ウサ耳おっさん剣士は狼王子の求婚から逃げられない!

志麻友紀

文字の大きさ
114 / 213
鳴かない兎は銀の公子に溺愛される【シルヴァ×プルプァ編】

【19】抱きしめられた腕のあたたかさ

しおりを挟む
   



 祖父はノーマン大帝国大帝デイサイン。祖母はエ・ロワール女侯爵ヴィヴィアーヌ。その間に生まれた姫デルフィーヌが母であり、父はオルハン帝国の皇子である双角のツィーゲ。
 よく考えなくともプルプァはとんでもない貴種といえた。

「長い間、名乗りをあげることが出来ずにすまなかった。我が愛しい娘の子であり、そなたも等しく愛おしいプルプァよ。
 わびの印にもならんが、ただいまをもってそなたに、湖の城マンの公爵の爵位をあたえよう。我が孫、ノーマンの王族として殿下ロイヤルハイネスを名乗るがよい」

 これでプルプァはエ・ロワールの女侯爵の孫令息というだけでない。自身もノーマンの公爵であり、さらに大帝であるデイサインから、王族の一人としての称号を名乗ることを許されたということになる。

「さて、二人の結婚になにか文句があるのかな? 聖ロマーヌの女王よ」

 称号を与える印として、プルプァのひたいに二本の指で触れておいてから、その頭をゆっくりと撫でて、デイサイン大帝が呼びかける。ひたりと獅子の金の瞳で、このあまりの自体に呆然としていたテレーザにだ。

「い、いえ、ございません……あ……」

 反射的に答えてから彼女は口許に手をあてる。潔癖で頑固者の聖ロマーヌの女王も、この大帝の迫力には敵わぬか? というところだ。

「……そ、それでも聖ロマーヌの印の結婚証明書を出すこと出来ません」

 小さな声でいう。なお、そこにこだわるか? というべきか。しかし大帝は「そんなものはいらん」とすっぱり切り捨て。

「それより、鉛の指輪を先ほどの言葉どおり、皆に贈ることだな。そう、このワシとここにいるワシの最後の妻にもな」

 そういってヴィヴィアーヌを見る。

「え? あ? それはデイサイン様?」

 恋愛遊戯に百戦錬磨のはずの女侯爵は、まるで少女のように頬を染めて戸惑う。

「さて、自由気ままな猫の本性とあちらこちらにふらふらするのを許しておったがな。そろそろ、そなたも結婚という鉛の指輪をはめられて観念するがよい。
 ワシも妃を失って久しい。髪も髭も金を失いまっ白となってしまったが。さて、こんな“花婿”では不満かな? エ・ロワールの姫君よ」

 その純潔はともかくとして、ヴィヴィアーヌは一度も結婚はしたことのない。たしかに“姫君”なわけで。

「いえ、あなた様はいまも昔も変わらず、とても素敵な殿方ナイトですわ。デイサイン様」

 差し出された大帝の手に、その手を重ねたのだった。
 え? これって、サンドリゥムの公子の婚約のお披露目の茶会であったけれど、ノーマンの大帝とエ・ロワールの女侯爵の婚約式にもなったわけ? と王侯達が内心で戸惑うなか。

「おめでとう。グラン・パにグラン・マ」

 素直なプルプァが素直に祝いの言葉を口にする。それにヴィヴィアーヌは「ありがとう」と笑顔を見せる。続けて「まことにおめでとうございます」というシルヴァに「そなたたもおめでとう、幸せになるのだぞ」とデイサインが返す。
 王侯達も一斉に「まこと、めでたい」と口々にいい、拍手が沸き起こる。唯一、聖ロマーヌの女王とその孫娘の姫が立ち尽くしているが、彼女達のことなどもうどうでもいいことだ。

 一時はどうなるか? と思った茶会ではあったが、思いも寄らない大きな祝賀の雰囲気に包まれた。

 笑顔で拍手するノクトにスノゥさえ気付いていなかった。
 一連の騒動によって、王侯達が一つ固まりとなって、中心であるシルヴァとプルプァの周りに集まっていたことを。
 警戒していた護衛の騎士や兵士達の注意さえ、そちらに向いていたこと。
 そして、彼らがそのほんのわずかな“すき”を狙っていたことをだ。

 ネコ科の動物が獲物を狙うときのように、静かに静かに距離を詰めて、従者の姿をした彼らはゆっくりと人垣のなかを進んで“獲物”への距離を縮めていた。

 そして、飛びかかる。

 それに瞬時に反応したのはシルヴァ。相手の短剣を腕をねじ上げて取り上げると、その喉笛を素早く切り裂いた。即死した男はどさりと地面に倒れる。
 突然の凶行に王侯達から悲鳴があがる。「暗殺者アサシンだ」の声が響く。

 だがもう“一人”いたのだ。

 いや、先の“一人”を犠牲にしたのだ。さらに獲物に迫るために。
 プルプァに向かって短剣ふりあげたアサシンに向かい、とっさにヴィヴィアーヌがかばう形で抱きしめた。
 その祖母のドレスの肩越しに見た、短剣を振りかぶる男の姿に、プルプァの菫の瞳が大きく見開かれる。

 同時にぶわりと白百合の香りが広がる。短剣を振り下ろそうとしたアサシンの動きが止まる。がくりと膝をついた彼の背に、シルヴァが投げた短剣が突き刺さる。

「また……仕留めそこねた……」

 ごふりとアサシンが口から血を流す。

「……双角のツィーゲによって……生き残ったのは…我ら…二人……その血を根絶やしに……せよ……という命……に従えず…母后様……申し訳……」

 遠い昔に命を下しただろう相手に、地面に倒れ伏した、その者はわびる。

「……百合の香りに阻まれ……どうし…ても……その子供を……殺せず……二度と浮き上がれ…ぬ……苦界に沈めた…はずなのに……こうして世に……」

 そこまでいって、そのアサシンは事切れた。



「ママン……」

 抱きしめたプルプァのつぶやきに、ヴィヴィアーヌが「怪我はない?」とその顔を見る。シルヴァが「プルプァ!」と駆けつけて、プルプァが手を伸ばしてシルヴァに手を握りしめられ、そして祖母の顔を見る。ぽろぽろと涙を流して。

「よかった、グラン・マ。生きてる。
 パパンは血だらけになって戦って、立ったまま動かなくなって、ママンは『声を出してはダメよ』って、だからプルプァはずっと黙ってなきゃ……って」
「プルプァ、あなた、記憶が……?」

 ヴィヴィアーヌが訊ねる。プルプァはそのまま気を失った。



   ◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇



 大きくて立派な角を持つパバンと、長い耳を持つママンとプルプァは湖に囲まれたお城に住んでいた。

「わたくしとプルプァが生まれたお城も湖に囲まれているのよ」

 そうママンはいつもいっていた。そこでプルプァのお祖母様グラン・マの住んでいるお城だと。「このお城は小舟でお城に入るけれど、あのお城には長い橋がかかっているの」とも。
 そう、お城は湖の真ん中にあって舟でないといけない場所だった。プルプァが小さい頃は、そのお城の中にずっといた。少し大きくなってからは、時々小舟にのって、湖の周りの森にお散歩に出かけたけど。

 ある日、大きな犬に遊び相手のメイドのリリィとともに追いかけられて、怖くて噛みつかれそうになって、なにかがプルプァの中ではじけた。気がつくとお城のベッドの上にいて、なにが起こったのかわからなかったけれど。

 それからママンがずっと話してくれていた、グラン・マに会いに行くことになった。

 その前にお城にやってきた人がいた。初めて会うお祖父様グラン・パだった。絵本で見た獅子のたてがみみたいな立派でまっ白な髪に髭。「元気でな」と頭を撫でてくれた。
 そして、初めて馬車に乗って城を出て、初めて海を見て、湖を渡る小舟ではない、大きな舟に乗って、それからまた馬車に乗って。

 夜だった。いきなり叫び声が周りでして、馬車の扉が開いてパパンが、プルプァを抱えた。そして、森の小屋にママンと一緒に逃げ込んだ。

「怖いけど、けして声を出してダメよ」

 そうママンはいって、プルプァに小屋にあった布を被せた。
 血だらけのパパンが怖い男達と戦いながら入ってきたときには、プルプァは思わず悲鳴を上げそうになったけど、ママンの言いつけを守って我慢した。

 そのパパンも立ったまま動かなくなり「あなた……」とママンが泣いていた。そのママンも刃物を振りかざした男に「やめて!」と叫んで、プルプァの被っていた布ごとプルプァを抱きしめて。
 パパンとママンの血に濡れた、怖い刃物が覗いた布の隙間から見えた。

 プルプァの中でなにかがはじけた。



   ◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇



「ママン!」

 プルプァが飛び起きると、知らない天蓋付きのベッドの上だった。けれど「プルプァ」と知っている低くて良い声がした。「シルヴァ」と名を呼んで手を伸ばせば抱きしめてくれる。
 その温かさと手の平を当てた胸から感じる鼓動に、「ほぅ」とプルプァは息をつく。

「よかった、シルヴァ生きてる」
「プルプァもだ。生きててくれてよかった」
「……でも、パバンとママンは……」

 プルプァがぽろぽろと涙をこぼすと、それをシルヴァの唇が優しくぬぐってくれる。

「ああ、プルプァの父上と母上のことは悲しい。だけどプルプァは生きている。そのことをお二人はよかったと思っているよ」

 「うん……」とプルプァはうなずいた。







しおりを挟む
感想 1,097

あなたにおすすめの小説

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結保証】

星森 永羽
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新 プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

嫌われ魔術師の俺は元夫への恋心を消去する

SKYTRICK
BL
旧題:恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する ☆11/28完結しました。 ☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます! 冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫 ——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」 元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。 ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。 その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。 ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、 ——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」 噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。 誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。 しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。 サラが未だにロイを愛しているという事実だ。 仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——…… ☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!

公爵家の次男は北の辺境に帰りたい

あおい林檎
BL
北の辺境騎士団で田舎暮らしをしていた公爵家次男のジェイデン・ロンデナートは15歳になったある日、王都にいる父親から帰還命令を受ける。 8歳で王都から追い出された薄幸の美少年が、ハイスペイケメンになって出戻って来る話です。 序盤はBL要素薄め。

いらない子の悪役令息はラスボスになる前に消えます

日色
BL
「ぼく、あくやくれいそくだ」弟の誕生と同時に前世を思い出した七海は、悪役令息キルナ=フェルライトに転生していた。闇と水という典型的な悪役属性な上、肝心の魔力はほぼゼロに近い。雑魚キャラで死亡フラグ立ちまくりの中、なぜか第一王子に溺愛され!?

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。