70 / 73
番外編 嵐のロイヤルファミリー
【10】血痕と旋風
昼間の茶会での出来事は少し離れた場所からダランベルも見ていた。が、ティア王女がハルの腹に肘鉄を仕掛けたのは、彼女のパニエで目一杯広がったスカートのせいで死角となっていたようだ。
「わかっていたなら、すぐさま国外追放を言い渡していた」
夫夫のベッドルーム。ダランベルは本気で憤っていた。
「やめてくれ。証拠もないんだ。外交問題になる」
ハル一人の証言だけでは、向こうが転んだ拍子の事故だといえば、それまでだ。
「でもな。俺達のために怒ってくれてありがとう」
俺達とはハルとお腹の中にいる子。眉間に険しく刻まれた皺にちゅっと口づけば、たちまち愛しい年下の夫の表情が柔らかくなる。ハルもふわりと微笑んで。
「寝よう。どうせ、我慢するのは明後日までだ。それまで俺の周囲に、あの王女を近寄らせなければいい」
記念式典にパレード、晩餐会からの夜会は明日。明後日には各国の代表は帰国する。
「そうだな。それまで、貴方の周囲の警護は強化する」
「心配性だな」
結界は常に発動出来るから、あの王女が壺爆弾投げてきたって傷一つ負わない自信はある。
「だが、それでお前が安心するなら、好きなようにするといいさ」
「ああ、頼む」
ダランベルが今度はお返しとばかり、ハルの額に口づけた。
◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇
翌日も快晴。
朝からのパレードも無事に済んだ。六頭立ての馬車の中の大歓声に、ハルは始終笑顔で手を振ることが出来た。メメルの特訓のおかげだ。
「笑顔が引きつってます! もう少し口角をあげて! 片端だけ歪んでいては、陰謀を企む賢者様になってしまいます! かっこいいですけど、それでは、パレード向きではありません!」
そもそも三十歳のモブ顔の男がにこやかに微笑んだって誰も喜ばないだろう! とハルは叫びたかった。が、メメル先生大特訓で会得した、朗らかな笑顔で手を振れば観衆は大喜びしたのでいいだろう。
たぶん隣のダランベルが手を振ってるからだよな。超絶美形だとちょっと口角あげるだけで、素敵な笑顔になるからいいよな……とかハルは思っていた。
が、民衆は同等に「聖賢者様万歳!」「笑顔がみられた!」なんて叫んでいたことを知らない。
そのあとも、王宮のバルコニーで三回のお出ましの挨拶をして、それからゆっくり休息をとったあとの宮中晩餐会からの夜会。
着座の晩餐会にはハルは出席して、夜会は冒頭の挨拶だけで、退出させてもらうことにした。夜半まで続く夜会に付き合うのは、母体に当然よろしくないからだ。
大広間を退出して、王宮の奥へと戻るハルの周りには護衛の騎士のガルクだけでなく、メメル達魔法使いも三人付き添っている。
「まったく、どこまでも心配性だな」
そこにダランベルまで着いてきたことに、ハルは苦笑した。
「我が最愛の番を送るために、少し失礼いたします」
この男、ハルが退出の挨拶を終えたあとに、そう宣言して着いてきたのだ。出席者からは、誠実な勇者王の番愛ぶりに、拍手で見送られたのも恥ずかしい。
「あの王女の滞在中は何が起こるかわからない」
「まあ、最後の機会ではあるしな。お前に当然、絡んでくるだろうな」
晩餐会では近くもなく遠くでもない席だったが、相変わらずお花畑みたいにドレスを着ていた。その表情は焦っているようには見えなかったが、明日の午前中には使節団の帰国は決まっている。仕掛けるなら、今夜だろう。
「近寄らせはしない」
「あからさまな態度はとるなよ。外交問題になる」
あれでも一国の王女だとハルは釘を刺す。
「わかっている。だが、あなたを害そうとした穢れた女の手など、この身には指一本も触れさせない」
「わかった、わかった。やりすぎないようにな」
ハルを送り届けた部屋の前でお互いに頬に口づけをしあって別れる。初めは恥ずかしかった番の挨拶も、護衛達の目があるなか、出来る様になったのだから、我ながら番として成長したな……とハルは思う。
そして、寝室に入り寝る仕度をする。よく考えると結婚してから、一人で寝るなんて初めてだなと思う。
自分付きのメイドが眠りの前の薬草茶を入れてくれた。カップを鼻先に寄せて、良い香りだな……とその暖かな湯気を吸い込んだとき、ハルは軽く目を見開いた。立ち上がる。
「大公殿下?」
メイドが声を掛けてくるが、それに答える余裕はハルにはなかった。
この王宮内で強い魔法が使われた気配を感じたのだ。それも邪法だ。大広間に近い。
「大公殿下!」
ハルは駆け出し、寝室を飛び出した。メイドが慌てて追いかけ、護衛の者達も慌てて追いかけてくる。ガルクもメメルも。
騎士達がハルに追いつけなかったのは、ハルが走るのではなく、宙に浮いていたからだ。浮遊し高速で移動している。本気の賢者の魔法にメメル達も追いつけるわけがない。
そして、大広間近くの小部屋に飛び込んだハルが見たものは。
ドレスの胸の前を乱してコルセットで押し上げた乳房が半分以上見えている、あらぬ姿のティア王女。
その王女の両手を押さえ付けて覆いかぶさるような形になっているダランベルだった。
「すまない……ハル」
彼が苦しそうな声で謝る。
ハルの目にはスカートがめくれ上がって見えているティア王女の白い足。その足とスカートに散る赤い血が見えた。
瞬間、小部屋の中に旋風が吹き荒れて、ティア王女が「キャア!」と情けない悲鳴を上げる。
「ハル!」
ダランベルがハルを中心に巻き起こる風にも負けずに、一歩踏み出して手を伸ばす。
が、その手が届く前にダランベルの姿は消えていた。
あなたにおすすめの小説
弱すぎると勇者パーティーを追放されたハズなんですが……なんで追いかけてきてんだよ勇者ァ!
灯璃
BL
「あなたは弱すぎる! お荷物なのよ! よって、一刻も早くこのパーティーを抜けてちょうだい!」
そう言われ、勇者パーティーから追放された冒険者のメルク。
リーダーの勇者アレスが戻る前に、元仲間たちに追い立てられるようにパーティーを抜けた。
だが数日後、何故か勇者がメルクを探しているという噂を酒場で聞く。が、既に故郷に帰ってスローライフを送ろうとしていたメルクは、絶対に見つからないと決意した。
みたいな追放ものの皮を被った、頭おかしい執着攻めもの。
追いかけてくるまで説明ハイリマァス
※完結致しました!お読みいただきありがとうございました!
シレッとBL大賞に応募していました!良ければ投票よろしくおねがいします!
ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学時代後輩から逃げたのに、大人になって再会するなんて!?
灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。
オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。
ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー
獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。
そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。
だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。
話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。
そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。
みたいな、大学篇と、その後の社会人編。
BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!!
※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました!
※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました!
旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」
義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。
石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。
実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。
そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。
血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。
この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。
扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。
運命の番は僕に振り向かない
ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。
それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。
オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。
ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。
ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。
ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。
ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。
完結しました!ありがとうございました。
言い逃げしたら5年後捕まった件について。
なるせ
BL
「ずっと、好きだよ。」
…長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。
もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。
ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。
そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…
なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!?
ーーーーー
美形×平凡っていいですよね、、、、
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
悪役令息に転生した俺は推しの為に舞台から退場する
スノウマン(ユッキー)
BL
前世の記憶を思い出したアレクシスは悪役令息に転生したことに気づく。このままでは推しである義弟ノアが世界を救った後も幸せになれない未来を迎えてしまう。それを回避する為に、俺は舞台から退場することを選んだ。全てを燃やし尽くす事で。
そんな俺の行動によってノアが俺に執着することになるとも知らずに。