精霊のジレンマ

さんが

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オヤの街のハーフリングとオーク

207.狙われたエルフ族

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知らなかったとはいえ、コアをオヤの草原に連れてきてしまった。オークの明らかな凶暴性といっても、どのように変貌するかは分からない。ただ、オークはコアの事をエルフと見るのだろうかという疑問が残る。

「コアは、オークに遭遇した事はあるのか?」

「私は見たことがありません。幸いにもラーキが出来てからは、クオカのエルフはオークに遭遇する事はなくなりました。先々代の話ですから、オークを知っている者といえば爺くらいの年の者達だけです。若い者達の中では、言い伝え程度でしか知りません」

「コアは族長になって何年経つんだ?」

「もうコアは族長ではなくご主人様に扶養される身ですが、族長になったばかりで百年程しか経っていません」

長寿のエルフなだけに、ヒト族と比べると時間感覚が違うのは分かるが、百年族長を務めてもなったばかりの感覚なのだから、コアの年齢は幾つなのだろうか?

「ご主人様、どうかされましたか?」

異世界でエルフであっても、さすがに女性に年齢を聞く気にはなれずに、少しだけ誤魔化してみせる。

「先々代なら、もっと昔の話になるんだろ」

「そうですね、千年程前の話ですね。私は産まれたばかりなので、その頃の記憶はありません」

「それなら、近付かないように脅しで言っている可能性もあるんだろ」

「爺が定期的に部隊を率いて、ラーキがどうなっているかを確認しにいっていましたが、そこで見るオークはまだ狂暴なままだと聞いています」

あの爺さんなら、何かを隠してそうな気はする。しかし、千年以上も生きる長寿な種族はエルフ以外に聞いたことがない。
その時、暇をもて余したムーアの姿が目に入る。そういえば近くには、生死の概念がない存在がいた事を思い出す。

「爺エルフくらいしか知らない昔の話でも、ムーアとブロッサは何か知っている事があるんじゃないか?」

『何か言葉が1つ多い気がするわね』

爺エルフと呼んでいるだけに、それと比べられ同等とされるとムーアは複雑な表情をみせる。

「アシスの創成期から世界を見守ってきた精霊として、何か知ってい事はないか?」

『まあ、それならイイわ。知性の低いオークなら生き物を見れば手当たり次第に襲いかかるけど、迷いの森のエルフは別格ね」

「別格って、どいう事なんだ?」

『例えば、ヒト族とエルフ族が並んで立っているとするでしょ。そしたら、どうなると思う?』

「そんな言い方されると、だいたい答えは決まっていて、エルフの方が先に襲われるんだろ」

『少し違うわ。ヒト族は完全に無視されて、襲われる事すらないわ。そこまでエルフ族に執着するのよ』

「でもそれは、クオカの森のエルフ族だけで、他のエルフ族は違うウワ」

ムーアの情報にブロッサが捕捉してくる。

「昔はオークが侵入してくる、南の森の方が危険だっタノ。だから、多くの精霊は東の森へと移っタワ。その時に見たエルフ族は大丈夫だったから、狙われるのはクオカのエルフ族のみヨ」

「クオカのエルフ族と、他のエルフ族には違いがあるのか。見た目とか特徴とか?」

「見た目の違いは、服装だけだったと思ウワ」

そして、皆の視線がコアに集まる。ネコ耳でメイド服の少女は、クオカのエルフに見えるのだろうか?だけど、その事を誰も口にはしない。

「オークの凶暴性が増すなら、コアは影の中になるけど大丈夫か?」

「大丈夫です、ご主人様♪コアの心配をしてくれるなんて、一気に距離が縮まった感じがします」


とりあえずは、当面の問題は解決したけれども、肝心なのはオークが何処にいるかという事になる。見晴らしが良くて隠れるような障害物が少ない草原で、オークの姿は全く見えない。
リッター達が哨戒に出ても、それらしい穴や住居どころか痕跡すら見つからない。繁殖して数のいるオークなら何らかの痕跡が見つけやすいはずなのに、手掛かりとなるようなものすら見つからない。

「ムーア、魔物って繁殖するのか?」

『繁殖というよりは分裂ね』

アシスの魔物は、子供を作って繁殖する事はない。魔力を溜め込みその量が多くなると、魔物の核が分裂し2つになる。それは、ゴブリンやハーピーでも同じで、違いはゴブリンは魔力を溜め込みにくいが、オークは魔力を吸収して溜め込みやすい。もっと上位の魔物になれば、溜め込んだ魔力で更に上の存在と進化する。

この草原には、オークにとっては不向きな環境なのだろうか?
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