精霊のジレンマ

さんが

文字の大きさ
140 / 329
クオカの洞穴の死霊

140.迷いの樹

しおりを挟む
「ココハ危険ナ場所、毒ガ満チテイル」

ダビデの言葉にブロッサが反応する。

「ブロッサ、そんなに危険なのか?」

「神経毒、カナリ強イ。精霊ノ魔力ノ流レモ狂ワセル程。地面二落チテイル実ノセイ」

毒の精霊であるブロッサが認める強毒で、この実が全ての生物の侵入を防いでいるのだろう。割れてはいないが、そこからジワジワと毒が漏れだし、周囲の木々も、漏れだした毒を吸収している。

「コレ、気付カナイデ踏ンダラ私デモ危ナイ」

「えっ、ブロッサでも危ない毒ってあるのか?」

「一回体験スレバ大丈夫。コレハ未ダ未知♪」

「ブロッサ、声と言葉の内容が合ってないけど、絶対に無理はダメだからな」

「だから私から離れないで下さいね・・・。まあ、精霊樹の杖を持っているカショウ殿も大丈夫ではあるのですが、離れて行動する事はお薦めしません」

“巨木、弾ける音”

さらに巨木から聞こえる微かな音をクオンが探知する。弾けるような音は、実のようなものを撒き散らしているのだろうか。点在している巨木だが、かなりの高度から撒き散らされれば実は広範囲に広がるはず。

「ダビデ、あの巨木は実を飛ばしているのか?」

「流石ですね。もう気付かれましたか。あれは“迷いの樹”と呼ばれています。あの木が飛ばす実だけでなく、花の匂いにも毒性があるので不用意に近付くのは危険ですよ」

迷いの樹が近付いてくると同時に、感じられる毒素も強くなる。
ダビデと俺の周りには、結界のようなものが張られて毒素の侵入を防いでくれている。そして俺の結界の中心にあるのは精霊樹の杖で間違いない。

「精霊樹の杖が結界を作ってくれるなら、ダビデも何か結界をつくる道具を持ってるのか?」

「・・・あっ、はい、御守りを持ってます。決して見せてはならないと言われていますので、お見せする事は出来ませんが」

「それは、俺達に話して大丈夫なのか?」

「言い付けは守ってるので大丈夫です」

ディードも出てこないところを見ると問題はないのだろうが、もしこれが喋ってはならない事であった場合は・・・。ダビデに不用意に聞くのは危ない事かもしれない。

さらに迷いの樹が近付いてくると、樹の呼吸が感じられる。酸素を吸い二酸化炭素を吐き出すように呼吸しているが、迷いの樹の場合は魔力を吸い込み、毒素を吐き出している。

確かにダビデは嘘は言っていないかもしれないが、全ての情報が網羅されていたり教えてくれるわけではない。実や花だけに気を付けるだけではなく、この樹自体に触れてすらいけない。
かといってダビデは腹芸が出来る性格ではないし、知らない可能性も否定は出来ないが、ディードなら十分理解しているだろう。

「ダビデ、この樹に黒い靄がかかっているのは何なんだ?」

「えっ、それは・・・。よく気付きましたね。この樹は魔力溜まりの靄を吸い上げて、上空から拡散させているんです。迷いの結界内に魔力溜まりをつくらない役割も果たしているんですよ」

「魔樹のように吸収はしてくれないのか?」

「詳しい事は私も分かりませんが、1ヶ所に集中して溜まらなければ大丈夫みたいですね」

「迷いの樹自体は大丈夫なのか?変質したりするだろ」

「迷いの樹はドライアドやトレントが見ているので大丈夫なはずです。あまり近付くと怒らせるので、傍は通りませんよ」

「合一の大樹もトレントの木だったけど、この森には他にも巨体な木があるのか?」

「そんな大きな木なんて、あるわけないじゃなですか!」

「ダビデ、無駄話は控えて先を急ぎましょう!」

急にディードが姿を現す。相変わらず口元にだけ笑みを浮かべた表情で何を考えているかを悟らせないが、何気に聞いたこの質問はマズかったのかもしれない。

普通に考えれば植物だけでは、ここまで大きく成長する事は考えられない。違う世界であってもライの話では、常識的な事は一緒だったはず。それから大きく食い違うとなれば魔法や精霊が関係していて、トレントやドライアドが関係しているのは間違いない。


そして巨木の内側に入ると、若干ではあるが空気の質感が変わる。空気が重いというか、魔力が濃い感じがする。

「ここから1週間も行けばクオカの町に着きます。途中にはエルフ族の集落もありますが、クオカの町を目指して最短で進みます。休憩も最小限で進みますので、はぐれないように付いてきて下さい」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界勇者のトラック無双。トラック運転手はトラックを得て最強へと至る(トラックが)

愛飢男
ファンタジー
最強の攻撃、それ即ち超硬度超質量の物体が超高速で激突する衝撃力である。 ってことは……大型トラックだよね。 21歳大型免許取り立ての久里井戸玲央、彼が仕事を終えて寝て起きたらそこは異世界だった。 勇者として召喚されたがファンタジーな異世界でトラック運転手は伝わらなかったようでやんわりと追放されてしまう。 追放勇者を拾ったのは隣国の聖女、これから久里井戸くんはどうなってしまうのでしょうか?

悪魔になったらするべきこと?

ファウスト
ファンタジー
剣と魔法の世界。そこで魔法を教える学校に通う主人公ルナ・フラウステッドは魔法使いに憧れてる女の子。次の進級で実技に行く段階になった彼女だったがどうしてか魔法を上手く使えない落第生となってしまった。そんな時、偶然にも雇われた家庭教師の先生が言う方法に運命を任せたところ・・・。 「悪魔になっちゃった!?」 悪魔に変化!だけでも中身はそのままの彼女の運命やいかに! 彼女を狙う影、彼女の体の行く末、それを見守る保護者たち。 彼女はいったいどうなってしまうのだろうか。 これは悪党から両親と自分の将来を守るために悪魔になった少女がその身の上と体の特殊さから 様々な騒動に巻き込まれるお話である。

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

インターネットで異世界無双!?

kryuaga
ファンタジー
世界アムパトリに転生した青年、南宮虹夜(ミナミヤコウヤ)は女神様にいくつものチート能力を授かった。  その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。  これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。

現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~

はぶさん
ファンタジー
木造建築の設計士だった主人公は、不慮の事故で異世界のド貧乏男爵家の次男アークに転生する。「自然と共生する持続可能な生活圏を自らの手で築きたい」という前世の夢を胸に、彼は規格外の「木魔法」と現代知識を駆使して、貧しい村の開拓を始める。 病に倒れた最愛の母を救うため、彼は建築・農業の知識で生活環境を改善し、やがて森で出会ったもふもふの相棒ウルと共に、村を、そして辺境を豊かにしていく。 これは、温かい家族と仲間に支えられ、無自覚なチート能力で無理解な世界を見返していく、一人の青年の最強開拓物語である。 別作品も掲載してます!よかったら応援してください。 おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。

この聖水、泥の味がする ~まずいと追放された俺の作るポーションが、実は神々も欲しがる奇跡の霊薬だった件~

夏見ナイ
ファンタジー
「泥水神官」と蔑まれる下級神官ルーク。彼が作る聖水はなぜか茶色く濁り、ひどい泥の味がした。そのせいで無能扱いされ、ある日、無実の罪で神殿から追放されてしまう。 全てを失い流れ着いた辺境の村で、彼は自らの聖水が持つ真の力に気づく。それは浄化ではなく、あらゆる傷や病、呪いすら癒す奇跡の【創生】の力だった! ルークは小さなポーション屋を開き、まずいけどすごい聖水で村人たちを救っていく。その噂は広まり、呪われた女騎士やエルフの薬師など、訳ありな仲間たちが次々と集結。辺境の村はいつしか「癒しの郷」へと発展していく。 一方、ルークを追放した王都では聖女が謎の病に倒れ……。 落ちこぼれ神官の、痛快な逆転スローライフ、ここに開幕!

処理中です...