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第8話 司令官補佐ワイーザの誤算
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「熾天使の力を我に。全ての魔物を消滅せよ! シャイニング・ハロ」
熾天使フジーコの杖がぼわっと光が灯るが、すぐに消えてしまう。
「くそっ、何故魔法が発動しないんだ!」
「チクリーン様、大丈夫ですわ。私も熾天使フジーコ様に祈りを捧げます」
「おい、どうなってるんだ。魔法が発動してないぞ!」
モンスター部屋が映し出されるモニターを眺めているのは、第6ダンジョン司令官補佐のワイーザ。
「現在、原因調査中です」
「絶対にチクリーンを守るんだ。あれは俺様の勇者なんだぞ。万が一があってはならん。分かってるだろうな」
モニターには引き攣った顔の勇者チクリーンが映し出され、魔物との距離も次第に縮まってゆく。
「解析結果が出ました。魔力不足です。上位魔法の連発で、供給魔力が不足しています」
「そんなことは構わん、どうとでもなるだろが。俺様の勇者を救うことを最優先にしろ!」
「しかし、これ以上はブラックアウトを起こす危険性があります」
再びモニターの中の勇者チクリーンは、熾天使フジーコの杖を翳しシャイニング・ハロを詠唱しようとしている。
「やれと言ったらやるんだ。俺様の命令が聞けんのか!」
しかし今度は、熾天使フジーコの杖が光ることもない。それどころか、薄暗かったモンスター部屋が完全に暗闇に包まれ、モニターにも何も映し出されない。
「おい、どうなってる。別の映像に切り替えろ。何も見えんぞ」
「違います、モニターに映像が届いていません」
『デマンド警報発令、デマンド警報発令! ダンジョン内での魔力消費が増大中。直ちに全ての業務、魔力消費を中止し、不測の事態に備えよ!繰り返す……』
そこにデマンド警報の館内放送が流れると、魔力の供給が停止され、モニターだけでなく照明も次々に消え出す。
「何でだ。どうして、こうなるんだ?」
「勇者の稼働が早すぎたんです。第3勇者はあくまでも来月からの稼働予定で、今のダンジョンには余剰な魔力は多くありません」
それは、勇者稼働を前倒ししたワイーザの計画に問題がある。本来ならば、勇者の存在は一元管理されなければならない。それぞれのスキルや能力に見合った魔力が割り振られ、それに従って勇者の育成計画が策定される。
しかし、ワイーザは来月から稼働する勇者の稼働計画を10日も前倒ししてしまった。司令官補佐であるワイーザが一番敵意を剥き出しにしているのは、副司令官レヴィンに対してであり、少しでも己の実力を示そうと独断で行動してしまった。
「全て俺様の責任だと言いたいのか?貴様の怠慢だろが。誰かモンスター部屋に行かせて、勇者を助けて来い。剣豪クラスの黒子天使を憑依させれば済むだろが」
「それは無理です。それこそ、勇者の体が持ちこたえれません」
勇者チクリーンは魔法使いタイプの勇者になる。戦士タイプの勇者であれば、力に耐え得る体が必要になるため、肉体の強化や改造が必要になる。だが、魔法使いタイプの勇者にはその必要がなく、肉体には一切の強化も改造も施されていない。
それは第7ダンジョンとの熾烈な争いを勝ち抜く為に、急造勇者を仕立てようとした熾天使フジーコの思惑でもある。その思惑通りに勇者チクリーンは、熾天使フジーコの杖を利用し、ダンジョンを急激に速度で進んだ。しかし、それは必要以上に上位魔法ライトニング・ハロを連発してしまうという結果を招いた。
「うるさい。ならば貴様が責任を取れ。俺様の完璧な計画を失敗させたのは、全てお前のせいだ。そうだ、お前が責任を取れば全てが……」
(副司令官のレヴィンの名において通達する。総員退避せよ。全ての黒子天使に使い魔、魔物も全てだ。繰り返す、総員退避せよ。全ての黒子天使に使い魔、魔物も全てだ)
頭の中に響くのは、副司令官レヴィンの念話。そして、次々と黒子天使達が席を立つ。
「貴様ら、どこに行くつもりだ」
「副司令官の命令に従い、退避を始めます」
「おい、待て。何をしている、持ち場に戻れ!」
しかし一人が逃げ出せば、事態は加速度的に進む。
もう司令官補佐ワイーザに従う者も、勇者チクリーンを助けようとする者もいない。
ダンジョンの禁忌に触れた者には、災厄が襲いかかる。ここに留まれば、災厄に巻き込まれてしまうのは間違いない。
熾天使フジーコの杖がぼわっと光が灯るが、すぐに消えてしまう。
「くそっ、何故魔法が発動しないんだ!」
「チクリーン様、大丈夫ですわ。私も熾天使フジーコ様に祈りを捧げます」
「おい、どうなってるんだ。魔法が発動してないぞ!」
モンスター部屋が映し出されるモニターを眺めているのは、第6ダンジョン司令官補佐のワイーザ。
「現在、原因調査中です」
「絶対にチクリーンを守るんだ。あれは俺様の勇者なんだぞ。万が一があってはならん。分かってるだろうな」
モニターには引き攣った顔の勇者チクリーンが映し出され、魔物との距離も次第に縮まってゆく。
「解析結果が出ました。魔力不足です。上位魔法の連発で、供給魔力が不足しています」
「そんなことは構わん、どうとでもなるだろが。俺様の勇者を救うことを最優先にしろ!」
「しかし、これ以上はブラックアウトを起こす危険性があります」
再びモニターの中の勇者チクリーンは、熾天使フジーコの杖を翳しシャイニング・ハロを詠唱しようとしている。
「やれと言ったらやるんだ。俺様の命令が聞けんのか!」
しかし今度は、熾天使フジーコの杖が光ることもない。それどころか、薄暗かったモンスター部屋が完全に暗闇に包まれ、モニターにも何も映し出されない。
「おい、どうなってる。別の映像に切り替えろ。何も見えんぞ」
「違います、モニターに映像が届いていません」
『デマンド警報発令、デマンド警報発令! ダンジョン内での魔力消費が増大中。直ちに全ての業務、魔力消費を中止し、不測の事態に備えよ!繰り返す……』
そこにデマンド警報の館内放送が流れると、魔力の供給が停止され、モニターだけでなく照明も次々に消え出す。
「何でだ。どうして、こうなるんだ?」
「勇者の稼働が早すぎたんです。第3勇者はあくまでも来月からの稼働予定で、今のダンジョンには余剰な魔力は多くありません」
それは、勇者稼働を前倒ししたワイーザの計画に問題がある。本来ならば、勇者の存在は一元管理されなければならない。それぞれのスキルや能力に見合った魔力が割り振られ、それに従って勇者の育成計画が策定される。
しかし、ワイーザは来月から稼働する勇者の稼働計画を10日も前倒ししてしまった。司令官補佐であるワイーザが一番敵意を剥き出しにしているのは、副司令官レヴィンに対してであり、少しでも己の実力を示そうと独断で行動してしまった。
「全て俺様の責任だと言いたいのか?貴様の怠慢だろが。誰かモンスター部屋に行かせて、勇者を助けて来い。剣豪クラスの黒子天使を憑依させれば済むだろが」
「それは無理です。それこそ、勇者の体が持ちこたえれません」
勇者チクリーンは魔法使いタイプの勇者になる。戦士タイプの勇者であれば、力に耐え得る体が必要になるため、肉体の強化や改造が必要になる。だが、魔法使いタイプの勇者にはその必要がなく、肉体には一切の強化も改造も施されていない。
それは第7ダンジョンとの熾烈な争いを勝ち抜く為に、急造勇者を仕立てようとした熾天使フジーコの思惑でもある。その思惑通りに勇者チクリーンは、熾天使フジーコの杖を利用し、ダンジョンを急激に速度で進んだ。しかし、それは必要以上に上位魔法ライトニング・ハロを連発してしまうという結果を招いた。
「うるさい。ならば貴様が責任を取れ。俺様の完璧な計画を失敗させたのは、全てお前のせいだ。そうだ、お前が責任を取れば全てが……」
(副司令官のレヴィンの名において通達する。総員退避せよ。全ての黒子天使に使い魔、魔物も全てだ。繰り返す、総員退避せよ。全ての黒子天使に使い魔、魔物も全てだ)
頭の中に響くのは、副司令官レヴィンの念話。そして、次々と黒子天使達が席を立つ。
「貴様ら、どこに行くつもりだ」
「副司令官の命令に従い、退避を始めます」
「おい、待て。何をしている、持ち場に戻れ!」
しかし一人が逃げ出せば、事態は加速度的に進む。
もう司令官補佐ワイーザに従う者も、勇者チクリーンを助けようとする者もいない。
ダンジョンの禁忌に触れた者には、災厄が襲いかかる。ここに留まれば、災厄に巻き込まれてしまうのは間違いない。
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