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どうも魔法少女(おじさん)です。【2】~聖女襲来!?~おじさんと王子様が結婚するって本当ですか!?
【8】絶対零度の王子様 その1
しおりを挟む連れ込まれたのは薄汚れた倉庫だ。食料庫なのか酸っぱいワインと、微妙に肉が腐ったような臭いがする。どっちにしろ、あまり良い酒と料理は出て来ない場末の酒場だろう。
魔封じの鎖で両手をぐるぐる巻きにされたコウジは、そのなかに突き飛ばされたなり男達によって殴る蹴るの暴行を受けた。
ぐったりとしたコウジの姿に「英雄の盟友様がいいザマだな」「お前とあのくそったれな平民愛妾の息子のせいで、魔法騎士団は解散になったんだ」「お前らこそ国の秩序を乱すヤツだ」と勝手なことを言う。
平民愛妾の息子とはいまだジークに対してささやかれる陰口だ。ブルジョアといっても貴族ではない。平民の娘の子だからと、それだけにすがりつくように、彼らはけしてジークを認めようとしない。
うつ伏せで丸くなっていた身体を表に引っ繰り返される。服を引きちぎられるように剥がされるのに雲行きが変わってきたな……とコウジは思う。おじさんを素っ裸にして街路の樹にでも吊すつもりか?
ちらりと倉庫の隅を見れば、目の前の暴力に見てられないと目を伏せた娘が、男に羽交い締めにされていた。まだ見張りは油断してないか。
「準備は出来たのか?」
そこにあらたな人物が現れた。ローブのフードを目深に被った人数は四人。うち先に立つ二人は仮面舞踏会用の仮面で目元を隠す念の入れようだ。
そして、後ろについていた身なりのよい明らかに従僕の二人に、コウジは思い当たる。
こいつらがこの不良魔法騎士団員くずれの尻拭いをして歩いていたのか。
そして、彼らを手なづけて自分達の手駒にした。
ならば仮面が顔を隠したこの男達二人が、今回の事件の首謀者か?
「いつ見ても貧相な男だな」
殴られ蹴られてぼろぼろの上に、素っ裸なコウジを見おろして仮面の男の一人が言う。
「こんな男を今から抱かねばならんとは」
つくづく嫌そうな声にコウジは『は?』と思う。
このおじさんを強姦?
おじさんだって男は嫌だぞ。ジークは、まあジークだからだ。
「あの平民の息子が夢中になっているのだ。意外に具合はいいかもしれんぞ」
もう一人の仮面の男が下卑た笑い声をあげる。
「ならばお前が先にやるか?」
「いやいや、序列10位のあなたに譲りますよ」
「序列11位よ。私の魔法接続がこれと適合しなかった場合はお前に譲る」
「仰せのままに」ともう片方の仮面の男が一歩後ろに退く。
そのやりとりでコウジは二人の正体がわかった。
3位以下の王子達の序列が王命によって取り消されていても、彼らや取り巻きの貴族達はいまだ王子達を序列で呼んでいた。
10位と11位の王子はコウジと因縁があった。
当時序列9位だったジークが、嫌がらせによって魔法少女召喚の儀式に大遅刻した。そのとき最後に残っていたコウジを彼はパートナーとしたのだが、それに関して再びの選び直しを求めた魔法少女が序列10位と11位だった。
名前も覚えていない。たしか赤いのと緑のドレスの。
「お前らきつねとたぬきのパートナーか?」
赤と緑だから、以前の世界のかつての好物というより、常食の名前をコウジは口にした。
「まだ話す気力があったのか。抵抗出来ないように手を押さえろ。足を開かせろ」
赤のきつねじゃねぇ。“元”序列10位の王子の言葉に従って、“元”魔法騎士団員達が、コウジの手足を押さえる。
おいおい、いきなりその“お粗末なもの”ツッコむつもりか?と思う。そのとき、部屋の隅で「キャア!」と悲鳴が響いた。
見れば緑なたぬきじゃない、元序列11位が人質の少女の手首をつかんでいた。
「序列10位殿が“お楽しみ”のあいだ、私はこの女に相手をしてもらおう」
「なにがお楽しみだ。ことが終わったあとに私にもその女で口直しさせろ!」
とことんこいつらの品性は王子とは思えないほど下劣だなと思う。もう少しいい気にさせて、ツッコまれる直前までこの悪だくみの情報を得たかったが、人質の少女の緊急事態だ。
コウジはこきんと手首の関節をはずして、するりと魔封じの鎖を抜け出した。同時に魔法騎士とはいえ、人を捕縛するすべなんぞ心得ていない。力任せにコウジの足を開かせ押さえ付けていた、魔法騎士の手から足を抜く。
そして、自分にのしかかってこようとしていた、きつね王子……で、もういいか。その股間を蹴り上げた。
こきりと手首の関節を元にもどして、コウジの手を押さえていた魔法騎士団崩れのみぞおちに一発。「お返しだ」と拳をくらわす。コイツには思いきり腹を蹴られたのだ。腹筋をしめていたんで、たいしたダメージではなかったが、
しかし、おじさんの拳は意外と効いたらしく、かはりと胃液を吐いて倒れる男のベルトから、短剣を引き抜いた。そちらを見ることもなくぶん投げる。
「ひっ!」
それは嫌がる少女の手首をつかんでいた、たぬき王子の鼻先すれすれに通り過ぎた。どうせなら鼻をそいでやってもよかったのに、避けやがったか。
バネのように立ち上がったコウジは少女に駆け寄ってその背にかばう。「こいつ!」と魔法騎士達がコウジの周りを取り囲もうとしたが。
そのとき内側からカギをかけていた、倉庫の扉がふっとんだ。ぱちぱちという雷の光。踏み込んできた黒い長身の軍服姿。
「よお、ジーク。久しぶりだな」
三日ぶりは久しぶりなのか?とは思うが、ようやく俺の王子様の顔を見れたぜと、コウジは片手をあげる。
息を切らして駆けつけたジークだったが、コウジの姿を見るなり、その美しい眉間にしわがよった。
「……その姿は?」
ジークが自分の軍服の上着を脱いで、コウジの裸の肩にかける。
「ああ、強姦されかけた」
あっさりコウジが言えば、ジークの剃刀色の瞳が絶対零度の気をまとって、男達を無言でねめつけた。
部屋に再び雷光が瞬いて、彼らは汚れた床に這いつくばって、ひしゃげたカエルみたいなうめき声をあげていた。すさまじい魔力の圧だ。おそらく巨人の足に踏んづけられているような感覚に違いない。
この王子様、災厄を倒したっていうのに、ますます、その魔力がすさまじくなってないか?と自分もそのパートナーであるコウジは思う。
そしてジークに「一応、殺すなよ」と言ったのだった。
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