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タイコの湖
282.タイムリミット
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蟲人族の容態は落ち着きを見せているが、一時的なもので長くは続かない。
「チェン、バッファは何をしている?」
俺達をここに呼びつけておいて、本人は魔毒に犯された病人を避けているのなら、すこし残念な気持ちになる。
チェンの事を気にかけたり、一人でフカダの岩峰まで来たのは、自分に害がないと分かっていればの行動で、いざ自分の身に害が及ぶとなれば近づかない。結局は身分のある上位者で、権力だけをかざし好き放題するタイプだったのかもしれない。
「旦那っ。言いにくいんすけど···」
もともと俺は、感情が顔に出やすい性格であるという自覚はある。しかし今の容姿では、チェンを萎縮させるほどの迫力はない。それなのに、チェンは言い難そうにしている。
「どうした?ゆっくりと考えている時間はないぞ」
「あの中にバッファ隊長がいるんでさっ」
「えっ···」
「他の奴らよりは、しぶといはずっすけど···。それでも、やっぱり死にかけっす」
そして、沢山の横たわっている蟲人に混ざって、カブトムシの角を持つバッファが横たわっている。確かに他の蟲人から比べると、呼吸や鼓動もしっかりしていて生命力が強いのは分かるが、正常な状態とは程遠く衰弱しているのは変わらない。
「ブロッサ、助ける方法なないのか?」
「スライムを倒せる程の毒ならば、蟲人の体にも少なからずダメージを与えてしまウワ。ここまで衰弱しているのら、逆に命を縮めてしまうだケヨ」
「もう、手遅れなのか···」
思わず最悪の結果を想像してしまうが、その嫌な予感をガーラが払拭してくれる。
「大丈夫!親玉を倒せば、スライム弱くなる。解毒剤だけで十分」
「ガーラ、もしかしてスライムの魔石を食べたのか?」
「食べてない。咀嚼しただけ」
「···」
スライムの魔石を口の中に入れることへのリスクは大きい。しかし、それでガーラから一縷の望みを提示されれば、今はそれについては細かく触れることは出来ずに、ただグッと堪えるしかない。
「ブロッサ、蟲人族は後どれくらい持ちこたえれる?」
「このまま何もしなければ2日か3日が限度ネ」
解毒剤で容態が落ち着いただけに、もう少し時間があると思ったが、蟲人族に残された時間は想像以上に短い。
「チェン、ヒガバナの咲いた場所まではどれくらいで行けるんだ?」
「タイコの湖までは、2日はかかりやすっ」
普通にいけば、ここにいる蟲人族の助かる可能性は低い。それにヒガバナの咲くタイコの湖に着いたとしても、原因を探ることから始まる。
「ポーションをふんだんに使えば、4日は持ちこたえレル。でも、持っているほとんどのポーションを使うことになルワ」
ここで蟲人族を助けることに、意味があるのかと考えてしまう。アシスという世界に転移して、今まで積み上げてきたものを失うだけの結果になるかもしれない。
『らしくないわよ!そんなことで悩むなんて』
ムーアの一言で、損得勘定している今の自分に嫌気がする。アシスに来てから散々悩んできたが、それは俺や仲間達が生き残るための手段を選択する為でしかない。
確かにアシスでも金や権力も力であり、手に入れれば与える影響力は大きくなる。しかし無償で俺を助けた精霊やサージは、俺に損得で動くことを求めているのだろうか?
「そうだよな。俺に存在価値があるなら、金や権力じゃないな」
それに金や権力が力であると教えたのはライであり、その時からミスリードされていたのかもしれない。
「ブロッサ、またポーションは補充出来る。だから蟲人族の命を優先しよう。それで、少しでも助かる可能性があるなら、使い尽くしても構わない!」
「分かったワ」
「でも、その前に確認しなければならないことがある」
ここでポーションを使うことは構わないが、影の中のことやポーションの保有量など俺達の手の内を知られるようなことを簡単に晒すわけにはいかない。
まさに虫の息のバッファに近づく。その状態でも俺達のことは理解しているだろうが、体は全く動こうとはしない。
「成功しようが失敗しようが、俺達の秘密は守ってもらう。だから、今から案内人の蟲人族は、チェンの配下として働いてもらう。それに成功したときの、要求はもっと大きいからな!」
俺の問いかけにバッファは一度だけ目を開ける。そして笑みを浮かべると、再び瞳は閉ざされてしまう。
「いいな!というわけだから、こき使わせてもらうぞ」
「チェン、バッファは何をしている?」
俺達をここに呼びつけておいて、本人は魔毒に犯された病人を避けているのなら、すこし残念な気持ちになる。
チェンの事を気にかけたり、一人でフカダの岩峰まで来たのは、自分に害がないと分かっていればの行動で、いざ自分の身に害が及ぶとなれば近づかない。結局は身分のある上位者で、権力だけをかざし好き放題するタイプだったのかもしれない。
「旦那っ。言いにくいんすけど···」
もともと俺は、感情が顔に出やすい性格であるという自覚はある。しかし今の容姿では、チェンを萎縮させるほどの迫力はない。それなのに、チェンは言い難そうにしている。
「どうした?ゆっくりと考えている時間はないぞ」
「あの中にバッファ隊長がいるんでさっ」
「えっ···」
「他の奴らよりは、しぶといはずっすけど···。それでも、やっぱり死にかけっす」
そして、沢山の横たわっている蟲人に混ざって、カブトムシの角を持つバッファが横たわっている。確かに他の蟲人から比べると、呼吸や鼓動もしっかりしていて生命力が強いのは分かるが、正常な状態とは程遠く衰弱しているのは変わらない。
「ブロッサ、助ける方法なないのか?」
「スライムを倒せる程の毒ならば、蟲人の体にも少なからずダメージを与えてしまウワ。ここまで衰弱しているのら、逆に命を縮めてしまうだケヨ」
「もう、手遅れなのか···」
思わず最悪の結果を想像してしまうが、その嫌な予感をガーラが払拭してくれる。
「大丈夫!親玉を倒せば、スライム弱くなる。解毒剤だけで十分」
「ガーラ、もしかしてスライムの魔石を食べたのか?」
「食べてない。咀嚼しただけ」
「···」
スライムの魔石を口の中に入れることへのリスクは大きい。しかし、それでガーラから一縷の望みを提示されれば、今はそれについては細かく触れることは出来ずに、ただグッと堪えるしかない。
「ブロッサ、蟲人族は後どれくらい持ちこたえれる?」
「このまま何もしなければ2日か3日が限度ネ」
解毒剤で容態が落ち着いただけに、もう少し時間があると思ったが、蟲人族に残された時間は想像以上に短い。
「チェン、ヒガバナの咲いた場所まではどれくらいで行けるんだ?」
「タイコの湖までは、2日はかかりやすっ」
普通にいけば、ここにいる蟲人族の助かる可能性は低い。それにヒガバナの咲くタイコの湖に着いたとしても、原因を探ることから始まる。
「ポーションをふんだんに使えば、4日は持ちこたえレル。でも、持っているほとんどのポーションを使うことになルワ」
ここで蟲人族を助けることに、意味があるのかと考えてしまう。アシスという世界に転移して、今まで積み上げてきたものを失うだけの結果になるかもしれない。
『らしくないわよ!そんなことで悩むなんて』
ムーアの一言で、損得勘定している今の自分に嫌気がする。アシスに来てから散々悩んできたが、それは俺や仲間達が生き残るための手段を選択する為でしかない。
確かにアシスでも金や権力も力であり、手に入れれば与える影響力は大きくなる。しかし無償で俺を助けた精霊やサージは、俺に損得で動くことを求めているのだろうか?
「そうだよな。俺に存在価値があるなら、金や権力じゃないな」
それに金や権力が力であると教えたのはライであり、その時からミスリードされていたのかもしれない。
「ブロッサ、またポーションは補充出来る。だから蟲人族の命を優先しよう。それで、少しでも助かる可能性があるなら、使い尽くしても構わない!」
「分かったワ」
「でも、その前に確認しなければならないことがある」
ここでポーションを使うことは構わないが、影の中のことやポーションの保有量など俺達の手の内を知られるようなことを簡単に晒すわけにはいかない。
まさに虫の息のバッファに近づく。その状態でも俺達のことは理解しているだろうが、体は全く動こうとはしない。
「成功しようが失敗しようが、俺達の秘密は守ってもらう。だから、今から案内人の蟲人族は、チェンの配下として働いてもらう。それに成功したときの、要求はもっと大きいからな!」
俺の問いかけにバッファは一度だけ目を開ける。そして笑みを浮かべると、再び瞳は閉ざされてしまう。
「いいな!というわけだから、こき使わせてもらうぞ」
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