高慢ちきな悪役令息アラン・リゥが断罪? されてみたら、鋼鉄宰相に溺愛されました

志麻友紀

文字の大きさ
4 / 10

【4】今すぐ結婚って!?

 なにが“めでたい”のか。バカから解放されたのは、たしかにめでたいのかもしれないが。



「そこであなたにあらためて申し込みたい、アラン・リゥ。私と結婚の契約を結んでいただけせんか? あなたの婚約者として名乗りをあげたい」

「はぁ?」



 これにアランは思わず素っ頓狂な声をあげてしまった。婚約“解消”された直後に、求婚されるなんて普通思わないだろう? 

 さらに“天敵”だと思っていた、この鋼鉄宰相に。

 そういえば、この若き宰相はいまだ結婚してないのだった。顔の表情筋が死んでいるのはともかく、顔も血筋も家柄も、地位も財産も申し分ないというのに。



「婚約を“破棄”された身のわたくしを“拾い上げて”くださるなんてずいぶんと御奇特ですこと。

 ですが、その婚約も一旦“お預かり”になっておいて、また“解消”されるのではないのですか?」



 アランとしてはグレームが自分の身を“預かる”といった言葉にひっかけた嫌みだった。

 いや、そうとしか思えない。

 この場はバカ王子ギャスパーの暴走と尻拭いのためにアラン・リゥとの婚約を“形式上”したうえで、ほとぼりが冷めた頃になんやかやと理由をつけて婚約解消するつもりだろう。

 どう考えたって、この鉄仮面宰相が自分に本気で求婚してるなんて思えない。

 アランの言葉に父のピエールも気付いたのだろう。「そ、それは困りますぞ!」と声をあげる。



「二度もの婚約解消など、うちの息子にが……」



 まあバカ王子とはいえ王太子殿下との婚約解消だって、アランにとっては大きな“疵”なのだ。グレンヴィル侯爵家の息子としては、少しでもよい相手と婚姻を結びたい。

 それからすればこの王国の王太子は申し分ない“身分”であったのだが、いかんせんバカすぎてアランとの相性は最悪だった。

 それからすると、目の前の男も申し分ない条件ではある。王族である公爵であり、この国の宰相だ。

 ただし、その求婚が本気なら……であるが。



「では婚約ではなく、いますぐにでも結婚いたしましょう」



 「「「はぁ!?」」」とアランだけでなく、今回は父ピエールに、ギョーム王もまた同じ驚愕の声をあげた。鋼鉄宰相はニコリともせずにいった。



「王宮の聖堂をお貸しいただけるならば、みなさまの目前でいますぐでも永遠の誓いを立てましょう」







   ◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇





 “婚約破棄”ではなく“婚約解消”でうやむやにしたいギョーム王と父ピエールと、なにを考えているかわからない宰相グレームの利害? は一致した。さっさとこのやっかいごとを片付けてしまうおうとばかり、アランは即刻グレームと結婚することになった。

 家長の権限が強い貴族社会だ。父ピエールが承知したうえに、国王ギョームの命令とあらばアランには逆らいようもない。

 結婚式のための白の盛装に身を包む余裕などなく、夜会服のままアランは黄金の祭壇前に、グレームと並んで立っていた。夜ということで水晶のシャンデリアに照らし出される聖堂の雰囲気だけは幻想的なものだ。

 夜会に参加していた高位の貴族達が参列の席に居並ぶ。その最前列には国王ギョームに父ピエール。それについさっきまで婚約者であった、ギャスパーの姿もあった。

 腕にくっつけていたジル男爵令息の姿はない。さすがに男爵令息は聖堂に入れなかったのだ。さっき入り口で「ジルにもあの冷血の首に結婚というの輪がはめられるのを見せてやるのだ!」とバカ王子が騒いではいたが。

 夜会に参加していた副神官長が婚姻の儀式の主祭を執り行うこととなった。公爵である宰相グレームと侯爵令息であるアランとの婚姻の儀式となれば、本来ならば神官長が行うところだが、彼は高齢のためにとっくに就寝の時間である。ここでご老体をたたき起こすのは忍びない。

 シャンパンとワインですっかり赤ら顔の副神官長の顔が、蝋燭のゆらゆら揺れるあかりに照らし出される。祭壇の前での文言を告げるが、そのかかる息が酒臭いのにはいささか参った。それでも涼しい顔で誓約書にグレームの署名の横へ同じく自分の名を書く。

 グレームの署名は力強く美しく、本人の教養と深い知性が感じられた。その横にアランの流麗な署名が並ぶ様は、文字だけならば満足できるものだった。

 ここにあのバカ王子のひょろひょろとした、ミミズののたくったような署名が並ぶのを考えれば、それだけでもこの茶番のような結婚式のほうがマシに思えた。



「では誓いの口付けを」



 副神官長の言葉にアランは我に返った。

 そうだ。これがあった……と。









感想 9

あなたにおすすめの小説

王太子殿下は悪役令息のいいなり

一寸光陰
BL
「王太子殿下は公爵令息に誑かされている」 そんな噂が立ち出したのはいつからだろう。 しかし、当の王太子は噂など気にせず公爵令息を溺愛していて…!? スパダリ王太子とまったり令息が周囲の勘違いを自然と解いていきながら、甘々な日々を送る話です。 ハッピーエンドが大好きな私が気ままに書きます。最後まで応援していただけると嬉しいです。 書き終わっているので完結保証です。

超絶美形な悪役として生まれ変わりました

みるきぃ
BL
転生したのは人気アニメの序盤で消える超絶美形の悪役でした。

シナリオ回避失敗して投獄された悪役令息は隊長様に抱かれました

無味無臭(不定期更新)
BL
悪役令嬢の道連れで従兄弟だった僕まで投獄されることになった。 前世持ちだが結局役に立たなかった。 そもそもシナリオに抗うなど無理なことだったのだ。 そんなことを思いながら収監された牢屋で眠りについた。 目を覚ますと僕は見知らぬ人に抱かれていた。 …あれ? 僕に風俗墜ちシナリオありましたっけ?

【完結】転生した悪役令息は、お望み通り近付きません

カシナシ
BL
「お前など、愛す価値もない」 ディディア・ファントム侯爵令息が階段から落ちる時見たのは、婚約者が従兄弟を抱きしめている姿。 (これって、ディディアーーBLゲームの悪役令息じゃないか!) 妹の笑顔を見るためにやりこんでいたBLゲーム。引くほどレベルを上げた主人公のスキルが、なぜかディディアに転生してそのまま引き継いでいる。 スキルなしとして家族に『失敗作』と蔑まれていたのは、そのスキルのレベルが高すぎたかららしい。 スキルと自分を取り戻したディディアは、婚約者を追いかけまわすのを辞め、自立に向けて淡々と準備をする。 もちろん元婚約者と従兄弟には近付かないので、絡んでこないでいただけます? 十万文字程度。 3/7 完結しました! ※主人公:マイペース美人受け ※女性向けHOTランキング1位、ありがとうございました。完結までの12日間に渡り、ほとんど2〜5位と食い込めた作品となりました!あああありがとうございます……!。゚(゚´Д`゚)゚。 たくさんの閲覧、イイね、エール、感想は、作者の血肉になります……!(o´ω`o)ありがとうございます!(●′ω`人′ω`●)

処刑される悪役令息に転生したらなぜか推しの騎士団長がグイグイ近づいてくる

猫に小判
BL
交通事故で死んだはずの会社員・田中悠人は、気がつくとBL小説『恋と陰謀~はじまりは夜に~』の世界に転生していた。 しかも転生先は、原作で処刑される悪役令息エリオット。 当然そんな未来は回避したい。 原作知識を頼りに慎重に立ち回るつもりだったのに、気づけば王宮を揺るがす事件に巻き込まれていき――。 さらに困ったことに、原作で一番の推しだった騎士団長ガイウスがやたらと距離を詰めてきて……? 平穏に生きたい元悪役令息と、過保護な騎士団長がじれじれ距離を縮める話。 ガイウス(騎士団長)×エリオット(元悪役令息)

処刑エンドの悪役公爵、隠居したいのに溺愛されてます

ひなた翠
BL
目が覚めたら、やり込んだBLゲームの悪役公爵になっていた。 しかも手には鞭。目の前には涙を浮かべた美少年。 ——このままじゃ、王太子に処刑される。 前世は冴えない社畜サラリーマン。今世は冷徹な美貌を持つ高位貴族のアルファ。 中身と外見の落差に戸惑う暇もなく、エリオットは処刑回避のための「隠居計画」を立てる。 囚われのオメガ・レオンを王太子カイルに引き渡し、爵位も領地も全部手放して、ひっそり消える——はずだった。 ところが動くほど状況は悪化していく。 レオンを自由にしようとすれば「傍にいたい」と縋りつかれ、 カイルに会えば「お前の匂いは甘い」と迫られ、 隠居を申し出れば「逃げるな」と退路を塞がれる。 しかもなぜか、子供の頃から飲んでいた「ビタミン剤」を忘れるたび、身体がおかしくなる。 周囲のアルファたちの視線が絡みつき、カイルの目の色が変わり—— 自分でも知らなかった秘密が暴かれたとき、逃げ場はもう、どこにもなかった。 誰にも愛されなかった男が、異世界で「本当の自分」を知り、運命の番と出会う—— ギャップ萌え×じれったさ×匂いフェチ全開の、オメガバース転生BL。

【完結】マジで婚約破棄される5秒前〜婚約破棄まであと5秒しかありませんが、じゃあ悪役令息は一体どうしろと?〜

明太子
BL
公爵令息ジェーン・アンテノールは初恋の人である婚約者のウィリアム王太子から冷遇されている。 その理由は彼が侯爵令息のリア・グラマシーと恋仲であるため。 ジェーンは婚約者の心が離れていることを寂しく思いながらも卒業パーティーに出席する。 しかし、その場で彼はひょんなことから自身がリアを主人公とした物語(BLゲーム)の悪役だと気付く。 そしてこの後すぐにウィリアムから婚約破棄されることも。 婚約破棄まであと5秒しかありませんが、じゃあ一体どうしろと? シナリオから外れたジェーンの行動は登場人物たちに思わぬ影響を与えていくことに。 ※小説家になろうにも掲載しております。

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】