。何処を持てば良い?だがおまえがやろうとしていることは、俺ではできないのか?」

 凩は這いずり、胡坐をかいている西洋甲冑よろいむしゃの近くに寄った。鎖が貫通している男の甲冑の左足に頭を近づけた。男は地面に広がる髪の一束を手に取った。


「うぅん。俺も自分がやろうとしていること、説明ができるわけじゃないし。ちょっと試してくるだけだからもしかしたら何も起きないかもしれないし、そのまま消えちゃうかもしれないし」

「…消えたりしないでくれ」


 男に髪を持たれたまま、凩は目を閉じた。この黒い鎖の中へずぶずぶと沈み込んでゆく。黒い鎖の奥へ、暗く狭い洞窟の中を通るように降りて行った。



 残された男は、黙って座りしばらくそのまま髪を握っていた。が、白い化物の左手を取った。
 温もりのない白い手だった。細い指にはちゃんと爪もついている。

 もし仮に取り付くような妖しい素振りがあっても即座に首を落とせる自信があった。だがこの化物は多分そういうことをしないだろうと思えるようになった。


 人語を介さぬ化物であればすぐ殺せたのにと思う。

 あんな風に泣かれてはやりにくくてかなわぬ、と男は黙したまま座って待ち続けた。
 







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