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末っ子は大賢者!? ~初恋は時を超えて~
【48】それは突然に……
しおりを挟む今朝のモモはご機嫌だった。
良い夢を視たからだと、アルパにもわかっているのだろう。その口許には笑みが浮かんでいる。
「父様と母様に会えました」
「私もモモの父上にお会い出来たよ。とても強そうな方だった」
「本当に強いですよ。勇者ノクトお爺様の息子ですもの」
「それはひとつお手合わせ願いたいものだ」
モモはクスクスと笑う。
「お父様だけでなく、九人の兄様達もアルパと戦いたいと言い出しますよ」
あの過保護な父と兄達ならば間違いない。
そして、あれは夢だけど夢ではなかった。
「あれはモモが生まれる前の父様です」
「モモが生まれる前?」
「はい。モモと一つ上のクロウ兄様とは十歳年が離れていますから」
「それはずいぶんと離れているね」
「はい、それには長いお話があるのです」
あの父カルマンが溺愛している母のブリーの初めての叛乱? の家出とか色々。
「モモは家族にとても愛されていたのだな」
「はい、母様はともかく、父様と兄様達はちょっと過保護すぎるぐらい」
モモは家族の名を出して、ちくりとかすかに胸が痛んだ。
自分が消えたことに家族達は気付いただろうか? いや、元の世界に戻るにしても、自分達には数十年の放浪にしても、家族達からすれば瞬き一つの間のことかもしれないけど。
それの証明でもないけれど、アルパにしてもモモにしても、三百年の寿命を持つ純血種とはいえ、数十年の時放浪を経ても、まったく歳をとる気配がないのだ。髪の毛や爪などは伸びるというのに。
「モース大先生は時空の迷子になれば、存在そのものがないことになる。人々に忘れ去られるかもしれないと言っていました」
だったら、逆に家族のみんなは自分のことを忘れてくれていたらいい……と思う。そのほうが、みんなが悲しまなくてすむから。
モモのことをみんなが忘れている……と思うと、それも少し悲しいけれど。
「そんな顔をするな」
「アルパ」
慰めるように、ひたいに一つ、両頬に二つ口づけられる。モモはその優しい感触に目を細める。ふわふわの綿菓子のような桃色の髪を撫でてくれる大きな手の温かさ。
「モモと一緒にあの夢を見たからではないが、きっとすぐにみんなに会える。そんな予感がするんだ」
「はい、モモもそんな気がします」
モモは笑顔になり、こくりとうなずいた。
◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇
「それは真のことなのか?」
現代、サンドリゥムの王城。その円卓の会議室。
「はい、私の計算に間違いがなければ」
宰相であるノクトの問いに、ブリーがこくりとうなずいた。その隣には守護するようにカルマンが座っている。
当代の王であるヨファンの顔がしずかに青ざめ、大臣達もざわめく。ノクトの隣には参議であるスノゥも座っているが、さすが動じることはない。そして、魔法研究所の所長であるナーニャの隣に立つ研究員が淡々と報告書を読み上げる。
「……先頃、星の湖で、頻発している地鳴りの周期の間隔は徐々に狭まっており、特別研究長ブリーの計算によれば、近日中にも、湖底に眠る休火山が爆発すると……」
その爆発によって、湖は溶岩で埋め尽くされ蒸発し、さらには火山灰によって、周辺の豊かな葡萄畑も壊滅的な被害を受けるということだった。
「なんということだ。それではサンドリゥム特産の葡萄酒が……」
「建国の王アルパと星の賢者様、由来の地が壊滅するなど……」
大臣達がざわめくなか、ノクトが静かに告げる。
「まず周辺住民達の避難を始めなければならない。彼らの生命が一番だ。その財産と今後の暮らしの保障もな」
ノクトの言葉に特産の葡萄のことに気を取られていた大臣達がハッと、目を見開き恥じ入るように俯いた。たしかにまずそこに暮らしている者達の生命を助けること。それにその後の生活の保障が一番だった。
「すぐに一時避難先は定めるとして」
ノクトがちらりと隣のスノゥをみれば、彼はこくりとなうなずく。「グロースター大公領には、彼らを受け入れる開拓地は十分にある」と返す。宰相であるノクトに変わって、スノゥが現在北の広大な大公領を取り仕切っている。
会議室の全員に配られた、湖周辺の住人達の人数や、その葡萄畑の大きさ。もたらす収益が書かれた書類を眺めて、かけている銀縁の眼鏡の鎖をちゃり……と鳴らし。
「とはいえ、温暖な南の気候になれた彼らが、北の厳しい冬に耐えられるのか。開拓当初は当然十分な収入も得られず、数年は生活の援助の必要もある」
問題はそれだけではない。これまでの葡萄栽培から、北の地では慣れぬボアやコッコの飼育という酪農への転向となるのだ。当然、脱落する者も出てくるだろう。
スノゥの言わんとしていることは、ノクトにもそして大臣達にもさすがにわかったのだろう。大臣の一人が「なんとかならないのですか?」と話しかけたのはナーニャだ。
つまりは魔法や魔道具で火山の噴火を止めろということだ。それにナーニャが静かに首を振る。
「大自然を操ることは魔法でも無理です。それこそ、ここに星の賢者がいたならば、その“奇跡”も可能でしょうけれど」
星の賢者……それは魔法使いにとっては至高の名だ。今、サンドリゥムの大地に残る数々の伝説に奇跡。勇者アルパをあらゆる魔獣のブレスや攻撃から守ったという、漆黒のマント。一瞬で大樹となったという、小麦が特産の村々に残る小さな森。それは森を守らなければならないという、建国の勇者アルパの偉業とともに、伝わっている。
なによりの最大の奇跡は、氷の星を堕とし火山を鎮め、湖を作り出したということだ。その湖こそが、星の湖と呼ばれる問題の火山が眠る。
「どうしたブリー!?」
カルマンのその声に、みんながブリーを見る。
ブリーは茶水晶の瞳からぽろぽろと涙を流し、つぶやいた。
「どうして……どうして私はあの子のことを忘れていたんでしょう」
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