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タイコの湖
322.魔物の棲みか
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俺の左の手の平の中央に、鎮座するように真紅に輝くゴルゴンの瞳がある。そして、俺の瞳をじっと見つめてくる。
咄嗟に左手を返して顔を背けるが、手の平にあった瞳が今度は甲へと移動した感触が伝わってくる。
「何してるの?」
「見たらマズいだろ。石化の瞳なんだし!」
「そんな訳ないでしょ。僕は体の一部になってるんだよ。自分のことを見て石化するようなら、もう石の体になってるよ」
そう言われれば、そうなのだが···。でも、はいそうですかと簡単に信じることが出来ずに、中々左手の瞳を見ようと思えない。
「動いてるでしょ、体?」
「···ああ、動いてるな」
「あのね、契約したのよ。宿主に害を与えることは出来ないのは分かってる?」
それには、ムーアも頷いているのが見えるので、バズが俺を石化させることは出来ない。
「精霊やソースイ達は、大丈夫なのか?」
顔も体も問題なく動き、周りを見渡しても精霊やソースイ達にも特に影響は及んでいない。
「まずは僕を見て話しない?いつまでも、顔を背けられても嬉しくないよ。コールと扱いが違うんじゃないの?差別だよ、差別反対っ!」
嬉しくないとか差別されているという言葉には、少しだけ悪いことをしたと反省する。ゴブリンやハーピーの場合は意図せずに体内に吸収してしまったが、コールやバズは俺に吸収されることを理解した上で、望んで吸収された。その当事者である俺が吸収した後で、バズの存在を敬遠してはならない。
ゆっくりと、左手の甲にあるゴルゴンの瞳に顔を向ける。しかし、甲にある瞳は1つしかなく、手の平も見てもゴルゴンの瞳はない。
「どう、大丈夫でしょ」
「そうだな、何ともないな」
「分かってるとは思うけど、僕は消滅しかけてたんだからね。今は2つの目を同時に力を発揮するのは難しいから、もう少し待って欲しいの」
「いや、しばらくは1つでイイよ。いきなり2つ現れても、俺がどう扱ったらイイか分からない」
しかし、普通であればゴルゴンの象徴である目に力が現れるのだろうが、何故左手に現れたのか分からない。
「どうして左手に現れたんだ?普通は目じゃないのか?」
「僕もそうしたかったんよ。でも、目はすでに取られてたから、新参者の僕は諦めるしかないわ」
「取られてるって···、コボルトキングが居たってことか」
俺の体は魔物化しているのではなく、正しくは魔物の棲みかになっている。
「それで、左手を居場所にしたのか?」
「そうよ、右手も取られてるから、次は左手しかないでしょ」
「一緒な場所じゃダメなのか?」
「あのね、僕は女の子よ。そこを忘れてない?」
「じゃあ、コールと一緒っていうのは大丈夫なのか?」
「コールと一緒なのは大丈夫だけど、あの娘はじっとしてないわ。体の中を自由に動き回ってるから」
信じがたくはあるが、俺の体の中に魔物達が棲みかをつくっている。これが本当ならば、魔物を吸収出来る数には限りがある。むやみやたらに魔物を吸収するのは、魔物達のバランスを崩し良くないかもしれない。
残された体の部位も限りがあるのだから、体のほとんどを魔物の棲みかにされてしまえば、俺の存在は魔物となってしまうような気がする。
「ムーア、これ以上の魔物の吸収は良くないかもしれないな。全身に魔物の棲みかになれば、俺の存在はヒトから魔物になってしまう。その内に瞳が赤くなってもおかしくない」
『まだ赤っぽくなってないんだけどね···』
「そんな事心配していたの?それなら、ウチに任せてよ!」
そう言って、コールが再び俺の体の中に入り込み消えてしまう。バズが言ったように、コールは俺の体の決まった場所に居ることは無く、体の中や表面を常に動き回っている。ひとしきり体の中を駆け回ると、顔の方へと移動してゆく。
『凄いわね。カショウ、これなら大丈夫。絶対に魔物化することはないわ!』
「何があった?」
コールが何かをしたことは分かるが、俺には全く変化は感じとれず、ムーアの驚く理由が分からない。
『ミュラーに、カショウに自分の姿を見せてあげて!』
するとミュラーの盾が姿見となって現れ、そこには何も変わらない何時もの俺が映っている。
「···瞳の色が変わってるのか?」
『そうよ!これなら、どれだけ魔物を吸収しても瞳の色を気にしなくてもイイのよ』
「えっ、そんなで大丈夫なのか?」
咄嗟に左手を返して顔を背けるが、手の平にあった瞳が今度は甲へと移動した感触が伝わってくる。
「何してるの?」
「見たらマズいだろ。石化の瞳なんだし!」
「そんな訳ないでしょ。僕は体の一部になってるんだよ。自分のことを見て石化するようなら、もう石の体になってるよ」
そう言われれば、そうなのだが···。でも、はいそうですかと簡単に信じることが出来ずに、中々左手の瞳を見ようと思えない。
「動いてるでしょ、体?」
「···ああ、動いてるな」
「あのね、契約したのよ。宿主に害を与えることは出来ないのは分かってる?」
それには、ムーアも頷いているのが見えるので、バズが俺を石化させることは出来ない。
「精霊やソースイ達は、大丈夫なのか?」
顔も体も問題なく動き、周りを見渡しても精霊やソースイ達にも特に影響は及んでいない。
「まずは僕を見て話しない?いつまでも、顔を背けられても嬉しくないよ。コールと扱いが違うんじゃないの?差別だよ、差別反対っ!」
嬉しくないとか差別されているという言葉には、少しだけ悪いことをしたと反省する。ゴブリンやハーピーの場合は意図せずに体内に吸収してしまったが、コールやバズは俺に吸収されることを理解した上で、望んで吸収された。その当事者である俺が吸収した後で、バズの存在を敬遠してはならない。
ゆっくりと、左手の甲にあるゴルゴンの瞳に顔を向ける。しかし、甲にある瞳は1つしかなく、手の平も見てもゴルゴンの瞳はない。
「どう、大丈夫でしょ」
「そうだな、何ともないな」
「分かってるとは思うけど、僕は消滅しかけてたんだからね。今は2つの目を同時に力を発揮するのは難しいから、もう少し待って欲しいの」
「いや、しばらくは1つでイイよ。いきなり2つ現れても、俺がどう扱ったらイイか分からない」
しかし、普通であればゴルゴンの象徴である目に力が現れるのだろうが、何故左手に現れたのか分からない。
「どうして左手に現れたんだ?普通は目じゃないのか?」
「僕もそうしたかったんよ。でも、目はすでに取られてたから、新参者の僕は諦めるしかないわ」
「取られてるって···、コボルトキングが居たってことか」
俺の体は魔物化しているのではなく、正しくは魔物の棲みかになっている。
「それで、左手を居場所にしたのか?」
「そうよ、右手も取られてるから、次は左手しかないでしょ」
「一緒な場所じゃダメなのか?」
「あのね、僕は女の子よ。そこを忘れてない?」
「じゃあ、コールと一緒っていうのは大丈夫なのか?」
「コールと一緒なのは大丈夫だけど、あの娘はじっとしてないわ。体の中を自由に動き回ってるから」
信じがたくはあるが、俺の体の中に魔物達が棲みかをつくっている。これが本当ならば、魔物を吸収出来る数には限りがある。むやみやたらに魔物を吸収するのは、魔物達のバランスを崩し良くないかもしれない。
残された体の部位も限りがあるのだから、体のほとんどを魔物の棲みかにされてしまえば、俺の存在は魔物となってしまうような気がする。
「ムーア、これ以上の魔物の吸収は良くないかもしれないな。全身に魔物の棲みかになれば、俺の存在はヒトから魔物になってしまう。その内に瞳が赤くなってもおかしくない」
『まだ赤っぽくなってないんだけどね···』
「そんな事心配していたの?それなら、ウチに任せてよ!」
そう言って、コールが再び俺の体の中に入り込み消えてしまう。バズが言ったように、コールは俺の体の決まった場所に居ることは無く、体の中や表面を常に動き回っている。ひとしきり体の中を駆け回ると、顔の方へと移動してゆく。
『凄いわね。カショウ、これなら大丈夫。絶対に魔物化することはないわ!』
「何があった?」
コールが何かをしたことは分かるが、俺には全く変化は感じとれず、ムーアの驚く理由が分からない。
『ミュラーに、カショウに自分の姿を見せてあげて!』
するとミュラーの盾が姿見となって現れ、そこには何も変わらない何時もの俺が映っている。
「···瞳の色が変わってるのか?」
『そうよ!これなら、どれだけ魔物を吸収しても瞳の色を気にしなくてもイイのよ』
「えっ、そんなで大丈夫なのか?」
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