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第10話 転移魔法陣の向こう側

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「レヴィン、第6ダンジョンが健在って本当なの?」

 天界では、第6ダンジョンは10階層を残して壊滅したことになってる。残された10階層も禍々しい魔力に汚染され、完全封鎖されている。
 その煽りを受けたのがブランシュなのだから、もし第6ダンジョンが健在なら、誰か暗躍している天使がいると疑ってしまう。

「先輩っ、オレっち達もダンジョンが無事だとは思わないっす。あの衝撃じゃ、無事なんかでは済まないはず」

「この転移魔法陣はな、双方に魔法陣が描かれていて初めて機能するんだ」

「知ってるっすよ。あっちの魔法陣が生きてるって言うんすか」

「そうだな、マリク。まず試しに、何か魔法陣に入れてみろ」

 そしてマリクが魔法陣に投げ入れたのは、不要となった第6ダンジョンの身分証。投げ入れた瞬間に、フッと消えて失くなってしまう。

「ほらな、魔法陣は生きている」

「でも、レヴィン。転移先が安全な保証はないでしょ」

「そうっすよ、ブランシュさんの言う通り。転移した瞬間に、待ち受けるのは死。そうじゃなくとも地獄かもしれないっす」

「第6ダンジョンの魔法陣はな、俺が新しくつくった魔法陣なんだよ」

 俺が総員退避させ、最後にノートパソコンに仕込んだのは、始まりのダンジョンへの転移魔法陣。もちろん、部屋の中の環境もモニタリングさせている。

「レヴィンったら、何を考えてるの。第6ダンジョンが破綻したって聞いて、私がどれだけ心配したと思ってるのよ」

「そう言うなって。これは、万が一の備え。もし第6ダンジョンの下層が無事なら、物資だって持ってこられる。悪いことはない」

「でも、誰が先に魔法陣に入るんすか? 絶対にオレっちは嫌っすからね。幸せな家庭すら持ってないのに、死ぬのはゴメンっすよ」

「仕方ない、俺が仕掛けた……。ちょっと待て、魔法陣が」

 途中まで言いかけて、転移魔法陣の変化に気付く。何かが、起ころうとしている。

「転移だ、何かが転移してくる」

 しまったとしか言えない。

 第6ダンジョンの下層は、マリクやカシューによって総員退避が完了している。誰も残っていないと思っていた。
 しかし、何かが産み出される可能性を失念していた。破綻したダンジョンでは、誰も生きることが出来ないとだけ思い込んでいた。

 転移魔法陣から感じられる魔力は大きい。

「来るぞ、戦いに備えろ!」

 マリクが、ブランシュとラナを守る為に前に出る。しかしブランシュは熾天使であり、俺達よりも秘めた魔力は多く、上位の魔法を幾つも行使出来る。眠ってはいるが、ラナもマリクを一瞬で倒す力を見せた。

 この中で一番弱いのは、残念だがマリク。でも、今はマリクの男気を立てる為に、あえて何も言わない。

 転移魔法陣から感じる魔力は、さらに増大する。確かに強い。だが、感じたことがある。どちらかといえば、想定内の強さ。

「おうっ、レヴィン。無事だったドラか」

「はあぁ、何やってんだバカ。こんな所で!」

 思わず大きな声が出てしまう。転移魔法陣から現れたのは、地竜のミショウ。

「いやな、その……マリクの身分証が魔法陣から出てきたから、覗きに来てみたドラ」

 あまりの場違いな雰囲気に、誰も言葉が出ない。

「ははーん、そういうことか。ザキさんの所に避難するのが嫌で、ダンジョンの中に隠れてたんだな」

「ちっ、違うドラ。お主のことが心配で、ここでずっと待っておったドラ」

「まあ、今はいい。第6ダンジョンの中はどうなってるんだ」

「あっ、ああっ、多少の衝撃で中は散乱しておるが、30階層から60階層までは特に問題はない。だがその上は無理ドラ」

 転移魔法陣から第6ダンジョンの指令室へと転移すれば、ミショウの言葉通り多少散乱してはいるが、何時もと変わらない光景。シャットダウンされたパソコンも再起動し、各階層の様子を映し出している。どこにも異常を示す警告すら出ていない。

 そして俺とミショウを追いかけ、マリクとブランシュも転移してくる。

「ほらな、言った通りだろ。第6ダンジョンは健在なんだ」
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