精霊のジレンマ

さんが

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タカオの街のドワーフ

74.魔石の記憶

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オルキャンの身体が消滅する。これはオルキャンが完全に魔物化してしまった事の証明になる。

そして大きなコボルトの魔石は砕け散り、俺に降りかかる。ゴブリンキングの時と同じで、身体に付いた魔石は吸収されて無くなる。
俺だけが吸収してしまうのか、誰でもが吸収してしまうのかは分からない。


そして、オルキャンの記憶が俺へと流れ込む。

この鉱山で起こった過去最大の崩落事故。そこで見つかったのは、石柱とコボルトの大量の魔石。忘れられてしまった過去の遺跡なのか、それとも封印された遺跡なのか、そして何かの儀式を行った跡なのかは分からない。

そこに現れたのが、銀髪の剣士。そして、ドワーフ達は石柱と魔石の意味を知らされる。

それは、“魔物を変異させる術”

もちろんドワーフ達は拒否する。魔物を造り出すことも協力する事も出来ないし、それはあってはならない禁忌。

しかし銀髪の剣士が差し出した1本の剣が、ドワーフの決断を狂わせる。剣に嵌め込まれた魔石に引き込まれ魅了されるドワーフ達。

この魔石があれば、伝説と謳われる武器を超える事が出来る。ドワーフ造り出す武器こそが至高の存在になり得る。

一度魔石に魅了されてしまうと、もう後戻りすることは出来なかった。
剣に嵌められていたのはラミアの眼球。剣士とグルだったのは、相手を魅了し意のままに操る魔物ラミア。魔物に従うのは気に入らないが、身体は拒否する事が出来ない。
そして、巨大なコボルトの魔石がオルキャンの額に埋め込まれる。魔石から魔力が流れ込み、体の中を駆け巡る。複雑に絡み合った魔力は、もうほどくことは出来ないだろう。

それならば、残るは後世に残る至高の武器を造り出すことのみ。それが我が生きた証となる。

しかしコボルトの魔石とオルキャンが一体化したのは、オルキャンをコボルトの親玉にする為で、特別な力を与えるものではなかった。
ドワーフの職人としての技能や目利きする能力は失っているが、それに気付く事は出来ない。ただ目の前の光るだけの球に神剣となる力が秘められていると信じて疑わない、それだけがオルキャンの生きる一縷の望み。
100年もの長き時に渡って坑道の中で延々と同じ事を繰り返し、侵入者を排除する役割を与えられた存在。

これが、この鉱山やドワーフに起こった事のあらましになる。

「鉱山のコボルトも、オオザの崖のゴブリンに起こった変化も、全てが繋がっている」

やはり事態は局所的ではなく、すでに広がっている。そして100年も前から時間をかけて、用意周到に計画されていた事実。

『銀髪の剣士は何者なのか分かるの?』

ムーアの疑問も確かで、オルキャンもラミアも消滅してしまった今は、全貌を知っているのは銀髪の剣士のみ。

「ライみたいな銀髪だったな。ライの昔はあんな感じだったのかな?」

『ライは100年以上前からあの姿よ。それに剣士って感じはしないわ』

「何となくライを思い出しただけだよ」

『あの爺さんは怠け者だから、こんなマメな事はしないわよ!他に何か、記憶は伝わってきたの?』

「それだけだな。どうやってコボルトを変異させたか、ここで何をしようとしていたかもだし、オルキャン自身の過去の記憶もない」

『オルキャンの記憶というより、コボルトの魔石が見てきた記憶かもしれないわね』

「そうかもしれないな、俺のドワーフやこの世界の知識は全く変わってなさそうだ」

『ゴブリンキングの時みたいに、新しい能力は身に付いたの?』

特に変わった事はない。ゴブリンキングの時もそうだったが、何かを得た感覚はない。音が流れてくれたりメッセージが出てくれる親切設計なく、ふとした瞬間に今までと違う違和感で気付く。
何か確認はしないといけない気がする。正しいかどうかは分からないが、今は自分自身に問いかけてみる事しか出来ない。何か変わった事がないのか?何かの感覚が研ぎ澄まされてないか?

急に頭が痛み出す。次第に痛みは増し、目を開けていることが出来なくなる。

『大丈夫?』

ムーアが大きな声を出し、ブロッサがポーションを持っている。

目を閉じたはずなのに、目が眩む。大量の光景が、頭の中に飛び込んでくる。膨大な量の情報を単純に処理する事が出来ない。
平衡感覚も無くなり、立っている事も出来ない。
神経が焼き切れるような感覚。例え目が潰れても、この光景の波は続くのだろうか?
このままでは精神が壊れてしまう。意識が遠のき、体の力が抜ける。
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