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どうも魔法少女(おじさん)です。【2】~聖女襲来!?~おじさんと王子様が結婚するって本当ですか!?
【18】さかさまのおじさん その1
しおりを挟む今回は軍事行動ではなく、外交交渉ということで迅速さを求めて、ロンベラスが率いていたのは騎兵小隊一つのみだった。
魔法で強化された馬は疲れないとはいえ、人間には休息と睡眠は必要だ。騎兵のみの迅速さといささかの強行軍であったが、それでもフォートリオンの西方の端に位置する第10王子の主家の領地までは五日の行程を見積もっていた。
ロンベラスが戻って来たのは王都を旅立って、八日後。つまりは領地に到着したとして、三日の行程で王都にとんぼ返りしたことになる。
いや、領地での交渉で何事があったとして、前日の到着で一泊し午前に交渉し、そこで何らかの出来事があったとすると、三日がまた一日は削られるから、二日で国土の半分を横断したことになる。
魔法で強化させた馬は疲れることなく、昼夜を全速力で駆けることが出るが、人はそうではない。睡眠を取れない疲労に回復魔法を使うとしても、やはり魔力には限界がある。
ロンベラスは王都の旧市街の門の前で倒れ、そこに詰めていた衛兵によって王宮に担ぎ込まれた。
異様だったのは、彼の緑の軍服の左の太ももに幾つもの刺し傷があったことだ。傷は浅いが、何度も小刀でついたあとだ。
ロンベラスの帯剣のベルトにさしこまれた短剣は、自らの血で濡れていた。彼自身がやったということだ。
王宮の侍医長である最高の治癒師が、彼の治療にあたった。太ももの傷は酷いモノではなく、すぐに跡形もなくその傷は消えた。それよりも、魔力が枯渇寸前で疲労の蓄積もひどい為、しばらくは休息が必要ということだった。
ロンベラスは平騎士の家の出身でありながら、すぐれた魔法騎士で、一時期は魔法騎士団に身を置いていた。が、名門の生まればかりが優遇される騎士団においてロンベラスの実力は認められず、彼はそれに見切りをつけて国軍の将校となった経緯がある。
同期が、いまや魔法騎士団長だった記録さえ抹消されたハーバレスで、彼はロンベラスの才能をねたんで陰でこそこそと様々な嫌がらせをしたという。ロンベラスが魔法騎士団を出たのも、この男が理由だったとも。
その魔法騎士団はハーバレスの不祥事により解散となり、いまは王家直属の親衛隊ではなく、近衛師団として国軍の下、ロンベラスの直下におかれていた。
ロンベラスが率いた騎兵は、この近衛の精鋭の魔法騎士達だった。小数といえど遅れをとることはないはずだった。
それがロンベラス単騎で戻ってきたなど。
彼が目覚めるまでの三日間、
王宮はどこか不穏な、重苦しい空気に包まれていた。
◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇
なんでもやります課の天井には鉄の棒が通っている。
部屋を一つもらうときに、コウジが唯一注文をつけたものだ。机や椅子はどっかの使い古しでいいぜと言ったら、そんな訳にはまいりませんと座り心地のいい重役の椅子と立派な執務机に、ちょっとした応接セットに潤いの植木鉢が運びこまれた。
「あ、一つだけ欲しいものある。天井に棒をつけてくれ」
「どのような棒にございますか?」
「ん~人がぶら下がって折れないヤツ」
コウジの曖昧な注文を具体的に指示したのは、ジークだった。人がぶら下がるどころか、絶対に折れない棒をという注文で、かくて天井には鉄のそれが設けられることになった。
扉を開いたときにシオンが悲鳴をあげなかったのは、ひとえにそのツンツンのプライドゆえだろう。
「よう」とコウジは逆さづりのまま、片手をひらひらさせて挨拶した。もう片方の手には読みかけの詩集がある。
「な、なんでそんな格好しているのよ!?」
「そういえば、シオンちゃんは見たことなかったか。まあ、流行のながら運動ってヤツか?」
「そんなものちっとも流行ってないわよ」とシオンはいう。先に部屋にてお茶をいれていたマイアが「そうですね、流行るには少しハードすぎます」とおっとりと言う。
コウジは鉄の棒に革靴に包まれた足を引っかけてぶら下がっていた、本を片手に身体を曲げる。さかさまの姿勢で腹筋していた。
「悲鳴をあげなかった、シオンちゃんは偉いです。わたし、初めて見たときに思わず声をあげちゃいました」
「褒められたって少しも嬉しくないわよ!」
「コウジさん、すごいんですよ。逆さで腹筋だけでなく、本を読みながら片手で懸垂も出来るんです」
「マイアちゃんに褒められるとおじさん照れるなぁ」などといいながら、身を丸めたコウジは「よっ」と鉄棒から足を外して一回転して、ネコのように床に降り立つ。
さかさまだったために、ズボンから出てしまったシャツを押し込みながら、上着を肩にひっかけるとじっとシオンの視線を腹のあたりに感じた。
「細すぎない?」
「まあ痩せてはいるが普通だぜ」
「なにをもって普通と言うべきかしらね」とシオンの口調はいささかトゲがある。これはジークも含めてのことだなとコウジは思う。
『まあ、あいつは色々と規格外だからな』という、コウジの内心の声をきいたならば、シオンからは『あなたも含めてよ!』と盛大なツッコミが入っただろう。
「ま、普通だな。身長も日本人男性の平均よりちょい高いぐらいだしな。身体も中肉中背? ちっと痩せてはいるが」
「ちょっとどころではなく痩せているわよ。だいたい、その腹筋も標準装備なわけ?」
痩せてるから筋肉量からしてバキバキとはいえないが、うっすらと腹筋が割れているのは確かだ。おじさんのめくれたシャツから見るなんて、エッチ……とは言わない。年頃の娘に言えば、逆にセクハラだ。
「ま、身体が資本の仕事をしていたからな」
「まったく、あなたは日本でなにしていたのよ?」
「…………」
これに関して、コウジはノーコメントを貫いている。職業に関しては「自営業のなんでも屋だ」とだけ答えている。嘘は言ってない。
まさか、修羅の街中目黒で掃除屋してました……なんて口にすれば、冷ややかな目で見られそうだ。自分が妄想したキャラの設定だが、大人になって、ましておじさんの姿になって口にする勇気はない。
おお~勇者だった中二病の俺よ。なんでこんなイタイ設定を作ってしまったんだ。
まあ、その前は傭兵で人殺ししてましたなんて話も、平和な世界で暮らしていた女の子にする話でもない。
「それで今のような“運動”を毎日してるの?」
「いや、おじさんはそんなに生真面目じゃないからな。気が向いたときにな。身体が鈍らない程度だ」
「それで私達と同じようにお茶菓子ばかばか食べて、中年太りなんて知りませんなんて体つきなんて、詐欺だわ」とシオンが不機嫌にぶつぶつ言っている。
まあ、ダイエットは女性の永遠のテーマだ。
「それで、シオンちゃんはなんの御用だ?」
今日は新聞に載るようなことをしていないはずだと訊ねれば。
「ロンベラス将軍が目覚めたのよ。至急陛下と三王子に報告したいことがあるって」
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