56 / 120
どうも魔法少女(おじさん)です。【2】~聖女襲来!?~おじさんと王子様が結婚するって本当ですか!?
【23】神様ルール※ その2
しおりを挟むそれからまた毛布にくるまって二人とも寝たと思う。夜明けまではあと少し、そのあいだ身を寄せ合って、朝になれば出発だ。
「あり?」
思わず声が出たのは、寝ていたはずがいきなりまっ白ななにもない空間にいたからだ。
いや、なにもない訳では無い。見覚えのある重役の机に革張りの社長の椅子。そこに腰掛けている相手の顔はなぜか見えない。
この空間には覚えがありすぎる。コウジの世界の神と対面した場所。
「いや~君達相変わらず仲がいいね」
そう声をかけられてギョッとしたのは、俺達いままで裸で抱き合っていなかったっけ!? ということだった。
コウジが自分の身体を見おろすと、いつものくたびれた黒いスーツ姿だった。横にいるジークも黒に銀の飾りの軍服姿。
ホッ……と息をついたが、しかし。
「さすがに裸のまま、召喚はしないよ。ちゃんと服を着せてあげたから」
「だったら、時と場所を考えて呼びだして欲しかったぜ!」とコウジはグシャグシャと片手で髪をかき回す。横のジークは無言のまま、そんなコウジの腰をしっかり抱き寄せた。
「それで私達をなぜ呼んだ? コウジの世界の神よ」
おいおい、王子様はあくまで冷静だな。なぜか、俺の腰を守るみたいに抱いてるけど。相手は神様だぜ、警戒する必要は……あるか。
なにしろ自分の世界の四十四人の少女をほいほい異世界に貸し出すような神様だ。ついでにコウジも自身が考え出した最強おじさんにして、送り出してくれたのは恩義を感じるべきなのか?
アフターケアが間違った方向に万全としか思えないが。
そこでコウジは思い出す。例の聖女も異世界からやって来たのだ。
「聖女てぃあらのことか?」
「話が早くて助かるね。そう、あの少女の“亡骸”はこちらの世界のものだよ」
“亡骸”とその言い方にひっかかった。コウジは怪訝に眉を寄せれば。
「そう少女てぃあらはこの世界ではすでに死んで、魂は次の転生に入っている。あちらの世界に渡ったのは身体だけだよ」
コウジは軽く混乱した、身体だけってことはゾンビか? と考えたが。
「ではあの聖女には誰の魂が入っている?」
ジークがそう訊ねた、そうだ順当に考えれば身体には誰かの魂が入っているはずだ。
「それは女神モルガナ自身だよ。あれはただの聖女なんてものではない。女神の力に異世界の者の異能の力が合わさったものだ。
歴代のなかで最高の聖女を……とモルガナが望んだ」
「あんたがあっちに魔法少女をほいほい送り出したみたいに、今度は聖女の身体を渡したのが、この結果か!?」
「神だって間違えることがあると、君に前、言っただろう?
私はてっきりモルガナがようやく自分の小さな世界を育てる気になったと思ったのさ。自らが聖女となることでね。
それがまさか、となりのフォートリオンに手を出すなんてねぇ」
「二人の兄貴である、あんたが介入しないのか?」とコウジが問えば「それは出来ない」とあっさり答えられる。
「我々の世界は独立起業みたいなもんだからねぇ。当事者同士の争いは、当事者同士で解決するのが基本だよ」
へえへえ独立採算制にして、弱肉強食ですか……とコウジは内心で毒づく。
「ただし、コウジ。君に関しては私が久方ぶりに“直接創造”した御使いみたいなものだからね。だから、聖女のことは説明しておくべきだと思ってね」
御使いって俺は天使かなにかか? おじさんの背中に白い羽があるのはあんまり想像したくない。
「で、なにが言いたいんだよ?」
「いや、あれは聖女じゃなくて相手は神だから『頑張ってね』とね」
「単なる激励かよ! 意味があるか!」
これは聖女というか、モルガナ女神との対決が不安になってきた。策は練ったが相手が依り代どころか本当の女神となると通用するかどうか。
これは聖女に汚染された地が切り離される可能性が、ますます大きくなったぞ……と思うが。
「でも、君達は一回“女神”に勝ってるじゃないか? アルタナの落とした災厄の影とはいえ、あの場で人々の魔力が消えたのは女神の分身としての力だよ」
コウジの世界の神が言っているのは、正妃アルチーナが災厄だとわかった、あの聖王の間でのことだ。
災厄は隠していた己の力を発動させて、あの場にいるすべての者達の魔力を無効にした。
だが、ジークとコウジにはその力は通用せずに、女神の影たる災厄を退けることが出来たのだが。
たしかにあれは不思議に思っていたが。
「あれはコウジが、その魂以外は私の創造物だからだよ。だから、そのコウジと魔力連結をしたパートナーである王子も、女神の力は通用しなかった」
「だから今度もなんとかなるんじゃないかな?」とは希望的観測過ぎるんじゃねぇか? とコウジは内心で毒づいたが。
「では、私とコウジの魔力は私達の世界の外にあるということか?」
「うんうん、そういうことになるね」
ジークが口を開く。彼はしばらくあごに手を当てて考え「コウジの世界の神よ」と呼びかける。
「ここに女神アルタナを呼ぶことは出来るか?」
「ん、ああ、いいよ」と神はあっさり答える。いや、そんなにほいほい妹神、呼びつけていいのかよ?
しかし、その一瞬後には「なに? お兄さま」と女神アルタナが空中から姿を現した。ジークとコウジの姿に、ぎょっと目を見開く。コウジは「女神様よ」と低い声を出す。
「なにが聖女はモルガナ女神の依り代だ。こっちの神様の説明によると、あれは女神そのものらしいじゃないか?」
「俺達を神様と戦わせるつもりだったのか?」とコウジがすごめばアルタナ女神の目が泳いだ。
「だって、あなたたちは私の影に勝ったじゃない。だから大丈夫かな……って」
「どいつもこいつも神様ってのは楽観的過ぎないか? だいたい、よく考えりゃ俺達を戦わせるんじゃなくて、女神様同士でキャットファイトでも平手の打ち合いでも決着つけりゃいいじゃねぇか」
「そうだ、それがいい」とコウジが腕を組めば「あのね、神々同士の直接の戦いは禁じられているの」と女神アルタナがいう。「神々同士の戦いとなればお互いの創造した世界が崩壊するからねぇ」とコウジの世界の神が続ける。
「モルガナ女神とやらは聖女になってこちらに侵略してきてるじゃないか?」
「あれは女神が人間として転生した訳だからね。肉の身体に縛られている限りは、神としての全能は使えないよ」
なるほどだから聖女の洗脳は強力であるが、その範囲はかなり限定的なのかとコウジは納得する。「わざわざ人間になるなんて、本当になりふり構ってないわ」とアルタナ女神も呆れた口調だが。その聖女で女神が、自分の創造した地に居座っているんだがな。
「女神モルガナと直接対決出来ないことはわかった。だが、女神アルタナよ。間接的に権能を使うのは可能か?」
ジークが訊ねる。それに女神アルタナは「条件によってはね」と答える。
「聖女の元に走った王子達はモルガナ女神に“改宗”したとはいえ、元はフォートリオンの民だ。あなたの力の影響はいまだあるか?」
「もちろんよ。ただし、今すぐに彼らの心臓を止めるとかは無理よ。私達は創造は出来るけれど、一旦生み出したものの運命を自在に操ることは禁忌とされているの。
権能によって奇跡を起こし手助けは出来るけれど、あとは増えるも滅びるも……それはその創造したもの達が切り開くもの」
なるほど神様にも色々なルールがあるらしい。直接争ってはいけない。代理で戦うのはその創造物達。
そして神が生み出した物でも、神々はその生き死にを自在に出来ないと。だったら異世界に送りこむのはどうなんだ? と言いたいが、神様ルールはよくわからん。
「ほんのひととき、彼らにその力を使うだけでいい」とジークは告げた。コウジは「どうする気だ?」と訊ねる。
「兵糧攻めだ」
ジークは答えた。
218
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢の兄でしたが、追放後は参謀として騎士たちに囲まれています。- 第1巻 - 婚約破棄と一族追放
大の字だい
BL
王国にその名を轟かせる名門・ブラックウッド公爵家。
嫡男レイモンドは比類なき才知と冷徹な眼差しを持つ若き天才であった。
だが妹リディアナが王太子の許嫁でありながら、王太子が心奪われたのは庶民の少女リーシャ・グレイヴェル。
嫉妬と憎悪が社交界を揺るがす愚行へと繋がり、王宮での婚約破棄、王の御前での一族追放へと至る。
混乱の只中、妹を庇おうとするレイモンドの前に立ちはだかったのは、王国騎士団副団長にしてリーシャの異母兄、ヴィンセント・グレイヴェル。
琥珀の瞳に嗜虐を宿した彼は言う――
「この才を捨てるは惜しい。ゆえに、我が手で飼い馴らそう」
知略と支配欲を秘めた騎士と、没落した宰相家の天才青年。
耽美と背徳の物語が、冷たい鎖と熱い口づけの中で幕を開ける。
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
なぜ処刑予定の悪役子息の俺が溺愛されている?
詩河とんぼ
BL
前世では過労死し、バース性があるBLゲームに転生した俺は、なる方が珍しいバットエンド以外は全て処刑されるというの世界の悪役子息・カイラントになっていた。処刑されるのはもちろん嫌だし、知識を付けてそれなりのところで働くか婿入りできたらいいな……と思っていたのだが、攻略対象者で王太子のアルスタから猛アプローチを受ける。……どうしてこうなった?
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も皆の小話もあがります。
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新!
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
オメガだと隠して魔王討伐隊に入ったら、最強アルファ達に溺愛されています
水凪しおん
BL
前世は、どこにでもいる普通の大学生だった。車に轢かれ、次に目覚めた時、俺はミルクティー色の髪を持つ少年『サナ』として、剣と魔法の異世界にいた。
そこで知らされたのは、衝撃の事実。この世界には男女の他に『アルファ』『ベータ』『オメガ』という第二の性が存在し、俺はその中で最も希少で、男性でありながら子を宿すことができる『オメガ』だという。
アルファに守られ、番になるのが幸せ? そんな決められた道は歩きたくない。俺は、俺自身の力で生きていく。そう決意し、平凡な『ベータ』と身分を偽った俺の前に現れたのは、太陽のように眩しい聖騎士カイル。彼は俺のささやかな機転を「稀代の戦術眼」と絶賛し、半ば強引に魔王討伐隊へと引き入れた。
しかし、そこは最強のアルファたちの巣窟だった!
リーダーのカイルに加え、皮肉屋の天才魔法使いリアム、寡黙な獣人暗殺者ジン。三人の強烈なアルファフェロモンに日々当てられ、俺の身体は甘く疼き始める。
隠し通したい秘密と、抗いがたい本能。偽りのベータとして、俺はこの英雄たちの中で生き残れるのか?
これは運命に抗う一人のオメガが、本当の居場所と愛を見つけるまでの物語。
「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。
キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ!
あらすじ
「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」
貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。
冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。
彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。
「旦那様は俺に無関心」
そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。
バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!?
「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」
怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。
えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの?
実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった!
「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」
「過保護すぎて冒険になりません!!」
Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。
すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。
【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
* ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。
BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
本編完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
きーちゃんと皆の動画をつくりました!
もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画
プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら!
本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。