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【5】だから予算が足りません!
「……当面の保証に次のしっかりした勤め先の斡旋。そうか!」
リョウの言葉をぶつぶつくり返していた、シャルムダーンは、いかなりこっちの肩をがっちり掴んできた。
「我が后よ!」
「僕はまだあなたの后じゃありませんし、なるつもりありません!」
「我がリョウよ!」
「呼び方変えただけじゃないですか! だからあなたのものじゃないって……」
「わかったぞ! 光明が見えてきた!」
「だから、そんなに揺さぶられないでください。ふみゃあ!」
妙な鳴き声? をあげてしまったのは、次の瞬間には抱きしめられていたからだ。そして裸にジレをまとったたくましい胸にちんまりした鼻が押しつけられた。
固いと思っていた胸筋はふにゃっと柔らかかった。そういえば上質な筋肉ってふわふわのベッドのようだって、いつか聞いた豆知識が頭に浮かんだ。
「難航していた奴隷解放の道筋がわかったぞ。彼らに必要だったのは当面の保証と、生きていくための職だったのだな!」
続くシャルムダーンの話によると、いきなりの奴隷解放令はやはりよくないと、彼なりに考えた。試しに奴隷三人に自由を与えてみたという。
「お前達はもう奴隷ではない。どことなりと行くがよい!」
誇らしくシャルムダーンは宣言した。
しかし、彼らはその場で彼に向かってひれ伏し泣き出したという。
ご主人様は自分達に死ねとおっしゃるのか? と。
このまま王という偉大な主人の元で奴隷として安寧に暮らして行きたいと。
「確かに自由になったとて、明日の食べるパンも温かな寝床もないとなれば死ねと言われているのも同様だな。彼らに必要なのは安定した職とその能力に応じた給金であったのだな……」
しみじみというシャルムダーンであったが、抱きしめられているリョウは、命の危機? にあった。ふかふかの胸に顔を押しつけられて、もがもがと手足をばたつかせていたら、ようやく力を緩めてくれた。
ぷはっと息をつき、リョウは叫んだ。
「あなたは僕を窒息死させるつもりですか!?」
「おお、そなたへの愛があふれるあまり、思わず力がこもり過ぎてしまった」
そして、涙目のリョウの顔をじっと見て。
「その赤らんだ顔、潤む黒い瞳のなんと愛らしいことよ。そなたが苦しむと知りながら、思わず再び抱きしめ……」
「へんな趣味に目覚めないでください!」
リョウはシャルムダーンを突き飛ばすようにその腕から逃れる。
「で、ハレムをすぐ解散するのは止めてください。少なくとも三ヶ月はそのまま」
「また三ヶ月か?」
「お手付きの方々が、あなたの子を身籠もっているかもしれないでしょう?」
「それがあるか」
「それに彼女達の嫁ぎ先だって決めないといけません」
寵姫というならば手に職なんて当然つけてないだろうし、それなりの美貌だろう。王宮ほどでなくても、裕福な相手との結婚が身の振り方として、妥当などころだ。
「それならば臣下達に……」
「強引に下げ渡すなんてダメですよ。ちゃんとお見合いをさせて、双方納得のうえで結ばれるべきです」
職業選択も兼愛も恋愛も“表向き”自由だと育った現代人としては、そこは譲れないところだ。
「そなたの条件はなかなか難しいな。三ヶ月以上かかりそうだ」
「それでいいんですよ。ハレム解散のための手当の予算だって組まなきゃならないでしょ?」
ああ、予算。嫌な言葉を口にしてしまった。
役所と予算は切っても切れない。一年の当初予算に、臨時の補正予算請求の資料作成に追い回され、窓口業務も並行し、下っ端は辛いよ。
この働きに応じてオチンギンあげてください。ああ、それもヨサン、デスカ?
「金がいるか……」
「だからって、税の取り立てを厳しくなんて無しですよ」
「そのような暴君では俺はない。民の生活が潤ってこそ国の富がある」
「そこは名君でらっしゃってよろしゅうございました」
なんだか妙な言い方になった。でも、名言だとやっぱり“チョット”見直したのだ。
民が潤えば、国は富む。
全てのお偉いさんに聞かせたい言葉である。
「ですから、奴隷解放はハレム解散が終わったあとですね」
なんだ良い王様じゃないかと思った。だからうっかり役人根性を出して、ぺらりと口にしてしまったのだ。
「なぜだ!? そなたの助言で光明が見えてきたというのに!」
「だからなにごとも資金がいるでしょう? ハレム解散でお金がかかるのに、両方は無理です」
「それにですね」とリョウは続けた。
「奴隷は所有物、つまりは財産なのでしょう」
さっき、ノワルがそう口にした。奴隷は主人の財だと。
「ということは、解放された奴隷の世話だけでなく、その奴隷の所有者達への保証も必要でしょう? いきなり財産を手放せと、命令されたって、みんな反感を持つんじゃないですか?」
「それはある。私が奴隷解放を目指していると聞きつけた、貴族や大商人達がうるさくてな」
シャルムダーンの快活な表情が曇る。リョウはやっぱりと思う。
王様がいるなら貴族という階級も当然あるのだろうし、それから大勢の奴隷を使役している者もいるということだ。
「そういう“調整”だって必要だってことですよ」
リョウは予算とともに嫌な言葉を口にして、どんよりした目になった。
調整、調整、あちらの予算をけずったら、こちらが立たず。金だけじゃなくて、妙なプライドにしがみついた老害(失礼)達が、会議でわめき散らす。そんな光景が思い浮かんでしまった。
「奴らといくら話し合っても、結局同じ神殿に戻って来るのだ。らちがあかん」
「同じ神殿?」
シャルムダーンの言葉にリョウは首を傾げた。
「砂漠の各地にある神殿巡りだ。この王都ムシャラの大神殿から始まって、各オアシスの神殿を巡り、最後にはここに戻ってくる」
「ああ、堂々巡りということですね」
「どう?」
「お堂、つまりは神殿ですね。僕の世界にもそのお堂を巡るというか……」
いや、あれはお堂の周りをぐるぐる回るお百度参りだったかな?
「だいたい利害が対立する話し合いなんてそんなもんですよ。双方譲らず結論は出ない」
「だったらどうすればよいのだ? 王命でもって、断行するか?」
「そんことすれば、貴族の方々が叛乱起こすでしょう? 大商人達にだってそっぽを向かれて、国庫は空っぽになりますよ」
「うーむ、痛いところを突くな」
シャルムダーンは長い指を顎に当てて考える。そんな気障ったらしいしぐさも絵になるとは、美形とはズルいな……と内心思う。
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