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末っ子は大賢者!? ~初恋は時を超えて~
【32】建国の秘密
しおりを挟むあまりに衝撃的なケレスの言葉に、モモはそのあとどう受け答えをしたのか、わからない。そのまま、アルパの部屋近くに用意された自分の部屋に戻り、飾り気のないそれでも貴人用の天蓋に囲まれたベッドに、潜り込んで目を閉じた。
次に目覚めたときは、その白い天蓋の布ではなく、天井からはキラキラクリスタルのお星様のモビールが回る、濃紺の星空の見慣れた天蓋に戻っていた。カール曾お爺さまが贈って下さった、お月様の形のベッド。
「戻ってきちゃった……」
そうつぶやいた声も小さく、我ながら元気がなかった。
◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇
「ひどい顔じゃな」
ヨーグルトと温かいお茶のみの朝食をのろのろと食べて、モモは王都の郊外にある、大賢者モースの隠居所のロッジに向かった。当然、モモが元気のないことを心配した、非番の兄のシロウを振りきって。
「シロウ兄様に連絡してください」
「押しかけてくるな? とじゃな。やれやれ……あまり度々だとそれも効かなくなるぞ」
「クロウ兄様ならわかりませんけど、シロウ兄様なら、大先生といる部屋にいきなり押しかけるなんてしないと思います」
一番年若いだけあって、クロウが一番の考え無しだ。いや、あれは若さというより性格じゃないか? とモモは思っている。他の兄様方より落ち着きがないのも、口が悪いのも。
でも、今はクロウがいつまでも子供っぽいというどうでもいい話ではない。どうでもいい……とされたクロウは泣きそうだが。
「『勇者は災厄を倒すだろう。ただし、彼は王になることはない』この神子の予言を大先生はどう思われまか?」
モモの言葉に、モースの皺に埋もれた目が軽く見開かれた。
「……神子の予言は神託そのものだ。それを違えたことは過去、一度もないとされている」
モースはかつては赤かった白い髭をしごき、長考したあとにゆっくりと口を開いた。モモはそれに頷く。
「たしかに、神子の予言はいまでも絶対とされています。最弱と言われた兎族のお婆様が、お爺様の旅の仲間に選ばれたように」
そのときもまた神子の神託は間違いか? と問題になったそうだ。だが、伝説の勇者黒のノクトの番にして、“初まりのスノゥ”と呼ばれる祖母は、見事に祖父を助け災厄を倒した。
そこから自分達純血の兎族達の歴史が初まり、また兎族にとって世界が変わりはじめたといってよい。まさしく、祖母は“初まり”の純白の兎だ。
このとおり、神子の予言はどのように信じがたいことであっても、違えたことはない。それは、遥か天空に去り、今は人の営みに干渉することのないとされてる神々が、災厄に限っては唯一、神子を通して人々に手を差し伸べる、その御言葉であるからだ。
神託に間違いがあるはずはない。
だけど。
「歴史書には書かれています。災厄を倒したあとに、創世の勇者アルパが、すべての狼族の支持を受けて王となり、このサンドリゥムを建国したと」
それは自分こそが王になると張り切っている、あの父親の族長ではない。そういえばあの族長の名前をモモは未だに知らないな……と思う。
そもそも、彼の名前は歴史書に記されていない。やはり何らかの事情があって、彼は王位にはつけなかったのだ。何らかの事情どころか、今だって、あの石の城館では、族長よりもアルパの人望が高いのは、人々の様子でもわかるし。
そして、モモが今、語ったとおり王位に就いたのは、アルパなのだ。
そして王妃には、あの神子ケレスがなったと。それも今のモモの胸には痛みよりも、なにか鉛を流し込まれたようなずっしりともやもやとした感覚が広がる。
彼女はアルパのことを諦めているようだった。
神子である彼女にとっては神託は絶対なのはわかる。だけど、アルパの幼なじみでアルパは大切な友人だと言っていた。
それなのに、そんなに簡単に運命だと諦められるのだろうか?
自分は出来ない……とモモは拳を握りしめる。
「確かに歴史書にはそう書かれているな。しかし、モモよ。建国王の有名な逸話を知っておるな?」
「……はい」
それはモモにも気がかりなことだった。もし、予言が当たっているとしたら、あの逸話にもまた『裏』がある可能性がある。
「……建国王アルパは、災厄による戦いにより顔に酷い傷を受け、それを隠すために生涯仮面をつけて過ごしたと。だから、大先生はそこで本物の建国の勇者と、建国王とされている人物が入れ替わっている可能性があるとおっしゃりたいのですね」
「そうじゃ」
モースはこくりとうなずいた。聡い二人同士の会話に、無駄な説明などいらなかった。
建国王の父たる族長の名前は秘され、その建国王も生涯人々に己の顔をさらすことはなかった。
「よく真実の歴史とはいうが、本当に今、我らが知っている歴史が正しいとは限らない」
モースの言葉にモモはこくりとうなずいた。
たしかに数々の歴史はそのときの人々によって都合良く改変されてきた。
サンドリゥムの建国の歴史もまた。
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