【完結】デカい腹抱えて勇者から逃走中!

志麻友紀

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でかい腹抱えて勇者から逃走中!

【16】昔のオトコと比べている

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「しかし……」
「おいおい、俺は勇者と対になる賢者様だぞ。俺までいかないってのはないぜ」

 ダランベルの迷うように言うが、それを遮ってハルは冗談じゃないとばかり肩をすくめる。

「それにガルクとメメルも連れていく」
「それは!」

 ガルクとメメルが「はい!」と二人ともうなずく。反対の口を開きかけたダランベルの形の良い唇に、ぺたんと手の平を押し付けて黙らせてから「いいか」と、その蒼い瞳を、ハルの黒い瞳が見据える。

「お前の背中を守る強い剣士は必要だ。賢者である俺を補助する優秀な魔道士もな。お前の爺さんと俺、メメルの両親であるブラドラとマール。この四人で魔王を倒したんだ」

 そして一呼吸置いて、ハルは告げる。

「気負うな、馬鹿。何でもかんでも一人で出来るなんて、それこそ『間違えるな』だ」

 目の前の深い蒼の瞳が大きく見開かれる。ハルはその口許から片手を離せば、手首を掴まれた。

「私が間違っていた、すまない」
「謝るのは俺に対してじゃないだろう?」

 ハルの言葉にダランベルは反対側の長椅子に座るガルクとメメルを見て告げる。

「共に戦ってくれるか?」
「この剣に誓って!」
「この杖を勇者様と賢者様のために使えることは至上の喜びです」

 ガルクとメメルが同時に長椅子から立ち上がり胸に手を当てて一礼をする。

「そして、ハルよ。あなたにも私の横に永遠にあって欲しい」

 ダランベルは隣で座っていた姿勢から、素早く床に片膝をついて、手首を掴んでいたままのハルの手を引き寄せて、その手の平に厳かに口づける。
 手の甲なら貴婦人への挨拶だが、手の平ってのは恋人や伴侶に対しての、愛情表現だったよな。
 こっちの世界では……とハルが目の前の若者をどうあしらおうかと、遠い目になったところで「素敵!」というはしゃいだ声が間近から聞こえた。

「勇者であるダラン様と、あの聖賢者ハル様が番になられたなんて、本当に感激です!」

 メメルが例のごとく瞳をキラキラ輝かせ続けて。

「あ、遅れてすみません。おめでとうございます!」
「ダラン様、聖賢者ハル様、お喜び申し上げます」

 ガルクまで生真面目に告げ、また二人は胸に手を当てて礼をする。

「ああ、本来は賢者ハルに助けを請うことこそ、目的であった。だが、同時にかけがえのない運命の番を得られたことは望外のことであった」

 「い、いや、それは、な」なんてハルが言い惑っているあいだに、ダランベルが深くうなずく。

「運命! お二人は運命なんですね! 僕達を同じです!」
「これは! 二重にお喜び申し上げます」

 またもや胸に手を当てて深々頭を下げて最敬礼する二人に、ハルは「ははは……」と乾いた笑いのまま、なにも言えなくなってしまう。
 そりゃニ○リのベットと共に素っ裸で、転位したのだから言い逃れもできない。
 おまけにハルのうなじにはばっちりくっきり、横で未だに自分をお手々をにぎにぎしている、勇者様の歯形がついているのだ。
 今さら番じゃありませんなんて、とても言える雰囲気じゃなかった。



   ◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇



「やっばりな、そうなるか……」

 そして、夜となり寝室にて、ハルはぼんやりとつぶやいた。

「私の寝室では不満か? 寝台がせまいか?」
「いや、狭くねぇよ。男二人でも十分だけどな」

 そう、案内されたのは当然のごとく、この要塞で最上級の部屋である。
 ダランベルの寝室だった。
 部屋の中央にはドーンと天蓋付きのベッドが置かれていた。王宮のそれに比べると華やかな飾りはないが、岩城であるこの要塞にはその質実剛健が相応しい。天蓋の屋根に被せられた魔獣の毛皮もまた、北の地に相応しく暖かそうだ。

「あのな、俺はお前の番になったつもりはないぞ」
「…………」

 お互い裾の長い寝間着一枚、広い寝台で向かいあっている。ハルはダランベルに告げた。

「私はあなたのうなじを噛んだ」
「うん、そうだな」
「あなたは私の運命の番だ」
「そいつも認めるか、それだからって俺がお前と番になるかは話は別だ」

 正直こりごりなのだ。
 オメガという性や運命に振りまわされるのも。
 目の前にいる青年の祖父だって、自分を運命と告げながら、結局は自分よりは綺麗で可愛い少女を欲望に負けて選んだではないか。
 もっともその綺麗で可愛い少女は外見だけだったけど。
 自分の容姿が平々凡々であることをハルは承知している。まして今はまだ若くて可愛げ? があった十七ではない。二十九のおじさんなんて自分を自称するような、草臥れた男だ。

「俺は魔王討伐が終わり、大妃のことも片付いたら、元の世界に戻るつもりだ」

 ハルの言葉にダランベルが息を飲む。
 そう、今のハルならば元の世界に戻ることも可能だ。それこそ、今すぐにだって。
 帰らないのは十七のときに関わり合いになったこの世界の人々を見捨てられないこと。そして、自分の世界から来たミウ……大妃がその元凶だからだ。
 自分が去ったあとこの世界がどうなるかなど、考えもしなかった。若気の至りの清算もあるかもしれない。

「俺の世界では結婚ってのはお互いの自由意志によって成り立つもんだ。俺は運命とか番とかに縛られるつもりはない」
「……そうか。あなたにはあなたの世界の考えがあるのだな」

 目を閉じて考えこんだあとダランベルは、辛そうに息を吐いた。

「わかった。すべてが終わったあとは、あなたの意志を尊重しよう。だが、覚えていてくれ、私はあなたを変わらず愛していることを」
「……わかった」

 良い男だとハルは思った。きっとこれが彼の祖父ラドリールならば、あの生まれながらの王子ならば、怒ることもないが不思議そうに訊ねただろう。

『どうして? 運命の僕達が愛し合って、一緒にいるのは当然のことだろう? 』

 昔の男と比べているなんて、どこの昭和歌謡だよ……と、ハルは内心で苦笑した。





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