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【9】おバカ王子の最後
高位貴族にそのような重刑をいいわたせるのは、王と高等法院のみなのだが、このバカにそんなことを言っても通用しないだろう。
「ご自由にどうぞ。ここで殿下のお相手をするより、辺境で岩とにらめっこしていほうが、まだ有意義というものです」
「なんだと! かさねがさねの不敬! ええいっ! 俺が直接制裁を加えてやる」
さらに頭にくればすぐに暴力というのもバカの典型だ。腕を振り上げてアランに殴りかかろうとした、その手首は後ろから掴まれねじられる。「イテテ!」と苦痛の叫びをあげたギャスパーはそのまま突き放されて床に転がる。
「私の妻への暴言と暴行未遂。殿下、ここまでにしていただきましょうか?」
「なあっ! 宰相! 貴様は向こうで隣国の大公と話をしていた……」
そこでギャスパーの言葉が途切れたのは、そのランドゥム大公がグレームの後ろに立っていたからだ。横で真っ青になっている自分の父王とともにだ。
「ギョーム王よ。これはどういうことですかな?」
「いや、あのこれは……王太子は先月婚約破棄したちうえに“真実の愛”に破れた傷心で、精神が不安定になっておりましてな」
「ほう“真実の愛”ですとな」
しどろもどろに言い訳したギョームであるが、とたんランドゥム大公の鉛色の瞳がギラリと光ったのにぴくりと肩を震わせる。自分が虎の尾を踏んづけたのを“今さら”気付いたのだろう。
まったく息子ほどでもないがこの王もバカだ。まあ“ほどほどのバカ”だったから、これでも玉座の飾りとして勤まってきたのだが。
ちなみにランドゥム“大公”と名乗っているが、国としての力と権威はギョームの“王”国と同格どころか、大公国のほうが上とみなされている。もちろん、国主としての“器”は大公のほうが、はるかに上だ。
「いけませんな。これはいけませんな。一国の王太子ともあろうものが、公爵夫人に言い寄るなどと思いましたが“ご乱心”ならばいたしかたない」
「は、はい、ギャスパーはたった今、乱心いたしました! え? 乱心?」
自分でいいきっておいて、ギョームが驚きの声をあげたがもう遅い。グレームが「殿下はご乱心である」と衛兵に告げる。
「すみやかに“保護”し、御身を傷つけることがないように自室にお連れ申し上げて、そこからお出しせぬように」
「離せ! 俺は王太子だぞ!」とわめくギャスパーを傷つけぬように、衛兵達は手早く羽布団でくるんで、その上から縄で縛って連れて行った。用意のいいことだ。
さらには「大切なお世継ぎが精神を病まれるとは、お困りでしょう」とランドゥム大公は冷や汗をたらたら流すカール王に“よい笑顔”で迫り。
「国内では好奇の目もあるでしょうし、我が国でご静養なされては?」
と数日うちにギャスパーは隣国の王家所有の“別荘”へと送られた。さらには半年後には両国の医師団の診断によって“治癒不可能”とされて廃嫡となり、生涯隣国にて豪奢な鉄格子のはまった“貴賓室”で過ごすこととなった。
さて、ギャスパーはギョームの一人息子であり王太子だ。彼が廃嫡となったならば次の王位継承権は甥のグレームにある。
もとからこの若き宰相なくして国は成り立たないといわれるほどの彼だ。また伯父である隣国のランドゥム大公の後ろ盾もあるということで、彼が宰相兼王太子となることはあっさりと決まった。
これまでも実質、国の政はこの鋼鉄宰相が取り仕切っていたのだ。一人息子のギャスパーの不祥事もあって国王たるギョームは国政にまったく影響力はなくなり、退位してグレームに王位をゆずる日も近いと言われている。
◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇
「近頃の社交界の楽しい噂を知っていますか?」
公爵邸から、グレームが王太子となり王宮へと移り住んでも、アランはの寝室を別にはしなかった。
就寝前のひととき、今日一日のことを報告しあうのが二人の日課だ。
「噂?」と聞き返す夫にアランはくすりと笑い。
「“鋼鉄”と“冷血”が陰謀を巡らせて、可哀想な廃太子ギャスパー様を陥れたと」
婚約破棄されたが、あの“冷血”は結局王太子の伴侶の地位を手にいれたというわけだ。
「さらに前々から王位を狙っていた鋼鉄宰相は“冷血”と計って玉座を手にいれたと」
「半分はあたっているが、半分は違うな」
「たしかに」
寝酒を手にくつろぐ夫の膝に座れば、軽く口づけられた。かすかな酒精の味をぺろりと、その薄い唇を舐めることで楽しみ。
あのバカ王子を“おとしいれた”のは本当のことだ。
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