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【16】覚醒 その1
しおりを挟む「全員、離れろ!」
「みんな、彼のそばに寄らないで!」
そばにいて異変に気付いたハートリーが最上階のフロアで、そしてメディが待機所で同じように叫んだ。
待機所ではネラの黒猫の形がぐにぐにゃと歪み、巨大化していくのに、悲鳴があがりガイドの生徒達が部屋の扉へと殺到する。
膨張する黒猫から伸びたのは、幾つもの尻尾だ。二本に別れていたものが、さらに幾本にも枝分かれし、また新しいものがは生えてうねうねと触手のように蠢く。
ネラの姿はない。黒猫の姿がゆがんで巨大化したときに、彼もまたその黒よりもさらに深い色を濃くした闇の深淵のような姿に呑み込まれたのだ。
「異形化。戦闘薬過剰使用の末期症状……!」
メディがつぶやく。
それと同時にガイド達の悲鳴が響き逃げ惑う。混乱する部屋の中に暴風が吹いて、その姿はさきほどフェリックスが入った転送陣に吸い込まれて消えた。
「捕縛ネットをありったけ射出しろ! 抑え込むんだ!」
ハートリーの言葉とともに、捕縛ネットが次々にスコルの巨狼へと広がりかぶさる。しかし、その身体から、ぼこぽこと不気味な巨大なコブが浮かびあがり膨張し、次々に重ねられる捕縛ネットを突き破っていく。
スコルの姿は、己のアニマルの肥大した異形におおわれて見えない。
グァアアアアァアッ!
巨狼……ともはや言えない異形が、咆哮をあげた。開いた口は部屋のフロアの高い天井から床までにつき、バリバリと魔法で強化されているネットの鎖をかみくだく。
「この塔は崩れる! 逃げろ!」
ウォーダンがさけぶ。隣にいたフェリックスを横抱きにして、彼もまたロンユンの背に飛び乗った。
同時に最後の捕縛ネットの鎖を断ち切った。その巨大な異形の横に、空中から突如出現したのは、無数の尻尾を触手のようにうねらせた、闇の猫。
そのとたん、さらに異形の身体は加速度的に膨張した。
まるで内側から爆発が起こったかのように、天をつくような塔は一瞬で崩壊し、空中へと退避したセンチネルの生徒や講師達も、その爆風に吹き飛ばされて、塔の周囲にはりめぐらされた、落下防止用のセーフティネットに次々と叩きつけられた。
ウォーダンに抱きかかえられたフェリックスもまた、彼と彼をのせたロンユンとともに、そのネットに落ちた。ウォーダンに抱きしめられたままだから、さして衝撃はなかった。
「フェリ、怪我は?」
「大丈夫です。ウォーダンは?」
「ネットのおかげでダメージはないよ」
フェリックスの腕の中でチィオも「ぴぃっ!」と元気な声をあげる。
「あれは……」
「あんな邪悪な形のものをドラゴンとは呼びたくないが……」
塔が崩れた場所に立つのは、天を突くように巨大化した魔獣……いや、もはや災厄と呼べるものだった。
顔は狼であるが、その口は赤く大きく耳元まで引き裂かれて乱杭歯がのぞいている。牙から滴りおちた唾液が、じゅっ……と崩れた塔の残骸を溶かす。
その姿は艶のない真っ黒な闇のような鱗に覆われていた。身体をうねらせるたびにその鱗の下が赫く光るのがまがかましい。トカゲのように長く伸びた尻尾は無数のトゲに覆われ、ひとふるいで残っていた塔の土台をこなごなに砕け散らせた。
そして、そんな狼邪竜というべきか。その肩口に浮かんでいるのは、無数の尻尾を触手のようにうねらせた闇色の猫だ。赤く瞳孔のない目でらんらんとこちらを見ている。
そして、邪竜は巨大な前脚を振り上げた。そこには黒々と光る爪がある。
こちらに向かい振り下ろされる凶悪な爪から、ウォーダンはフェリックスを再びかかえ、ロンユンの背に乗って逃れた。
そのロンユンにむかって、邪竜が闇色の炎のブレスを吐き出す。
その範囲は広く避けきれない。ウォーダンがロンユンの背に手をあてて魔力を注ぎ、ロンユンがそのブレスで氷の大きく分厚い氷の壁を出現させて、それを防ぐ。
しかし、ブレスの威力はすさまじく、氷の壁はたちまち溶けてくだけて、その風圧で再びウォーダンとフェリックスは防御用のネットに叩きつけられた。
今度の衝撃はすさまじく一瞬息が詰まる。氷の壁は砕けたが十分に防御の役割ははたし、直接ブレスを被ることはなかったが、肌がぴりぴりするのは強烈すぎる邪気のせいだろう。
「ウォーダン! 怪我を!」
自分を被ったウォーダンのひたいから血が流れていた。フェリックスは手をかざして、癒やしのテレパスをおくれば血は止まった。傷も薄くなる。
「フェリックスの癒やしの気は優しいな、ありがとう」
邪竜がこらちに向かい大きく口をあけているのがウォーダンの肩越し見えた。その奥がまがまがしく赫く輝いている。特大のブレスを吐き出すつもりだろう。
「このままじゃ、学園や……シティのみんなも……」
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