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魔王(オレ)を殺した勇者の息子に生まれ変わったんだが……ヤツが毎日靴下をはかせてくる
【4】海外に高飛びしようとしたら勇者がついてくるという その1
しおりを挟むその日から真生の自立への道?が始まった。
まず風呂に一人で入ると強硬に言い張ったら、渋々承諾してくれた。ただし、バスルームのガラスの扉越し、その長身の姿がくっきり見えていた。過保護か! と思ったが、真生は身体と頭を洗い、二人ではないからかなり広い湯船にはいって出た。
順調に思えたが、翌日からすでに支障が出た。
頭がかゆい。
髪はしっかりと洗ったはずだ。勇磨が真生の黒髪のために揃えたお高いシャンプーとコンディショナーだ。気に入りのジャスミンとベルガモットの淡い香り。
問題は頭皮だ。子供の指では無理な、勇磨のあの長いゴールドフィンガーのマッサージが足りない。あいつの身体に頭を預けて洗われると、その心地よさについうとうとしてしまうほどだった。
結局三日で我慢の緒が切れて「髪を洗え!」と要求したら、扉の向こうで待機していた勇磨がいそいそと入ってきた。
そのまま頭を預けて髪を洗ってもらって気がついた。勇磨のシャツがびしょ濡れだ。「もうついでだから一緒に入っていい」と口にして、しまったと思ったが遅かった。
結局身体も洗われて、一人でお風呂作戦は三日で終了した。
次に服だ。朝、自分で着替えると宣言した真生だったが、早速問題にぶち当たった。
首のリボンが上手く結べない。
真生の通う私立は幼稚園から私服という自由な校風で知られている。もっともそうでなかったら、真生はこの学校に入ることを承知しなかった。
現代のシンプルな服は元魔王様の審美眼からすると、奴隷がむしろをまとった服か?と思われるものだったからだ。
魔王たるもの黒一色を身につけ、常に気品高く優美でなくてはならない。
そんな真生がまとう服は、光沢ある黒に赤や紫の差し色にレースにフリルがふんだんに使われた。
いわゆるゴスロリというヤツである。
初日、幼稚園の先生に「あまり華美な服装は……」と言われて勇磨が「黒一色なのですから派手ではないのでは?」とにっこり微笑んで黙らせた。小学校でもその手で記録更新中?である。
原色ばりばりのキャラクターTシャツやピンクやブルーのパステルカラーとやらのほうが、よほど色だけは派手ではないか?と思うのだが。
しかし、胸のリボンが結べない。やっと結べたと思ったら、左右の形がゆがんでいて我慢ならなくて解いた。
黒の正装?で胸元のリボンが決まらないなんて、魔王の沽券に関わる!
5回目にリボンを解いたとき、後ろから手が伸びてきて、ささっと真生が苦闘した時間が嘘のようにリボンは形よく結ばれた。姿見の鏡の中、自分の後ろに立つ勇磨がにっこりと微笑んだ。
そのままの流れでシャツ一枚だった真生は、結局靴下まではかされた。
こうして、一人でお着替え出来るもん作戦も見事玉砕した。
こうなれば最後の砦?とばかり、真生は一人で寝ると主張した。それまで必要ないと真生の部屋にはベッドが無かったが、一人で寝たいと言えばすぐに勇磨はベッドを買ってくれた。
真生の希望を勇磨が反対することはない。一人で風呂に入るといった時も、服を自分で着るといったときも、少し寂しそうな顔をして「真生がしたいなら」と言ってくれる。
今回もそうだった。寝台まで自分を送るようについてきて、肩まで布団をかけて「おやすみ」とさらには「眠るまでそばにいようか?」と言ったが「必要ない」と断った。
が……眠れない。別に一人寝が怖い訳では無い。寂しいわけでも。
ただ眠れないのだ。
そうして、まんじりともしない夜が明けて、部屋に勇磨がやってきていつものように顔を拭かれて、靴下をはかされた。
ぼんやりしたまま学校で授業を受けて、それでも意地で自室のベッドに寝っ転がって一時間。
やっぱり眠れなくて、天井を見つめていたら、部屋の扉が開いて勇磨がやってきた。目を開いている真生を勇磨は無言で横抱きにして、二人で寝ている大きなベッドに運ばれた。
そして、自分も横に身を横たえて真生を抱き寄せる。慣れた体温と匂いに、どっと眠気が襲ってきて真生は抵抗する気も起きなかった。
「真生、お前はまだ小学二年生だ。無理をして一人でなんでもやることはない。僕に頼っていいんだよ」
それもそうか……と真生は思った。今はまだ勇磨に頼っていい。自分の手足は短いし、指だってちんまりしているのだから。
もう少し大きくなってからでいいか……と真生は勇磨の胸に顔を埋めて目を閉じた。
これが間違いだったのだ。
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