26 / 79
砂の国
25
しおりを挟む
ううん、と凩は呻いた。
「なんていうかねぇ、業の深い鎖なんだよ。これ」
例えばこの鎖が絡んでいる西洋甲冑の足を切って、凩が新しい脚を継ぎなおしてやってここから出られるか?と考えると出られない気がする。気がするどころではなく、確実に出られない感がある。
指を抜いたら簡単にほどけるような綾取りの気安さではなく、腹を据えてかからねば絶対に解けない重い想いの糸の鎖。
ここに関わる必要があるだろうか?
あるとも、と凩の一部が拳を突き上げた。
お前、思ったじゃないか。見るも無残なこの男の身体を癒すのにつきあおうと、あの時思ったじゃないか。これこそ乗り掛かった舟、袖すりあうも多生の縁と。どんな小さな事もちょっとしたことも偶然に起こるのではなく、すべて深い宿縁によって起こるのだから。
おい、なんだか急に坊主みたいに説教くさくなってきたぞと、正座させられた小僧のように凩はむずむずする。凩の中で進んで何かをしようという自分と尻込みする気持ちに分かれていた。傍観しようとする気持ちもある。
砕けた、砕かれた夢を見ると、心も砕けちゃうのか?
素麺のように脆くても気持ちくらいは一つにまとまっていないと。
揺れる気持ちに踏ん切りをつける。
「ねぇ、鎧の人…。もう一回お願いがあるんだけど…」
「なんだ?」
今度は返事があった。
「この鎖がなんとかならないか、試してくるからちょっと俺の身体の何処かを持っていてくれないかなぁ…」
「良いだろう。何処を持てば良い?だがおまえがやろうとしていることは、俺ではできないのか?」
凩は這いずり、胡坐をかいている西洋甲冑の近くに寄った。鎖が貫通している男の甲冑の左足に頭を近づけた。男は地面に広がる髪の一束を手に取った。
「うぅん。俺も自分がやろうとしていること、説明ができるわけじゃないし。ちょっと試してくるだけだからもしかしたら何も起きないかもしれないし、そのまま消えちゃうかもしれないし」
「…消えたりしないでくれ」
男に髪を持たれたまま、凩は目を閉じた。この黒い鎖の中へずぶずぶと沈み込んでゆく。黒い鎖の奥へ、暗く狭い洞窟の中を通るように降りて行った。
残された男は、黙って座りしばらくそのまま髪を握っていた。が、白い化物の左手を取った。
温もりのない白い手だった。細い指にはちゃんと爪もついている。
もし仮に取り付くような妖しい素振りがあっても即座に首を落とせる自信があった。だがこの化物は多分そういうことをしないだろうと思えるようになった。
人語を介さぬ化物であればすぐ殺せたのにと思う。
あんな風に泣かれてはやりにくくてかなわぬ、と男は黙したまま座って待ち続けた。
「なんていうかねぇ、業の深い鎖なんだよ。これ」
例えばこの鎖が絡んでいる西洋甲冑の足を切って、凩が新しい脚を継ぎなおしてやってここから出られるか?と考えると出られない気がする。気がするどころではなく、確実に出られない感がある。
指を抜いたら簡単にほどけるような綾取りの気安さではなく、腹を据えてかからねば絶対に解けない重い想いの糸の鎖。
ここに関わる必要があるだろうか?
あるとも、と凩の一部が拳を突き上げた。
お前、思ったじゃないか。見るも無残なこの男の身体を癒すのにつきあおうと、あの時思ったじゃないか。これこそ乗り掛かった舟、袖すりあうも多生の縁と。どんな小さな事もちょっとしたことも偶然に起こるのではなく、すべて深い宿縁によって起こるのだから。
おい、なんだか急に坊主みたいに説教くさくなってきたぞと、正座させられた小僧のように凩はむずむずする。凩の中で進んで何かをしようという自分と尻込みする気持ちに分かれていた。傍観しようとする気持ちもある。
砕けた、砕かれた夢を見ると、心も砕けちゃうのか?
素麺のように脆くても気持ちくらいは一つにまとまっていないと。
揺れる気持ちに踏ん切りをつける。
「ねぇ、鎧の人…。もう一回お願いがあるんだけど…」
「なんだ?」
今度は返事があった。
「この鎖がなんとかならないか、試してくるからちょっと俺の身体の何処かを持っていてくれないかなぁ…」
「良いだろう。何処を持てば良い?だがおまえがやろうとしていることは、俺ではできないのか?」
凩は這いずり、胡坐をかいている西洋甲冑の近くに寄った。鎖が貫通している男の甲冑の左足に頭を近づけた。男は地面に広がる髪の一束を手に取った。
「うぅん。俺も自分がやろうとしていること、説明ができるわけじゃないし。ちょっと試してくるだけだからもしかしたら何も起きないかもしれないし、そのまま消えちゃうかもしれないし」
「…消えたりしないでくれ」
男に髪を持たれたまま、凩は目を閉じた。この黒い鎖の中へずぶずぶと沈み込んでゆく。黒い鎖の奥へ、暗く狭い洞窟の中を通るように降りて行った。
残された男は、黙って座りしばらくそのまま髪を握っていた。が、白い化物の左手を取った。
温もりのない白い手だった。細い指にはちゃんと爪もついている。
もし仮に取り付くような妖しい素振りがあっても即座に首を落とせる自信があった。だがこの化物は多分そういうことをしないだろうと思えるようになった。
人語を介さぬ化物であればすぐ殺せたのにと思う。
あんな風に泣かれてはやりにくくてかなわぬ、と男は黙したまま座って待ち続けた。
10
あなたにおすすめの小説
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない
砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。
自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。
ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。
とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。
恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。
ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。
落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!?
最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。
12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)
優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。
本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる