精霊のジレンマ

さんが

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タイコの湖

290.求められている役割

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 三対六翼の俺がスライムに追いつくよりも早く、シナジーのつくり出した霧が逃げるスライムを包み込んでしまう。この湖全体はすでにシナジーのテリトリーの中に入っていて、一斉にスキルを発動させただけなのかもしれない。

 そしてスライムが霧に隠されてしまうと、逆に動きはハッキリと手に取るように分かってしまう。シナジーの気配探知は霧の濃さに比例し、濃くなれば感度も上がり情報量も多くなる。
 しかしシナジーがフィルターの役割を果たすことで、必要な情報だけを選んで伝えてくれる為に、俺の処理能力でも十分に把握が出来る。

 最初こそ気配探知スキルを習得することで、クオンの負荷を少しでも減らそうと考えていた。しかし、今はシナジーにナレッジ·イッショ·ムーアと種類の違う探知系のスキルが揃い、仮に一つの探知スキルが機能しなくなっても、それを補うスキルがある。

「確かに、これなら俺の出番はないかもしれないな」

「そうでしょ。仮にシナジーの気配探知スキルが使えなくても、カショウの探知スキルの出番が来ることは無いだろうね」

「直球だな···」

「そう言わないと、なかなか踏ん切りがつかないでしょ!」

 ナレッジの遠慮のないストレート過ぎる返事に、かなり複雑な気持ちにさせらせるが、それは俺が求められている役割じゃないのだと割り切らせてはくれる。

 精霊達は進化し存在感を増し、今では上位精霊に近い力を持っている。最初こそは精霊との関係は対等だと思っていたが、今ではそんな精霊達と対等な力関係であるとは言い難い。
 それなのに、なぜか精霊達は俺に対して従属しようとしてくる。契約したり召喚された精霊の全てが、従属を好むわけではないが、俺達の関係性を深めるのに必要な要素なのかもしれない。


「カショウ、スライムの動きが止まったぞ。どうするんだ?」

 そしてイッショの魔力探知が、俺よりも先にスライムの動きの変化を感じとる。ここまで来ると、焦ったり取り繕う気持ちも起こらない。

「そうだよな、これが現実か···」

「やっと理解したようだな、努力をしなくても俺様の方が優れている」

 その間もスライムとの距離は縮まり、そこでやっと俺の探知スキルだけでもスライムを感じ取れるようになる。
 確かに大きなうねりとなった巨大な山のようなスライムの動きは止まっている。しかし、巨大な体の上部だけがユラユラと揺れ動き、どちらかといえば逃げ道を探しているようにも見える。

『かなり動揺しているわね』

「えっ、スライムの感情が分かるのか?」

 他の探知スキルと比べると、オークの聴覚スキルは対象となる相手の影響を受けやすい。知性がなく本能で動くものは、感じられる感情が少ない。スライムのように知能が低ければ、さらに聞こえてくる感情の声も小さくなる。

『そうね、この距離でも親玉の感情の声だけは聞こえるわよ。他のスライムは無理だけど、それは熟練度が上がれば改善されるかしら』

 ここでも浮き彫りになる探知スキルの性能の差。個人の資質や、向き不向きはあるからかもしれない。しかし最初から中位精霊として存在しているムーア達に、俺がスキルの扱いで勝つこと自体が無謀な挑戦なのかもしれない。
 逆に俺の探知スキルが低いからこそ、精霊達の活躍の場があるのだろうし、その方が精霊達にとっても存在意義にもなる。今はポジティブに考えなければ、前に進めない。

「でも、どうやってシナジーは、スライムを止めたんだ?」

 シナジーの存在が霧なのだから、巨大なスライムを包み込んだからといって、動きを止めるような脅威にはなり得ない。それでも、火属性や水属性といった魔法を行使したのだろうか?

「ウム、そういう事か。なるほどな、シナジーにしか出来んが、思いっきったことをしたな」

『そうね、この戸惑いの感情はそれしかないわね』

「何があったんだ?」

「まあ、見てのお楽しみだ。」

 イッショとムーアはシナジーがしたことを察したようだが、それが何かは俺には教えてくれない。さらにスライムに近付くと、霧の中に人影が見えてくる。

「タダノカマセイレ?」

 霧の中に見える跳んだり跳ねたりする人影はシナジーっぽいが、いつものケモ耳エルフ姿ではない。それに、人影から感じ取れる魔力はタダノカマセイレそのもので、シナジーの魔力とは違う。
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