11 / 52
【11】邪魔もの暴風にご用心!
そのとき。
ぴゅうううううううううううううっ!
とばかり、二人のあいだに突風が吹いた。
あまりに強い風にイスラフェルの金竜の巨体がぐらりと揺らぐ。
思わずリョウは目の前のシャルムダーンにしがみつき、シャルムダーンの形の良い唇が、リョウの唇があった箇所を空振りした。
「王よ!巨大な砂嵐にたどりつきました!」
「ノワルよ!お前、以前から無骨者と思っていたが、よい雰囲気の我らを邪魔するか!」
「邪魔したのは砂嵐であって、私ではありません」
その答えにたしかにそのとおりと、シャルムダーンのたくましい胸に抱きしめられた姿勢のままのリョウは思った。
その赤銅色の広い肩越しに巨大な黒い砂嵐が見えた。離れた場所に米粒のように見える人々は、必死に結界を張っている神官達と兵士に魔法を使える街の有志だろうか?
金竜イスラフェルさえぐらついた暴風だ。後方についてきている飛竜達は、風に煽られてふらふらと今にも墜落しそうに危うい。乗っている竜騎兵達も必死の様子だ。
「我らはこれ以上は近づけません」
ノワルが叫ぶ。
「では、お前達は下に降りて、結界を張る者達の援護に回れ!砂嵐には我らで向かう!」
「申し訳ありません。王と救世主様にして……リョウ様だけでお行かせするなど!」
「なに、俺とリョウさえいれば十分だ。リョウの強さはお前もよく分かっているだろう」
シャルムダーンの金色の瞳に『良いな?』と見つめられて、リョウはこくりとうなずいた。
飛竜達は地上へと降りて行き、二人を乗せたイスラフェルは砂嵐のただ中へと突入した。
中は当然さらにすさまじい暴風だった。だけでなく、四方八方から砂が叩きつけられる。これだけでもヤスリの中に放り込まれたように傷を負いそうだ。
しかし、それはシャルムダーンが短い呪文のひと言によって、自分達の周囲に見えない結界を張って、それを弾いた。
「ありがとうございます」
「自分の妻を守るのは当然ことだ」
「妻じゃありませんけどね」
それは毎度きっちりお断りする。
突風にイスラフェルがよろめいたのは一度きり。あとはその大きな翼で風を切り裂いて進んでいく。安定したその背は頼もしい。
「僕も魔法を習った方がいいですね」
「救世主ならば使えるだろう。よし、俺が手取足取り腰取り教えてやろう」
「あなたじゃない教師を希望します。イムポテプさんとか」
腰取りのひと言が余分だと、ジトリと横目でリョウは目の前の王様を見る。
「なんと!リョウはあのような老人が好みなのか!」
「僕は枯れ専じゃありません!」
そんな軽口を叩いている間に、あれほど吹いていた風が突然止んで、渦を巻く砂の壁の真ん中、ぽっかりと丸く穴があいた所に出た。
ここが砂嵐の中心、いわゆる台風の目のような場所だろう。そして、その中心には。
なんだか真っ黒なモヤモヤに覆われた、形容しがたい何かがいた。
その黒いもやの中で光る真っ赤な瞳が、こちらを見た。
ごおっ!
そのとたん、真っ黒な炎がこちらに向かい一直線に吐かれた。
「イスラフェル!」
シャルムダーンが己の金竜の名を叫ぶ。
イスラフェルはかっと口を開けて、そこから同じく黄金のブレスを吐いた。
金と黒のブレスが空中で激突しせめぎ合うが、じりじりと金色のブレスが押していく。
真っ黒な炎を輝くブレスが陵駕し、その黒い身体に到達するか?と思われたが。
相手の黒い炎が消えた瞬間にイスラフェルもまたブレスを止め、地上にふわりと降り立った。
それととても自然な仕草に見えた。シャルムダーンは高いその背から飛び降りる。同時に腰の県を抜き放っていた。
ノワルにはキンキラの鞘の剣を与えたくせに、シャルムダーンの剣は作りこそしっかりしているが、黒い鞘の飾り気のないものだった。
そして、ぎらりと輝く剣は、いや、あれは刀だ……と、そんなに詳しくないリョウもわかる。
東方渡りのこの業物を、シャルムダーンは一目で気に入ったのだとあとで聞いた。
剣に飾りがないのは、戦いには不要だという最もな返事だった。
だったら、なぜノワルには黄金の鞘なんだ?と聞いたら。
「あいつは元奴隷だ。王たる俺が与えた黄金の剣を見れば、誰もがあいつを軽んじることはない」
このときも【チョット】この王様を見直したリョウだったが、すぐに。
「ん?宝石の剣が欲しいのか?ならば、我が王家の秘宝のエメラルドをちりばめた短剣を、愛の証としてそなたに贈ろう!」
「真面目にいりませんから!本気ですから!そんな実用的でないもの!」
まったく、その評価は少し浮上しては、奈落に落ちる残念王だった。
とはいえ、今は戦闘中。普段は残念でも、剣を構えたそのシャルムダーンの横顔は、獅子のように勇ましい。
思わずリョウはみとれかけて、そんな場合じゃないと自分も、イスラフェルの背から「えいっ!」とばかり飛び降りた。その背の高さは民家の二階、どころか三階ぐらいありそうだったが、平然と着地した。地球の重力下では運動神経は並の自分なら、普通に骨折だったはずだ。
やっぱり自分は救世主なのか?……認めたくないけど。
そして、空中から自分の剣を取り出す。
今度はプラスチックのオモチャじゃなくて、シャルムダーンが握ってるような【本物】ください!
い 心の中で叫んで、光とともに現れたのは……。
白い鞘の見事な作りの日本刀。
なんか見覚えがありすぎる感じに悪い予感がする。
すらりと抜いてみれば。
刀の根元?というのかなんというか知らない。とにかくそこに金色の三つ葉葵のご紋が輝いていた。
「余の顔を見忘れたか?って……無駄だよ。僕はここでは全員にとって初顔なんだから」
脱力して、リョウは思わずつぶやいた。
「おお、聖剣が俺とおそろいとは、なんともうれしいぞ!黒と白のまさしく夫婦剣だ!」
「なんですか!その夫婦茶碗みたいな言い方!」
本当に、神様。
脱力系アイテムばっかり出すの止めてください。
年末のバラエティショップのパーティグッズコーナーじゃないんですから。
あなたにおすすめの小説
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
ゲーム世界の貴族A(=俺)
猫宮乾
BL
妹に頼み込まれてBLゲームの戦闘部分を手伝っていた主人公。完璧に内容が頭に入った状態で、気がつけばそのゲームの世界にトリップしていた。脇役の貴族Aに成り代わっていたが、魔法が使えて楽しすぎた! が、BLゲームの世界だって事を忘れていた。
愛していた王に捨てられて愛人になった少年は騎士に娶られる
彩月野生
BL
湖に落ちた十六歳の少年文斗は異世界にやって来てしまった。
国王と愛し合うようになった筈なのに、王は突然妃を迎え、文斗は愛人として扱われるようになり、さらには騎士と結婚して子供を産めと強要されてしまう。
王を愛する気持ちを捨てられないまま、文斗は騎士との結婚生活を送るのだが、騎士への感情の変化に戸惑うようになる。
(誤字脱字報告は不要)
劣等アルファは最強王子から逃げられない
東
BL
リュシアン・ティレルはアルファだが、オメガのフェロモンに気持ち悪くなる欠陥品のアルファ。そのことを周囲に隠しながら生活しているため、異母弟のオメガであるライモントに手ひどい態度をとってしまい、世間からの評判は悪い。
ある日、気分の悪さに逃げ込んだ先で、ひとりの王子につかまる・・・という話です。
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
【本編完結済】巣作り出来ないΩくん
こうらい ゆあ
BL
発情期事故で初恋の人とは番になれた。番になったはずなのに、彼は僕を愛してはくれない。
悲しくて寂しい日々もある日終わりを告げる。
心も体も壊れた僕を助けてくれたのは、『運命の番』だと言う彼で…
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。
ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。
異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。
二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。
しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。
再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。