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兎達とそれぞれの天使のたまご達のお話【ザリア、ジョーヌ、ブリー】

ジョーヌは最強!

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 ジョーヌが十八となり、婚約していた皇太子エリックと結婚となった。国をあげての祝祭となった結婚式は華やかに行われた。マダム・ヴァイオレットの花嫁の盛装に身を包んだジョーヌ皇太子配は、輝くように美しく、その気高い気品ある微笑みにパレードで歓声をあげ続けた民達は、次の代での王国の安泰も確信し喜んだのだった。

 さて、婚姻のあとは当然初夜である。
 つつがなく行われたと、女官からは知らせを受けていたが……。

「それでどうなんじゃ?」

 このような出歯亀は興味津々で……いや、したくはないが……と心の中で言い訳しつつ、退位して“御隠居”と呼ばれるようになった、前王カールは皇太子エリックに話しかけた。
 王宮の奥にあるこぢんまりとした離宮が、カールの今の座所だ。そこの日のよくあたるサロンの午後。「茶でもどうじゃ?」とエリックを誘ったわけだ。
 これがただの茶の誘いではないとはわかっていたのだろう。孫の狼はいささか緊張した面持ちであったか、カールの問いにきょとりとした。

「どうとは?」
「昨夜の首尾じゃ。ちゃんとジョーヌちゃんを“抱っこ”出来たのかな?」
「“抱っこ”とは?」

 ますます首をかしげる鈍い孫息子に、カール王はずばりときいた。

「だから閨の首尾じゃ」
「お、お爺さまでも、いくらなんでもそのような……」
「詳しくはよい。とにかく成功したか。失敗したかでいいんじゃ」
「せ、成功いたしました」
「本当かのぉ。ジョーヌちゃんはともかく、お前だからなぁ。閨教育は受けたのじゃろうが」
「口頭にて受けましたが実地は遠慮しました。ジョーヌ以外には触れたくないので」
「それは聞いておるし、うちのかわいい兎さん以外に“教育”とはいえ不貞まがいのことをする男など、ワシも気に入らんからなあ」

 カールにとってエリックもジョーヌも同じ孫息子ではあるが、どっちが可愛いかなんてそれは兎さんのほうに決まっている。同じ狼の男など見目麗しいなどと世に騒がれているノクトだって、ただのむさい息子だろうと。

「で、本当に大丈夫だったんじゃろうな?」
「わ、私もジョーヌもお互い初めてではありましたが……」
「そりゃ初めてだろうな。お前から婚前交渉をするとは思えん」
「そ、そのような、ふしだらなこと……」
「真っ赤になるな。そんな様子だと本当に初夜が無事に出来たのか、不安になるわ」
「出来ました、出来ました。ガチガチに緊張する私をジョーヌが導いてくれました」
「ジョーヌちゃんが導く……な、なんかわかるような気がするな」
「し、失敗して“暴発”した私を『よしよし』と慰めてくれて」
「ジョーヌちゃんのよしよし、なにかうらやましいぞ。しかし、暴発したのか?」
「は、はあ、不覚にも。しかし誰にでも失敗はあると、ジョーヌがやり直しをさせてくれて無事……」
「無事本懐を遂げたか?」
「はい、ジョーヌが『がんばれ』と頭を撫で撫でしてくれました」
「撫で撫で……なんて幸福な男なのだ」



 それでも心配だと、翌日、サロンにジョーヌを呼んだカールに皇太子配となった、垂れ耳の金兎は微笑を浮かべていった。

「エリック殿下はとてもご立派・・・にございました」

 あとは語らぬというか、聞けない雰囲気のその微笑みにカールは「ジョーヌちゃん最強」とつぶやいたとか。



   ◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇



 そんなジョーヌに産屋はいらないか? と思われたが。

「作って……おいてよかったな」

 思わず御隠居カールはつぶやいた。王宮の奥につくられた産屋の控え室。となりの部屋からはジョーヌの苦しむ声ではなく、エリックの悲嘆にくれる声が聞こえる。

「ジョーヌ、ジョーヌ、死なないでくれ」
「大丈夫…です…殿下。お産では…死にません……」
「い、今にも死にそうではないか……」

 苦しむジョーヌの手を握りしめて、エリックのほうが死にそうな顔をしていた。産気付いたジョーヌにすがりついて「死なないでくれ」とくり返す皇太子を誰も引き剥がせなかった。というより「わたくしは死にませんよ」と頭をなでなでするジョーヌの微笑みが『そのままに……』と語っていたので“放置”されたのだ。

「ジョーヌ……」
「殿下、お泣きにならないで」
「すまない、こんなみっともない私で」
「いいえ…いい…え……わたくしの代わりに、お泣き…になって……下さっているの…ですね……あ、痛っ!」
「痛いのか?」
「さすがに痛くないとは……申し上げませ…ぬ……」
「ああ、私が代わってあげられたなら……」
「むしろ、殿下でなくてよかっ…た……と、この痛みは耐えられなく…て……儚くなられるかも……」
「やっぱり死ぬほど痛いのか? ジョーヌ、ジョーヌ、死なないでくれ!」

 また振り出しに戻ったよ……と隣室の控え室の誰もが思った皇太子エリックの悲嘆の声に、ジョーヌの「殿下、わたしくは大丈夫にござい…ます。ほら…いいこ…いいこ……」と根気強く、慰める声が聞こえる。まさに、この皇太子にしてこの皇太子配ありだ。
 ジョーヌの「産まれます」との痛みを堪えながらも冷静なその声にこの国の未来は安泰だと、誰もがそう思ったという。

 後に本人いわく「わたくしが死なないか泣き濡れる殿下をお慰めするうちに、お産が終わっていました。殿下なりにわたくしを助けてくださったのでしょう」とどこまでもエリックを立てる見事な皇太子配であった。

 産まれた金色純血の狼の仔はウィルフリッドと名付けられた。








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