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耐えろカルマン!
【5】話をしよう
しおりを挟む「多少はいい面構えになったじゃないか」
父ノクトと話をした夕刻、いつも通りに大公邸へ行くと、これもいつも通り門前で待ち構えていた母スノゥがニヤリと笑った。
「来い」
そうひと言、スノゥが背を向けて門の中へと入る。カルマンも後に続いた。
「父上から連絡があったのですか?」
「ねぇよ。まあ、あいつがそろそろお前ところに行くのはわかっていたけどな」
「…………」
なにも言わなくてもわかり合える。そんな父母が今はうらやましいとカルマンは思う。自分はブリーの気持ちさえ察してやることは、出来なかった。
「あのな」
母のあとをついて長い廊下を歩きながら、思わず俯いたカルマンにスノゥが振り返り話しかける。
「別に俺とノクトだってお互いの気持ちがすべて分かるわけじゃない。そりゃ、長い間、番として連れそって、他人よりゃ分かる程度だ」
「それも、何度も言い争ったり、時には拳が出たりした結果の話だ」というスノゥに「母上……」とカルマンは心許ない声をあげる。
「俺達はケンカなどしたことはありません」
「そうか」
「ブリーはいつも俺に素直に従って、でも俺もブリーのことを思って、あれの願いは出来るだけ叶えてきたつもりでした」
「お前達は仲良しすぎたんだな」
「そうです。だからブリーも俺の気持ちをわかってくれると、俺は自分の気持ちを勝手に押しつけていたのです。ブリーは俺の一部ではない。ブリーはブリーなのに……イテッ!」
高い鼻をぴしりとひとさし指で、ピンとされてカルマンは両手で押さえた。いつもながらの母のこれは効く。
「その言葉は俺じゃなくて、この先にいる泣き虫兎に言ってやれ」
「ブ、ブリーが泣いているのですか?」
「ここに来てから毎日泣いてるぞ」
そのひと言でカルマンは飛び上がり「ブリーはど、どこに!?」と両肩をがっしり掴まれ、スノゥが「この馬鹿力!」と顔をゆがめながら。
「一番奥の客間にいる」
言葉を聞くなり、とんでいったカルマンの広い背を見送り苦笑するスノゥがいた。
◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇
「ブリー!」
部屋に飛びこむと、驚きこちらを振り向いたブリーは、カルマンの姿を見るとぽろぽろと涙を流した。
「ブリー! ブリー、すまなかった!」
カルマンが思わず抱き寄せれば、ブリーは激しく首を振った。垂れた茶色の耳がふわふわと揺れて、涙がキラキラと飛ぶ。
その毛並みは綺麗に整っている。毎日スノゥかメイドが世話してくれたのだろうが、ホンの少し艶がないのと、抱きしめたときにわずかに痩せているのにカルマンは顔をしかめた。
「ちゃんと、食事はしていたのか?」
「はい、スノゥ様とアーテル様にザリア様がお菓子をお口に押し込んで下さって……」
「…………」
シクシク泣くブリーのお口に菓子を押し込む、母と兄に弟の姿がたやすく浮かんだ。そしてアーテル兄にザリア……あの面白がり達が確かにこの状況を放っておくわけがない!
カルマンはチラリと閉まった扉に目をやった。明らかにこちらをうかがう気配が、三つある。二つは当然あの面白がりだろう。もう一つはスノゥに違いない。
ならば、あの二人の乱入は母が押さえてくれると、カルマンは泣きじゃくるブリーに集中する。
ブリーは未だ首を振りながら。
「カルマン様が謝ることはないのです。私が勝手に家を出たから」
「いや、そうではない。俺がお前の話を聞かなかったからだ」
そこでカルマンはいったん言葉をきり、一つ息を吸って吐いて口を開く。
「ブリーは知っていたんだな? 俺も望まなければ子が出来ない事を」
ブリーはその言葉に一瞬息を飲み、こくりとうなずいた。そして、頬に流れる涙をカルマンは優しく口づけて吸い取る。
この唯一がたまらなく愛おしかった。
「私だけが望んだとしても、カルマン様がそう思ってくださらない限りは……御子は産まれません。だから、毎日お話を……」
そうだ。だからカルマンがいくら「ダメだ」と言おうとも、ブリーは話しかけ続けてくれたのだ。それを拒否したのは自分だ。
「ごめん、ごめんな、ブリー」
「いいえ、いいえ、カルマン様がお謝りになることでは……」
「いや、今回は俺が悪い。お前の話を聞かなかった、俺が」
「だから、たくさん話し合おう」カルマンはそう告げた。
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