16 / 73
でかい腹抱えて勇者から逃走中!
【16】昔のオトコと比べている
しおりを挟む「しかし……」
「おいおい、俺は勇者と対になる賢者様だぞ。俺までいかないってのはないぜ」
ダランベルの迷うように言うが、それを遮ってハルは冗談じゃないとばかり肩をすくめる。
「それにガルクとメメルも連れていく」
「それは!」
ガルクとメメルが「はい!」と二人ともうなずく。反対の口を開きかけたダランベルの形の良い唇に、ぺたんと手の平を押し付けて黙らせてから「いいか」と、その蒼い瞳を、ハルの黒い瞳が見据える。
「お前の背中を守る強い剣士は必要だ。賢者である俺を補助する優秀な魔道士もな。お前の爺さんと俺、メメルの両親であるブラドラとマール。この四人で魔王を倒したんだ」
そして一呼吸置いて、ハルは告げる。
「気負うな、馬鹿。何でもかんでも一人で出来るなんて、それこそ『間違えるな』だ」
目の前の深い蒼の瞳が大きく見開かれる。ハルはその口許から片手を離せば、手首を掴まれた。
「私が間違っていた、すまない」
「謝るのは俺に対してじゃないだろう?」
ハルの言葉にダランベルは反対側の長椅子に座るガルクとメメルを見て告げる。
「共に戦ってくれるか?」
「この剣に誓って!」
「この杖を勇者様と賢者様のために使えることは至上の喜びです」
ガルクとメメルが同時に長椅子から立ち上がり胸に手を当てて一礼をする。
「そして、ハルよ。あなたにも私の横に永遠にあって欲しい」
ダランベルは隣で座っていた姿勢から、素早く床に片膝をついて、手首を掴んでいたままのハルの手を引き寄せて、その手の平に厳かに口づける。
手の甲なら貴婦人への挨拶だが、手の平ってのは恋人や伴侶に対しての、愛情表現だったよな。
こっちの世界では……とハルが目の前の若者をどうあしらおうかと、遠い目になったところで「素敵!」というはしゃいだ声が間近から聞こえた。
「勇者であるダラン様と、あの聖賢者ハル様が番になられたなんて、本当に感激です!」
メメルが例のごとく瞳をキラキラ輝かせ続けて。
「あ、遅れてすみません。おめでとうございます!」
「ダラン様、聖賢者ハル様、お喜び申し上げます」
ガルクまで生真面目に告げ、また二人は胸に手を当てて礼をする。
「ああ、本来は賢者ハルに助けを請うことこそ、目的であった。だが、同時にかけがえのない運命の番を得られたことは望外のことであった」
「い、いや、それは、な」なんてハルが言い惑っているあいだに、ダランベルが深くうなずく。
「運命! お二人は運命なんですね! 僕達を同じです!」
「これは! 二重にお喜び申し上げます」
またもや胸に手を当てて深々頭を下げて最敬礼する二人に、ハルは「ははは……」と乾いた笑いのまま、なにも言えなくなってしまう。
そりゃニ○リのベットと共に素っ裸で、転位したのだから言い逃れもできない。
おまけにハルのうなじにはばっちりくっきり、横で未だに自分をお手々をにぎにぎしている、勇者様の歯形がついているのだ。
今さら番じゃありませんなんて、とても言える雰囲気じゃなかった。
◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇
「やっばりな、そうなるか……」
そして、夜となり寝室にて、ハルはぼんやりとつぶやいた。
「私の寝室では不満か? 寝台がせまいか?」
「いや、狭くねぇよ。男二人でも十分だけどな」
そう、案内されたのは当然のごとく、この要塞で最上級の部屋である。
ダランベルの寝室だった。
部屋の中央にはドーンと天蓋付きのベッドが置かれていた。王宮のそれに比べると華やかな飾りはないが、岩城であるこの要塞にはその質実剛健が相応しい。天蓋の屋根に被せられた魔獣の毛皮もまた、北の地に相応しく暖かそうだ。
「あのな、俺はお前の番になったつもりはないぞ」
「…………」
お互い裾の長い寝間着一枚、広い寝台で向かいあっている。ハルはダランベルに告げた。
「私はあなたのうなじを噛んだ」
「うん、そうだな」
「あなたは私の運命の番だ」
「そいつも認めるか、それだからって俺がお前と番になるかは話は別だ」
正直こりごりなのだ。
オメガという性や運命に振りまわされるのも。
目の前にいる青年の祖父だって、自分を運命と告げながら、結局は自分よりは綺麗で可愛い少女を欲望に負けて選んだではないか。
もっともその綺麗で可愛い少女は外見だけだったけど。
自分の容姿が平々凡々であることをハルは承知している。まして今はまだ若くて可愛げ? があった十七ではない。二十九のおじさんなんて自分を自称するような、草臥れた男だ。
「俺は魔王討伐が終わり、大妃のことも片付いたら、元の世界に戻るつもりだ」
ハルの言葉にダランベルが息を飲む。
そう、今のハルならば元の世界に戻ることも可能だ。それこそ、今すぐにだって。
帰らないのは十七のときに関わり合いになったこの世界の人々を見捨てられないこと。そして、自分の世界から来たミウ……大妃がその元凶だからだ。
自分が去ったあとこの世界がどうなるかなど、考えもしなかった。若気の至りの清算もあるかもしれない。
「俺の世界では結婚ってのはお互いの自由意志によって成り立つもんだ。俺は運命とか番とかに縛られるつもりはない」
「……そうか。あなたにはあなたの世界の考えがあるのだな」
目を閉じて考えこんだあとダランベルは、辛そうに息を吐いた。
「わかった。すべてが終わったあとは、あなたの意志を尊重しよう。だが、覚えていてくれ、私はあなたを変わらず愛していることを」
「……わかった」
良い男だとハルは思った。きっとこれが彼の祖父ラドリールならば、あの生まれながらの王子ならば、怒ることもないが不思議そうに訊ねただろう。
『どうして? 運命の僕達が愛し合って、一緒にいるのは当然のことだろう? 』
昔の男と比べているなんて、どこの昭和歌謡だよ……と、ハルは内心で苦笑した。
1,537
あなたにおすすめの小説
ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学時代後輩から逃げたのに、大人になって再会するなんて!?
灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。
オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。
ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー
獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。
そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。
だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。
話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。
そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。
みたいな、大学篇と、その後の社会人編。
BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!!
※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました!
※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました!
旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」
「オレの番は、いちばん近くて、いちばん遠いアルファだった」
星井 悠里
BL
大好きだった幼なじみのアルファは、皆の憧れだった。
ベータのオレは、王都に誘ってくれたその手を取れなかった。
番にはなれない未来が、ただ怖かった。隣に立ち続ける自信がなかった。
あれから二年。幼馴染の婚約の噂を聞いて胸が痛むことはあるけれど、
平凡だけどちゃんと働いて、それなりに楽しく生きていた。
そんなオレの体に、ふとした異変が起きはじめた。
――何でいまさら。オメガだった、なんて。
オメガだったら、これからますます頑張ろうとしていた仕事も出来なくなる。
2年前のあの時だったら。あの手を取れたかもしれないのに。
どうして、いまさら。
すれ違った運命に、急展開で振り回される、Ωのお話。
ハピエン確定です。(全10話)
2025年 07月12日 ~2025年 07月21日 なろうさんで完結してます。
捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~
水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。
死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!?
「こんなところで寝られるか!」
極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く!
ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。
すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……?
「……貴様、私を堕落させる気か」
(※いいえ、ただ快適に寝たいだけです)
殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。
捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!
過労死転生した悪役令息Ωは、冷徹な隣国皇帝陛下の運命の番でした~婚約破棄と断罪からのざまぁ、そして始まる激甘な溺愛生活~
水凪しおん
BL
過労死した平凡な会社員が目を覚ますと、そこは愛読していたBL小説の世界。よりにもよって、義理の家族に虐げられ、最後は婚約者に断罪される「悪役令息」リオンに転生してしまった!
「出来損ないのΩ」と罵られ、食事もろくに与えられない絶望的な日々。破滅フラグしかない運命に抗うため、前世の知識を頼りに生き延びる決意をするリオン。
そんな彼の前に現れたのは、隣国から訪れた「冷徹皇帝」カイゼル。誰もが恐れる圧倒的カリスマを持つ彼に、なぜかリオンは助けられてしまう。カイゼルに触れられた瞬間、走る甘い痺れ。それは、αとΩを引き合わせる「運命の番」の兆しだった。
「お前がいいんだ、リオン」――まっすぐな求婚、惜しみない溺愛。
孤独だった悪役令息が、運命の番である皇帝に見出され、破滅の運命を覆していく。巧妙な罠、仕組まれた断罪劇、そして華麗なるざまぁ。絶望の淵から始まる、極上の逆転シンデレラストーリー!
真空ベータの最強執事は辞職したい~フェロモン無効体質でアルファの王子様たちの精神安定剤になってしまった結果、執着溺愛されています~
水凪しおん
BL
フェロモンの影響を受けない「ベータ」の執事ルシアンは、前世の記憶を持つ転生者。
アルファ至上主義の荒れた王城で、彼はその特異な「無臭」体質ゆえに、フェロモン過多で情緒不安定な三人の王子たちにとって唯一の「精神安定剤」となってしまう。
氷の第一王子、野獣の第二王子、知略の第三王子――最強のアルファ兄弟から、匂いを嗅がれ、抱きつかれ、執着される日々。
「私はただの執事です。平穏に仕事をさせてください」
辞表を出せば即却下、他国へ逃げれば奪還作戦。
これは、無自覚に王子たちを癒やしてしまった最強執事が、国ぐるみで溺愛され、外堀を埋められていくお仕事&逆ハーレムBLファンタジー!
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
追放された『呪物鑑定』持ちの公爵令息、魔王の呪いを解いたら執着溺愛ルートに入りました
水凪しおん
BL
「お前のそのスキルは不吉だ」
身に覚えのない罪を着せられ、聖女リリアンナによって国を追放された公爵令息カイル。
死を覚悟して彷徨い込んだ魔の森で、彼は呪いに蝕まれ孤独に生きる魔王レイルと出会う。
カイルの持つ『呪物鑑定』スキル――それは、魔王を救う唯一の鍵だった。
「カイル、お前は我の光だ。もう二度と離さない」
献身的に尽くすカイルに、冷徹だった魔王の心は溶かされ、やがて執着にも似た溺愛へと変わっていく。
これは、全てを奪われた青年が魔王を救い、世界一幸せになる逆転と愛の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる