どうも魔法少女(おじさん)です。 異世界で運命の王子に溺愛されてます

志麻友紀

文字の大きさ
108 / 120
どうも魔法少女(おじさん)です。【3】~魔王降臨!!おじさんの昔のオトコ!?~

【23】卵はないない! その2

しおりを挟む
   



「逆に国民や兵からの絶大なる人気を誇るお前を王にせずに、他の者が王となったとする。
 そうなるとお前の扱いは大変難しいものになるぞ。民にとっては王を凌ぐ英雄だが、貴族の石頭どもは逆にお前を邪魔者扱いし、常に陰謀をたくらむ馬鹿が出てくる」

 その言葉にジークが口を開こうとしたところでフィルナンド王は先を制して。

「お前のことだ。コウジとともに辺境にて隠遁生活をおくってもよいとか、なんならば国外に出てもいいと思っているのだろう」

 「そんな簡単に行くものか。自分が欲がないからと他人までそうだと思っている、馬鹿者め!」とフィルナンド王はジークを叱りつけ。

「国民や軍は、王と宮廷と貴族達が“英雄”を追い出したとみるだろう。王家の権威は失墜し、馬鹿貴族共はお前を追放したと浮かれ騒ぐだろうが、そんな姿を見れば、民や兵士達の反発はますます強くなる。
 最悪、叛乱さえ起こりかねん」

 そこまで言われるとコウジもすとんと胸に落ちるものがある。隣のジークも沈黙し考えこんでいるようだ。
 いつだって、どこでも二人でいれば生きていけると思っていたが、違うようだと気付く。自分達が去ったあとのフォートリオンのことなんて考えたこともなかった。

 コウジの脳裏に思い浮かんだのは、ジークの屋敷の人々だ。執事のケントン以下。ジークと自分を信じて、あの屋敷を守り続けてくれた。
 自分達の家を。
 それにふらふらと歩いた王都ですっかりとなじみになった本屋の主人に、カフェの親父や通りかかると声をかけてくる人々の顔が浮かんだ。

 この世界におじさんなのに魔法少女として呼ばれて、ずいぶんと馴染んだものだと思う。

「それでどうなのだ?」

 返事を聞かせろとフィルナンド王が自分を見ているのに、ジークではなくなんで俺? とコウジは思う。

 が、そのジークが自分をじっと見ていることに気付いた。
 そうだった。この男の行動はコウジが基準なのだ。

 おそらくコウジがここで王様の相棒なんて柄じゃないと断ったら、ジークは周りがいくら勧めようと王にはならないだろう。
 自分の返事一つってそれってどうなんだよ? お前のやりたいことをやれよとジークに言いたいが、コウジがおじさんだろうとミジンコだろうと構わない男の妄執だ。もう、これは最後まで付き合うしかない。

────俺が腹をくくるしかないのか。

 婚約のときだってそうだった。ガラじゃないとごまかそうとなんだろうと、この剃刀色の真っ直ぐな瞳にいつだって負けるのだ。ま、勝ち負けじゃない。結局自分だって、この相棒にとって一番よい道を選びたいのだ。

 それは。

「ジーク、俺もな。お前が王様になればよい王様になると思っているぞ」

 「だからな、最後まで付き合ってやるよ」と笑う。

「そなたもな。この場合は王妃ではなく、王配ということになるか」
 そうフィルナンド王に言われて、コウジは「本当、ガラじゃないですけどね」と苦笑する。
「しかし、いきなりの譲位とはお貴族様達がうるさいでしょ?」
「だから、今なのだ。奴らは王都から民を押しのけて我先にと逃げようとした体たらくだぞ。この民の盛りあがりにはさすがに文句の一つも言えまい」

 なるほど、たしかにフィルナンド王が「好きにしろ」と言ったとはいえ、彼らは我先にと王も国も守らずに逃げ出したのだ。貴族として王と国に対しての義務もはたさずだ。
 それがわかっていて「好きにしろ」と言った王も人が大変悪いが。

「まあ奴らには、ジーク・ロゥが王配たるコウジだけだと神前に誓った。一代限りの王ということで、勝手に期待を持たせておけばよい」

 フィルナンド王がニヤリと笑う。たしかにジークはコウジ以外の準妃や愛妾を迎えるつもりはこれっぽっちもないだろう。

 当然、次の王はコンラッドかピートの子ということになる。コンラッドが一番有力であるが、こればっかりは授かりものだ。わからない。
 とはいえ、血統主義の貴族達はコンラッドの子が王となれば、フォートリオン王の系図は本流に戻ると、そこで納得させておけばいいだろう。

 しかし、そこでフィルナンド王はなにかに気付いたように軽く目を見開いた。

「そういえば御使い殿よ。そなた、その背に翼があるように見た目が男であるが、まさかジークとの卵を産めるなどということは……」
「ありません! 俺は正真正銘のオスですし、人間の身体なんだから、卵を産むわけありません!」

 なんだ、ジーク。お前まで期待の目で見るな! 



   ◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇



「あのさ、ケントンさん。このマント重くないか?」
「何度も衣装合わせなされてわかっていたはずでございますよ。それにこの日ばかりは我慢なされてください」

 いつものごとく無精髭をそられ、髪もうしろに流されて“整えられた”コウジは、これまたいつものごとく、その両手に白い子羊の皮手袋をはめられて言われた。

「それから御髪をいじるのは我慢なされてくださいね」

 それも今日一日の我慢だ。
 フィルナンド王の退位が発表され、同時にジークが次代の王となることと、コウジとの結婚式と戴冠式が同時に行われるとの知らせに、王都は一気に祝祭ムードに包まれたことはいうまでもない。

 ジークの住居もまた王都郊外から、この宮廷へと移された。王となるのだから当然だが、ケントン達との別れは寂しいとコウジが思っていたら、なんと彼らはそのまま王の使用人として、この宮殿にくっついてきた。
 そんなわけで住居は変わったが、周りの人々は変わらずコウジは宮殿の生活になじむ……というより前と変わらず自由気ままにやっている。

 しかし、今日は違う。
 そう、戴冠式と結婚式の日だ。





しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も皆の小話もあがります。 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

悪役令嬢の兄でしたが、追放後は参謀として騎士たちに囲まれています。- 第1巻 - 婚約破棄と一族追放

大の字だい
BL
王国にその名を轟かせる名門・ブラックウッド公爵家。 嫡男レイモンドは比類なき才知と冷徹な眼差しを持つ若き天才であった。 だが妹リディアナが王太子の許嫁でありながら、王太子が心奪われたのは庶民の少女リーシャ・グレイヴェル。 嫉妬と憎悪が社交界を揺るがす愚行へと繋がり、王宮での婚約破棄、王の御前での一族追放へと至る。 混乱の只中、妹を庇おうとするレイモンドの前に立ちはだかったのは、王国騎士団副団長にしてリーシャの異母兄、ヴィンセント・グレイヴェル。 琥珀の瞳に嗜虐を宿した彼は言う―― 「この才を捨てるは惜しい。ゆえに、我が手で飼い馴らそう」 知略と支配欲を秘めた騎士と、没落した宰相家の天才青年。 耽美と背徳の物語が、冷たい鎖と熱い口づけの中で幕を開ける。

なぜ処刑予定の悪役子息の俺が溺愛されている?

詩河とんぼ
BL
 前世では過労死し、バース性があるBLゲームに転生した俺は、なる方が珍しいバットエンド以外は全て処刑されるというの世界の悪役子息・カイラントになっていた。処刑されるのはもちろん嫌だし、知識を付けてそれなりのところで働くか婿入りできたらいいな……と思っていたのだが、攻略対象者で王太子のアルスタから猛アプローチを受ける。……どうしてこうなった?

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

超絶美形な悪役として生まれ変わりました

みるきぃ
BL
転生したのは人気アニメの序盤で消える超絶美形の悪役でした。

この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

COCO
BL
「ミミルがいないの……?」 涙目でそうつぶやいた僕を見て、 騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。 前世は政治家の家に生まれたけど、 愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。 最後はストーカーの担任に殺された。 でも今世では…… 「ルカは、僕らの宝物だよ」 目を覚ました僕は、 最強の父と美しい母に全力で愛されていた。 全員190cm超えの“男しかいない世界”で、 小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。 魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは── 「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」 これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。