精霊のジレンマ

始まりの祠

5.ウィル･オ･ウィプス

「出来たっ」

思わず声が漏れてしまう。その瞬間、球が弾けるように消えてしまう。

「常に存在を常に意識しないと、維持できんぞ。その球を大きくする事が出来てからじゃな」

「これが出来ると、呪文とか覚えたりするのか？」

「呪文という呪文は無い」

呪文とはイメージをより鮮明にする為の手段に過ぎない。
だから長い詠唱でも、短い詠唱でも、無詠唱でも何でも良い。
より確実に鮮明に強く魔力を込めたいと思えば詠唱すれば良いし、早く発動させたい場合は無詠唱で良い。

「“マジックシールド”と唱えようが、“盾”と唱えようが、特に決まりはない。本人の意志がどれだけ込められるかじゃよ」

「そんな、曖昧な感じなのか？」

「マジックシールドといっても、ワシとお主のイメージするものは違うし、魔力の質も変わる。ワシの魔力は軟らかくて弾力がある。お主はなかなか堅そうな質じゃな。術者の個性が活かされるのが、無属性魔法の良いところじゃ」

「魔力を消費したい俺としては、悪いことだけどな･･･」

「だから、召還魔法を授けられたのじゃ」

「今はそれで納得しとくよ。それじゃあ、悪いところは？」

「他の属性と比べて、込める魔力が多いことかの」

「どれくらい？」

俺の問に、ライは若干目を反らして答える。

「まあ、１０倍といったところかな？魔力が溢れているお主では問題なかろう」

「１０倍魔力を込めるなら･･･魔法の発動時間は、どうなる？」

「込める魔力に応じた時間になるの」

「つまり、１０倍になるのか！」

「うむ･･･。じゃが良い事もある。物体化魔法は、ほぼ魔力を消費せん。魔法を解除しても、魔力はお主の体に戻る」

「魔法の打ち合いになったら、勝てないよな」

「そうなるが、発動時間が気になるなら、出しっぱなしにしておけば良い！」

「常に盾を出して、意識していろと？」

「慣れれば、髪の毛と一緒じゃて」

「･････う･･･ん、そんなもんか」


後は、同じ事の繰り返し。手の平の上に丸い球を出す。
出しては消すの繰り返し。そして、少しずつ球を大きくしてく。

なぜ最初に球を出すかというと、形状が簡単だから。
球なら直径がどれくらいの大きさと、物体を想像しやすい。
これが直方体になれば、縦･横･高さと、構成する要素が増える。
細かく複雑な形状も、構成する要素が成り立たなければ、物体として成立しない。

そこは魔法じゃないのか？ファンタジーだろと、愚痴ってしまう。

今は、単純作業の繰り返しだが、『マジックボール』と唱えたり、無詠唱にしたり、意識せずに感覚任せにしてみたりと。

そうしていく内に、球は５cm程までに大きくなってきた。

そこに、何か光る物体が飛んでくる。俺の球よりは一回りほど小さい球体が３つ。ウィル･オ･ウィプスなのだろう。
俺の手の周りを、様子を伺うようにグルグルと回り出す。

そして３体のウィル･オ･ウィプスが、次々と突然俺の手の平のマジックボールに向かってくる。

弾き返されるウィプス達。フラフラと地面に落ちかけて、また浮かび上がる。

今度は３体のタイミングを合わせて、同時に向かってくる。今度も結果は変わらない。再び弾き返されるウィプス達。

再び、フラフラと地面に落ちかける。しかし、今度は違う。
地面で待つのは、クオン。

目は忙しなく動き、ウィプスの動きを追っている。地面に落ちかけた瞬間、クオンが飛びかかる。
前足で捕まえ、噛みつき、引っ掻き、弾き飛ばす。そして、姿勢を低くし構える。

ウィプスは明滅する。降参の意志表示だろう。
だけど、クオンのワクワク感が半端ない。

「クオン、待ってやれ」

俺はウィプス達に話しかける。

「なあ、仲間になるか？」

肯定の意志を現すかのように、いや早く助けてと明滅するウィプス達。

「じゃあ、名前付けないとな」

青い光が、ルーク
白い光が、メーン
黄色い光が、カンテ

ウィプス達がブレスレットの中に消える。
不満気なクオンが、こっちを見る。

「大丈夫、クオン。ルーク、メーン、カンテ、出てこい！」