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【5】義務ではなく愛してる※
祭壇の前でお互い向き合い、アランはあらためて男の顔をマジマジとみた。自分より頭半分は高い長身に相変わらす無表情ではあるが、だからこそ至高の芸術家が彫り上げた最高傑作のような、冷たくも完璧な顔立ち。広い肩幅に胸板も厚い。文官ではあるが身体はしっかり鍛えているのだろう。武芸も貴族のたしなみだ。
誰かの手助けがないと馬にもまたがれないバカ王子もいるが。
「目を閉じて」
低い声が耳元でささやくのにぞくりと背にふるえが走った。相手の顔を凝視したままだったことに気付いて大人しく目を閉じれば、肩をそっと引き寄せられて口づけられた。
思えばこれが初めての口づけだと気づき、相手がグレームだと思うと、なぜか胸が高鳴った。なんだこれは……
「見目うるわしいお二人にございますな」「たしにかこうやってみると」「まことひとつの絵のようで眼福ですわ」聖堂内ということで小声で行為の貴族達がささやきあう。なかには「絵面を楽しむだけならぱ“元のお方”よりも、こちらのほうがよろしいですな」と不敬罪ともとられかねない発言さえある。
その“元のお方”であるギャスパーは最前列で、祭壇の二人の口づけを面白くもなさそうな顔で見ていた。
◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇
結婚式のあとは当然初夜だ。
「本当によろしいのですか?」
夜着の白のレースのガウン一枚で、白薔薇の花びらが散らされた、初夜のベッドで今さらではあるが、思わずアランは確認していた。
「なにがだ?」
黒いガウン姿。緩くあわせた間から見える、たくましい胸板から、アランはそっと目を反らしながら。
「これは王家の名誉を守るための結婚でございましょう? だったら“義務”でわたくしといたす必要はないかと」
それこそ白い結婚のまま、ほとぼりの冷めたところでお互い合意の上に離婚だっていいのだ。
そう頭では考えたアランであったが、なぜか胸がもやもやした。さっきの聖堂での口づけといい、まったくなんだこれは?
「義務ではない。私はお前を愛している」
表情一つ動かさずに男が口にした言葉にアランはまたも「はぁ?」と先ほどの夜会と似たような素っ頓狂な声をあげてしまった。
「いま、あなたはわたくしを愛しているとおっしゃいましたか?」
「ああ、愛している。初めて見たときからひと目惚れだ」
やっぱり男の表情はぴくりとも動かないが、アランの白い頬には熱が灯った。
「そ、そのようなことは今までひと言もお聞きしませんでした」
「すでにお前はあのバカ王子の婚約者であったからな」
バカ王子ってこの宰相も思っていたのか。あれがバカなのはみんな知っているが。
「しかし、あれが今夜の夜会で最大級のバカをやってくれたおかげで、お前を手に入れられた」
さらなる“あれ”と“バカ”の連呼……とアランはどうでもいいことを考える。ぎゅっと手を握りしめられて胸がトクトクと高鳴った。
「愛してる、アーリー」
父でさえ呼ばなくなった、愛称で呼ばれてアランの胸はさらに高鳴った。もはや頬どころか自分の赤くなった耳にドクドクと鼓動の音が聞こえるほどだ。
「本当にわたくしを、あ、愛してらっしやると?」
「この私の愛を疑うというのか? ならば、今から全身で証明してみせよう」
言葉は情熱的であるが目の前の顔の表情はやはりピクリとも動かない。いや自分を見つめるその鉛色の瞳には、ゆらりと熱い炎が宿っていた。
近づく彫像のような端正な顔に「目を閉じて」とまたいわれて、アランは目を閉じた。
唇が重なる。男の舌が己の唇を舐めてこじ開けようとするのに、ビックリして目を見開いてしまう。思わず口を離して。
「し、舌をいれるのですか?」
「閨の作法を知らないのか?」
「あのバカと結婚するのは一年後でしたので」
口づけさえも当然許していない。今は想像しただけで虫唾が走る。
目の前の男には王宮の聖堂でも、今、されても嫌ではなかった。
「そうか、なにも知らないならばいい。私が教えるし、そして私がお前の最初で最後の男だ」
その言葉にトクトクとさらに胸が高鳴った。
「あなたがわたくしの最初で最後?」
「ああ、愛してるアーリー。お前をもう誰にも渡しはしない」
これがあの鋼鉄宰相の言葉だろうか? ただ無表情と思えた顔には、どこか苦しげな色があった。
「本当に一年後にお前があのバカのモノになるならば、国を乗っ取ってでもお前を奪ってやろうかと思っていた」
「そんな恐ろしい……」
「私は恐ろしい男だぞ」
「たしかに鋼鉄宰相様……あ……」
ちゅうと手首の内側を吸われて声をあげる。背筋にぞくりと震えが走る。
「そのようなところを吸うの……ですか?」
「お前の身体中に口づけたい。この花のような唇はもちろんだがな」
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