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【23】色ボケ王でも顔がいい!
しおりを挟む宴は王宮の広間から続く回廊、さらにはその先の庭園まで使った、盛大なものだった。
広間の奥には赤と金で彩られた、王の座が作られ、シャルムダーンの横には、リョウの席も設けられた。その席は先のダラハでの宴と同じく、布の衝立に仕切られたもの。
当然、外側からはリョウの姿は見えないが、内側のリョウには貴族達の顔がばっちりと見える。突き刺さる視線の数々に、少々居心地の悪い想いをしながら、リョウは出された宴の料理をぱくつくことに専念する。
今日はリョウの大好きなヒラメのピラフに、さらに羊のピラフの二種類。芋を潰してそれを乳で割った温かなスープ。海老の揚げ物に貝のワイン蒸しなどがあった。それに豆とチーズのサラダに、色とりどりの野菜を刻んでヨーグルトと和えたもの。トマトとナスとじっくり煮込んだ牛肉を重ねて焼いた物。これはどうかんがえても鉄板においしい。
宴会らしく鶏や豚、牛の丸焼きも饗されており、こちらの肉も薄切りにされて運ばれてきた。それを平たく焼いたナンのようなパンの上にのせて、さらにちょっと辛いソースに香草で挟んで食べる。これも美味しくて当たり前。
それに、砂漠ではやはり贅沢であろうけれど、毎晩の夕食のデザートに饗される、シャーベット。今日は薔薇の香りがする贅沢なものだった。
ワインを並々と注いだ黄金の杯が回されて、幾度も乾杯の音頭が取られるのは、以前の宴と同じ。その数と喧騒は、あの小さな砂漠のオアシスの街の宴とは、比べものにならないものだったが。
そのたびにシャルムダーンは杯を掲げて呑み干したが、やはり彼はまったく酔う気配はなかった。
「酒はダメだぞ」
「わかってます」
そんなことを布の衝立で囲まれた中で交わして、リョウに出されたのは温かな御茶と、色とりどりのお菓子。宮廷のお菓子はいつも美味しいけど、宴ということもあって、今日は花や蝶や鳥の形のパイに焼き菓子、砂糖細工と目にも美しい。
そして、衝立越しではあるが救世主にお目通りしたいと人々がやってくるのも同じ……。
とは言いがたかった。
前回は本当にオアシスを救ってくれた救世主であるリョウに感謝する人々ばかりだった。一部に下心があるものがいるにせよ。
しかし、今回は宮廷。やってくるのは貴族達ばかり。衝立越しリョウの姿は彼らには見えなくとも、彼らの表情はリョウには見えていた。
口許には優雅な笑みを浮かべながらも、その目はまったく笑っていなかった。見えないはずのリョウをどこか馬鹿にし、値踏みするような突き刺さるような視線。
ただの町役場の小役人の小心者? のリョウだったら、いや、今だってそうだと思ってる。相手には自分の姿が見えないと分かっていても、そんな針のむしろのような状況に耐えられなかっただろう。
普通なら。
だけど。
初めの挨拶の貴族がやってきた途端、伸びてきた褐色の大きな手が、むんずと自分の手を掴んだ。
シャルムダーンのこの行動にいきなりなにを? とリョウはムッとしたけど。
「救世主様におかれては……」
としたり顔で挨拶をし始めた蛇みたいに細い貴族の男の目が、これ以上ないくらいに大きく見開かれた。
シャルムダーンは薄布の衝立からリョウの爪先が見えるか見えないのぎりぎりに引き出し、そしてその指先に恭しく口づけたのだ。
いかにも愛しい……とばかりに。
リョウもギョッとして『なにをするんだ! このスケベ!』とばかり手を引こうとした。が、シャルムダーンはがっちり握りしめて離してくれない。
明らかに嫌がって振り払うのも、外側から見えない衝立越しとはいえ、シャルムダーンの動きで分かってしまうかもしれない。
リョウとしては強引には出られないのをいいことに、シャルムダーンは挨拶にきた貴族の相手を片手間に、リョウの指に指を絡ませたり、その指先へと再びキスしたりと熱心だ。
これでは、衝立の向こうの救世主を信奉しているというより、恋い焦がれて夢中になっている色ボケ王ではないか? と。
実際、シャルムダーンのキリリと切れ長の瞳は、少し目尻が下がって、本当に色ボケスケベ王……は言い過ぎか。なにしろ、そんな鼻の下伸ばしたような表情していても、間近でみる彼の顔はやっぱり完璧にイイ男なのだ。
並外れた美形というのは、スケベな顔していても美形なのだと、リョウは知った。
とにかく、自分のお手々をにぎにぎし、指先に口づけ、あげく手の甲やら、手の平やら、唇押しつけられてない場所ないんじゃないか? ぐらいのあいだリョウはシャルムダーンと攻防を繰り広げ。
そして、そのあいだに挨拶にきた貴族達は幾人も入れ替わる。
そこではた……と気付いた。
シャルムダーンのこの態度はワザとだ……と。
リョウの代わりに貴族達に片手間に答えながら、王は衝立の向こうの救世主に夢中だと見せつける。
そしてあわよくば衝立の向こうの正体不明の救世主の姿をあばき、あらを探そうとする彼らの悪意から守るためだと……。
そう気付いたのは。
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