異世界へはロイヤルカーペットにのって

志麻友紀

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【15】雄大なる大自然でなんてことしていたんですか!

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『でね、アタシが主の愛の奇跡に感動してると』
「だから愛の奇跡は止めてくれ!」
『奇跡のような王子様に出会ったのよ。今まで見てきた誰よりも理想の金色のたくましい王子様!』

 ほぅ……とまたため息をついた銀竜の横顔は、伏せた銀のまつげが頬に射す影も相まって、パーフェクトビューティだった。いや、なんかもうだんだん褒める言葉が無くなってきたぞ。長いまつげが卑怯ね、あなた。

『それもあの坊やのほうから「愛しいひと」なんて言われて「アタシもよ」と応えたら……』

 そこでアズラエルがいったん言葉を切って、きっと彼方を睨んだ理由は、リョウにもわかっていた。
 砂漠の彼方から超高速でこちらを一直線に飛んでくる黄金の姿。
 イスラフェルだ。
 黄金のハリセンでシャルムダーンとともに、彼方に飛ばされた。それがようやく戻ってきたのだ。

「リョウ、ひどいぞ。愛しい夫の頭を扇で張り飛ばすとは!」

 イスラフェルの背からシャルムダーンがリョウの前へと飛び降りる。

「止めてくれといって止めてくれなかったから、抵抗したんです。これは正当防衛です!」

 なんか夫云々……の下りはいちいち否定するのも面倒くさくなってきた。

「せいとうぼうえい?」

 シャルムダーンが首を傾げる。まあ、たしかにこの国において王様相手に通じるんだろうか?とはある。
 しかしだ!

「二人とも!そこに座りなさい!」

 リョウは砂漠の地面を指さした。振り上げたもう片方の左手に黄金のハリセンが現れたのを見て、シャルムダーンとイスラフェルの背がぴん!と伸びる。
 再び彼方へと張り飛ばされては敵わんと思ったのか、シャルムダーンはしぶしぶとあぐらを掻いて地面へと座る。そして、イスラフェルは四つ足を揃えてかしこまった。猫でいう香箱座りというべきか。

「いいですか?いくら好きだからといって、嫌がる相手に無理矢理はいけません。立派な強姦罪です!」
「それぐらい好きがあふれているのだから仕方ないだろう?」
「だから、それは言い訳にならないと言ってます!だいたい、僕が嫌だと言って泣くのを見て、あなたは心が痛まないんですか?」
「痛むに決まってるだろう!お前が泣くようなことはしたくない」
「だったら、僕が嫌なときはダメです!」
「…………」
「返事は?」
「うむ、わかった!」

 なんか、偉そうだがまあいいとしよう。犬の躾?はまずダメなことを教えることからだ。

「イスラフェルもわかった?アズラエルがヤダって言ったらダメだよ!」

 そう告げれば、金竜のほうが素直にうなだれて、銀竜アズラエルの前に、その長首を下から伸ばす。「ごめんね」と言っているようだ。
 アズラエルは「ふん」とばかりにそっぽを向く。そのさらりと銀のたてがみがなびいた横顔も美し(以下略)。

「王!リョウ様!」

 遠くから声が響き、こちらに低空飛行でやってくるのは、ノワルを先頭にした竜騎兵隊だ。さらにその後ろからラクダにまたがった者達もやってくる。
 アズラエルが正気?に戻ったので、当然、周囲に壁のごとく渦を巻いていた砂嵐も、綺麗さっぱり消えて、広がるは海のような砂漠だ。
 そして、やってくる竜騎兵達の背後には遠くに、緑の島のごときオアシスが見えた。あれを守れたのかとリョウは初めてこの非現実的世界で実感めいた感動が心にじんわりと広がった。
 良かったと思う。

「ご無事にございましたか!」
「ああ、リョウの起こした奇跡のおかげでな。俺もイスラフェルもなんとか無事だ」

 シャルムダーンが応えて、リョウの肩を抱き寄せる。たった今、説教したばかりなのに!とリョウはむうっとした。
 けれど、彼の『無事だった』という言葉に、肩を抱くぐらい仕方ないと許すことにした。
 たしかにシャルムダーンは自分ほ庇って、あんな酷い傷を負ったのだ。
 彼の焼け焦げた広い背中。その光景はいまでも目に焼き付いている。それを思い出すと、胸がぎゅっと痛くなる。
 今は綺麗にその傷も治っているし、翼も焼け落ちていたイスラフェルも黄金竜の見事な姿だけど。

「おお!砂嵐から瞬いたあの星のような輝きは、救世主様のものだったのですな!」

 そう言ったのは、ラクダから飛び降りて来た中年の小太り髭の男。

「わたくしめはあのオアシスの町、ダラハで顔役を務めるワディにございます」

 そう名乗り。

「まばゆい光が広がったと思ったら、町を襲おうとしていたあの砂嵐は一瞬にして消え去っておりました。これでまさしく、神の奇跡。さらには、その向こうに抱き合い情熱的に口づけ合うお二人と、絡み合う金銀の竜の姿。あまりの光景に我らは思わず、地面に伏して神々に祈りを捧げておりました!」

 そのときの感動を思いだしたとばかり、砂漠に平伏して自分達を拝み始める、ワディどころか、ついてきたラクダの商人達の仲間に、さらには竜騎兵達まで。
 しかし、あがめられているリョウとしては、そんな気分じゃなかった。

「え?砂嵐からすごく遠くにあなた達いたよね?」

 実際リョウの目には結界を張る者達の姿は米粒ぐらいにしか見えてなかった。

「そんなにはっきり見たわけじゃないよね?」
「いいえ!我ら砂漠の民は目がいいのです。お二人と金銀竜の仲むつまじい様子は、はっきりばっちりくっきり、我らの目に焼き付きました!」

 恐る恐る聞いたリョウの期待を、ノワルのキラキラ輝くこちらを見る三白眼が、打ち砕く。

『仲なんかよくないわよぉ!!』

 リョウの頭に響くアズラエルの声。

「こんな砂漠のど真ん中で見られていたなんてええええ!!」

 それにリョウの絶叫がとこまでも砂の大地に響き渡った。
 ちなみに黄金のハリセンでリョウが、シャルムダーンとイスラフェルを張り飛ばした姿は、神の奇跡にみんなひれ伏して拝んでいたせいで、見なかったらしい。
 ここまで来るのが、彼方に飛ばしたシャルムダーン達なみに遅かったのも、神への祈りを長々していたとか。
 信心深い者達である。



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