精霊のジレンマ

さんが

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オヤの街のハーフリングとオーク

254.亀裂の中へ

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「えっ、そんな」

 関係性が変わってしまった後の事までは考えていなかったのか、コアは動揺を隠せないでいる。

『私達もコアとカショウは対等の関係であって欲しいと願っているのよ。夫婦の契りの資格がないと判断された時点で、契約は切れてしまうのだから』

 ムーアの言葉に、コアは慌てて左手の薬指に現れた指輪を右手で覆い隠して、その感触をしっかりと確かめている。

「分かりました。なるべく、そうあるように心掛けますわ」

 俺とコアの夫婦の契りを、精霊達は皆好ましく思っている。それはコアの資質であったり能力を認めているからでもあるが、なぜか精霊達は従属した関係性を望む。精霊であっても、対等な関係や俺が従属する関係を結ぶこことも出来るはずなのに、なぜ従属した関係を望むかは分からない。

 そして最後にムーアは、俺の顔を見てニヤリと笑う。その笑みが何なのかは理解出来ないが、何かを見透かされたような気分になり、少しだけムーアに聴覚スキルを任せたのを後悔してしまう。

『カショウ、どうしたの?時間を使ってしまったから、早く先へ進みましょう』

「ああ、そうだな。ロードの臭いを辿ろう」

 ロードの臭いは、間違いなく亀裂の中へと続いている。まだ臭いはしっかりと残っているが、亀裂は加速度的に広がり続け、倍以上にまで成長している。いつ、大規模な崩落が起こってもおかしくない。

 まず、俺の気配探知スキルとクオンの聴覚スキルで穴を調べるが、そこに潜む存在を探知できない。ただ、穴は真っ直ぐ下に伸び大きな空間が広がっている。

「流石にロードが居る事はなさそうだな」

『感情の声も聞こえないわよ。今出来たばかりの穴だから、罠もないでしょう』

「行くぞ!」

 颯爽と亀裂の中に飛び込んでみたが、追いかけてくるガーラがソースイとチェンを背中に乗せているのが少し様になっていない。
 それには触れずに一気に穴を降りると、50m程進んだところで空間が一気に広がる。ドーム型になった部屋は大きく、リッター達の光は奥まで届かない。

 そして、部屋の中央には大量に流れ込んだ砂が山となり堆積している。大量に砂が落ちているはずなのに、広大な空間の中では小さな山にしか見えない。誰がこの空間をつくったのだろうかという不気味さを感じる。

 穴の下まで到達したところで、影からブロッサが出てくる。ロードの臭いは俺しか嗅いでいないが、臭いを数字や記号で分かるスキルは、臭いを知らないブロッサにも伝え易い。

「これが、ロードの臭いネ。確かに分かりやすいシ、薄れた臭いでもハッキリと見えるワネ」

 ブロッサの方が嗅覚スキルに対しての順応性が高いようで、ロードの臭いを見つけてロードの臭いを辿り始め、迷うことなく一直線に奥へと進む。
 そして見えてきたのは、クオカの洞穴で見た事のある無数の横穴。巨人族でも立って歩けそうな高さの横穴は、丸い特徴的な形をしている。それはクオカの洞穴でみたワームが掘った穴とソックリで、クオカの洞穴とオヤの街が関係していると思わせる。

 そして無数のある横穴の中でも、ブロッサはロードの臭いが続く横穴を迷いなく選ぶ。俺の場合は分岐点があれば、都度立ち止まり臭いを確認していたが、ブロッサは一切立ち止まることはない。

「ブロッサ、慌てなくても大丈夫だぞ」

「ハッキリと見えているから大丈夫ヨ。それにしても、見え方や、色·大きさも変えられるから便利ネ。薬草採取や調合にも使えそウネ♪」

 ゴゴゴゴゴォォォー

 横穴まで辿り着くと地鳴りのような音が響き渡り、天井の岩がパラパラと崩れ落ちてくる。

「そろそろ崩壊しそウヨ。先を急ぎまショウ」

「お願い、助けて」

「んっ、誰だ?」

 地鳴りや落ちてくる石の音に混ざり、誰かの声が聞こえる。しかし、周囲には誰の気配も感じない。

「お願い、助けて」

 少しだけ声が大きくなった気がするが、それでも聞こえてくる声は小さい。

「ブロッサ、聞こえたか?」

「いえ何も、聞こえないワ」

「お願い、助けて」

 次第に大きくなる声だが、俺にしか聞こえていない。いや、俺とムーアにしか聞こえていない声。

『カショウ、上よ!』

 ムーアが、右手で天井を指し示す。

 崩れ落ちた岩の後から覗くのは、棘のある根が網目のように広がっている。

「あれは、ラーキの根なのか!」

『そうよ、ラーキの声よ』

「私の声が聞こえるの?お願い、私を解放して欲しいの」
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