精霊のジレンマ

さんが

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ヒケンの森のオニ族

16.奇襲と毒の精霊

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16.奇襲と毒の精霊

森の中を通り、大きく北へ迂回する。
クオンの探知でゴブリンの位置は把握しているが、念を入れて大きく迂回する。

ゴブリン自体に大きな動きは無い。
湖の側の本体を中心に200mほど離れて、北・西・南西・南側を4つのグループが囲むように配置されている。

湖南にオニ族が居る事を知っている配置。
しばらく様子を窺ったが、お互いに連絡を取っているような気配はないし、行動も緩慢。

ソーキ達を襲ったグループと同じなら、仲間が戻ってこない状況で、もっと緊迫感があるはず。
やはり、このゴブリン達は別部隊だと思う。

まあ、最初にソーキ達を見てしまえば、オニ族は嘗められるだろうけど。


森から草むらにの中に入る。風や小動物の動く音に合わせて少しずつ動く。時間が長く感じる。

1m移動するのに1分?もっと短いのか?このままで間に合うのか?
ゴブリンの姿は見えないが、怪しい動きをすればクオンが教えてくれる。それが唯一の救い。

“カショウ、大丈夫”

クオンが目的のポイントに着いた事を知らせてくれる。

「ムーア、行くぞ!」

俺の前にムーアが現れる。俺とは違い余裕のある笑み。

『見せてあげる、私の力』

両手を前にかざし、短く呪文を唱える。

『酔眼朦朧』

“動きが変わった、大丈夫”

『ルーク、メーン、カンテ、行くぞ!』

俺のローブの中から、ルーク達が飛び出してくる。

北側のゴブリンは無視して、草むらの高さギリギリを、本体目指して一直線に飛ぶ。

本体のゴブリンは気付かないまま、ルーク達のサンダーボルトに殺られる。

バシッと言うサンダーボルトの音と光で、南側のゴブリン達が異変に気付く。

“西側が早い”

クオンがゴブリンの動き出しを指示し、メーンとカンテが西側に向かう。
近距離攻撃の得意なルークは、俺が到着するまで待機する。

ルークとカンテが西側のゴブリンを射程圏内に捉える頃、俺はやっと本体にたどり着く。

木製の檻に捕らえられた、蛙のような姿の毒の精霊。50㎝はありそうな大きな蛙で、体は黒に赤い縞模様が毒々しい。
一瞬ためらうが、マジックソードで木枠を切りつける。

スピードと体重を乗せた渾身の一撃は、木枠に少しだけ食い込んで止まる。

「貰っておいて正解だったな。ルーク、俺に合わせてくれ!」

腰に差してある、オニの短剣を取り出し魔力を込めると剣に炎が帯びる。

「ファイヤーボール」

木枠に火の球がぶつかる。直後に雷を纏ったルークが同じ場所に突撃する。

木枠が大破し檻が壊れる。
ムーアが檻の中に入り、毒の精霊に声をかける。

『何迷惑かけてんのよ。起きなさいよ!』

そして思いっきり、蛙の顔を蹴りつける!

「えっ・・・」
ルークの激しい明滅。
一秒でも時間が大切な時に、少し固まって動けない。助けに来たんだよな・・・。

“来るわ”

クオンの短い言葉で現実に戻る。

“本体と西側のゴブリンは倒した。もう居ない”

慌てて周りを確認する。残っているのはゴブリンの装備のみ。体が残らず消滅しているという事は、ルーク達の攻撃でゴブリンを倒しきった事になる。
ムーアとの契約で、かなり強くなってる。今の実力なら間違いなく、倒しきれる。

「殲滅するぞ!」

ゴブリンの放った矢が近くに刺さる。マジックシールドは常に展開しているし、クオンも探知しているから慌てはしない。

ムーアがカエル引きずりながら、檻から出てくる。

『狂喜乱舞』

ゴブリン達の矢が止まる。

“ゴブリン抱き合って喜んでる、笑い声が聞こえるわ”

クオンが呆れて報告してくる。
そしてムーアが蛙の足を掴まえて前に投げる。

『あんたも仕事しなさい!』

「ゲーーッ、危ナイ!」

投げられた蛙は空中で上手く体勢を立て直して着地する。

「ポイズンブレス」

蛙の口からブレスが放たれ、触れた瞬間にゴブリンの体が溶け出す。一瞬で3体のゴブリンが消えて失くなる。

唖然としている間に戻ってきたメーンとカンテが、残りのゴブリンを倒す。
遠距離攻撃が得意なメーンは更に射程距離が伸びて、レーザービームのような攻撃をみせる。
広範囲攻撃の得意なカンテも攻撃範囲が広がり、前面に雷の嵐が巻き起こっている。

慌てて飛び出したルークだが、すでにゴブリンは残っていない。寂しそうに、若干暗めの光で戻ってくる。

「ルークの雷を帯びた攻撃も凄かったよ。1人じゃ檻は破壊出来なかったから、ルークを残して正解だったろ」

と慰めて見る。

「北側のゴブリンが終わったら、ソーギョクの所に戻るぞ!」

俺は空に向かってファイヤーボールを放つ。

恐らく東側に居る対岸のゴブリンにも異変は伝わっていると思う。
木檻を破壊したファイヤーボールやルーク達のサンダーボルトの光は、遮るものが何もない対岸にまで届くはず。
それならソーギョク達にもハッキリ分かるように知らせた方が良い。

「酒ノ精霊。チョット、待テ。置イテクノ?」

『責任持って、湖の水を元通りにしておきな!そして、今の私の名前は“ムーア”。カショウ様と契約してるの。助けてもらったんだから、感謝しなさいよ!』

こっちを見つめる蛙。仲間になりたそうにこっちをというやつかもしれない。

だけど、全く可愛らしさは感じられない。間違いなく、女子人気はないキャラだと思う。これは気付かなかった事にしようと思う。

『だから、言うことを聞く聞かないの?どっち?黙ってても分からないでしょ!』

ムーアが蛙を踏みつける。姿形は変えれるといっても、ピンヒールは履いてなかったはずですよね・・・

「何デモ言ウコトヲ聞ク。性悪女モ我慢スル。ダカラ一緒ニ連レテイッテ」

ムーアの足がグリグリと動いている。行動に反して優しいヤツなんだなと思う。

「分かったよ。名前はブロッサでイイか?」
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