どうも魔法少女(おじさん)です。 異世界で運命の王子に溺愛されてます

志麻友紀

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どうも魔法少女(おじさん)です。【2】~聖女襲来!?~おじさんと王子様が結婚するって本当ですか!?

【14】王家の災厄 その2

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「たしかにそこになじみがいることは認めよう。しかし広い娼館、客同士が顔を会わせて気まずくなるようなことはないように“配慮”されてはいる。
 そこで私と王子達が接触していたという証拠は?」
「ない。さすがに高級とついているだけあって、館の者達は口が硬くてね。お客様のことは、たとえお役人でもお話出来ないってね」

 さすがにこの場で煙草をくわえるわけにもいかず、コウジは口寂しさに唇に指でふれながら話す。
 「では、そのような不確かなもの。証拠にはなりませんね」とクルノッサが勝ち誇るでもなく、まったく平然とした態度で言う。

「では、神殿で私達が刺客に襲われた事件に移ろう」

 ジークの言葉に「そのような事件、初耳ですな」と本当に初めてきいたという風にクルノッサは驚いている。

「秘匿の部屋にて、先に潜んでいた四人の刺客に襲われた。四人とも捕縛は叶わず、二人は自らの毒の爪で命を落とし、二人は暗殺の失敗をさとり自害した」

 「刺客達は身元を表すものを一切身につけてなかった」とのジークの言葉に、クルノッサは大げさに「聖なる神殿を血で穢すなどなんと大それた」と嘆く。その口で。

「刺客の正体はわからないとそうおっしゃる?」
「ああ」
「ならば、それがどこかに繋がることもありませんな」
 言外に自分が差し向けたものだと疑われる、その根拠がないとクルノッサは匂わす。
「刺客達がどこの者かはわからないと、私は言った。だが、彼らを案内したものが誰かはわかっている。
 クルノッサ元老院議長。あなたの口添えで大神殿にはいったばかりの若い神官だ」

 その青年はクルノッサの遠縁にあたる男爵家の三男坊で、幼い頃より女神に仕えることを志していた。
 秘匿の間での暗殺未遂は箝口令が敷かれている。当然、入ったばかりの若い彼はそのような事件を全く知らなかった。

 昨日、事件の概要を教えられたときも、ただ青ざめ、そして見せられた刺客達の着ていた粗末な巡礼者のローブに「あっ!」と声をあげた。
 それは婚約式が行われる三日前に自分がこっそり案内した巡礼者だと。つまりは三日も彼らはあの秘匿の間にじっと潜んでいたことになる。

 夕方の礼拝も終わったあとの、夜の神殿に招き、そして彼らの姿を見失い若い神官は慌てた。神殿の入り口で、巡礼者を案内してきた男に彼らはとっくの昔に外へと出て来て、今夜の宿に向かいましたぜ……とそのままその言葉を信用したという。

 なぜそのような巡礼者と見ず知らずの案内の男を信用したのか。
 彼らが若い神官にとって恩義ある、クルノッサの署名入りの書状を携えていたからだ。

「刺客の名前もどこの生まれかもわからないが、あなたがその刺客達を、なにも知らない若い神官を使って招きいれたことは確かだ」

 そこまで言われればクルノッサは反論できず黙りこむ。次に「母上」と口を開いたのはコンラッドだ。

「母上の離宮に、そこのクルノッサが最近度々訪ねていたとお聞きしております。なにを話されていたのですか?」
「殿下、実のお母上をお疑いになるのですか? 私はロジェスティラ準妃様とは、古くから親しくさせていただいております。ただ、たわいもない世間話などを……」

 「あなたには聞いていないクルノッサ元老院議長!」とコンラッドが遮る。

「私は母上に訊いているのです。どうなのですか? 母上。あなたはこの企みを知っていたのですか?」

 沈黙していたロジェステラが口を開こうとしたとき「すべて、私一人が計画したことです!」とクルノッサが大きな声で告げた。そして、ジークとコウジを見る。

「ジーク・ロゥ殿下。たしかにあなたはこの国を救った。だが、あなたの存在は王家にとっては脅威だ。
 異世界から召喚されたその男とともに、すべてを破壊してしまう。庶子の王など我らは認められない」
「私は王になるつもりはない」
「あなたはそうおっしゃるが周りはどうかな? いまや辺境ではなく国の英雄と呼ばれる方よ。なにも知らぬ愚かな民は、その英雄こそが王に相応しいと口にする始末だ。
 あげく男の婚約者など迎え、ただ一人とおっしゃる。その考えにコンラッド殿下さえ染まり、自らが王となられても準妃を持たないなどと、誓われようとなさるなど。
 聖王グラフマンデから続く尊き純血の直系の系譜を途絶えさせようとする。まさしくあなたこそ王家の敵。滅びの災厄だ!」

 そこまで言い切ったクルノッサは、椅子に座るフィルナンド王の前に、両膝をついて頭を垂れる。

「陛下。もう名前も言うことの出来ぬ方々が王統の系図から抹消された今、コンラッド殿下こそが唯一の尊きフォートリオン王家の血を持たれる方」

 名前も言えぬとは正妃アルチーナとその息子である第1王子アンドルのことだ。この“正統なる”二人を、クルノッサはそれだけでただ盲目的に支持していた。
 そして、対象が今度は唯一残されたコンラッドに移った訳だが。

「けして愚かな民草の言葉などに流されて、間違った王を選んではなりません。そのときこそ、フォートリオンが滅びるとき。
 この老骨。平民の女の子供、庶子といえど王族を手に掛けようとした罪、心得ております。どのような罰も、家の取り潰し、一族末端までの連座も覚悟いたしましょう。
 その代わりに、どうかどうか、この哀れな老人の言葉を聞き入れ、間違いなどなされぬように」

 ある意味王家に忠誠をささげた忠臣の言葉だ。ただ、それはただ高貴な血のみを信奉する、これもまた狂信者のような間違った忠義だが。

「ロジェスティラ。お前はこのクルノッサの言葉をただ聞いていたのだな?」

 フィルナンドの問いに準妃ロジェスティラは「はい」と答えた。クルノッサが「ロジェスティラ様」と声をあげるが、彼女は「ただ聞き、黙っておりました」と答える。フィルナンドは深くため息をつき。

「それがお前の答えだ、ロジェスティラ。お前の沈黙こそ了承。お前はなにごとも言うことはない」
「はいそうです、陛下。王家の血を途絶えさせるわけにはまいりません。それが準妃たるわたくしの役目です」

 ロジェスティラが背筋を伸ばし、まっすぐにフィルナンド王を見つめた。





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