チンチラおじさん転生~ゲージと回し車は持参してきた!~

志麻友紀

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【19】チンチラ聖人!?

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 ダンダレイスの剣が触れる前に、ネメオベルはアルガーノン王の身体を捨てて抜け出た。崩れ落ちる老王の身体に、ダンダレイスはその剣をピタリと止めて、返す刃で宙へ飛びすさろうとするネメオベルの透ける梟頭の巨体を切り裂いた。

 ギャアアアアアアアアアアアァアアア! とすさまじい声をあげて、その姿は霧散する。

「お爺さま!」

 ダンダレイスは床に倒れる老王の身体を抱き起こした。その身体には見た所、傷はないが息はしておらず、アルファードはぴょんとその胸元に飛んで大きなお耳を当てたが鼓動もない。首筋に念のために小さな手で触れたが、氷のように冷たく当然脈がなかった。
 死んでいる。ネメオベルに身体を乗っ取られて、その魂が追い出されたせいなのか? それとも、乗っ取りの負荷に年老いた身体が耐えられなかったのか。
 ダンダレイスが「お爺さま、お爺さま」と必死に呼びかけている。その声を聞きながら、アルファードは直感的に思う。

 いや、まだ呼び戻せる・・・・・

 アルファードは目を閉じて、精神を集中させる。自分の中の四大属性の魔力。火と水と風と土が渦を巻くように。「アルファード?」と遠くでダンダレイスが呼びかける声がする。
 アルファードの小さな身体が光に包まれ、その黄金の光はダンダレイスの腕の中で横たわるアルガーノンの身体を包みこむ。
 そして。

「お爺さま!」

 アルガーノンは目を開いた。「レイスか?」とまだ状況がわからず、老王は目をしばたかせる

「アルファード!」

 次にダンダレイスがその名を叫んだのは、小さなチンチラの身体が、その老王の胸元でコロンとひっくり返ったからだ。



   ◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇



 目を覚ますとホカホカと温かかった。

「気付いたか?」
「ダンダレイス?」

 長い指の腹でこちょこちょとひたいをなでられて、アルファードは目を細めた。「あのあと?」とどうなった? と聞けば。

「お爺さまはあなたの“力”で生き返った。あなたは魔力の使いすぎで倒れたのだ」
「そうか」
「だから、私がこうして抱いて魔力を分け与えていた」

 なるほど、だからこれか? とダンダレイスのシャツの胸元から顔を出しながら、アルファードはふんふんと鼻を鳴らす。
 周りを見渡す。裏地が空色の天蓋のカーテン、ベッドの傍らのテーブルの上に、見慣れた自分のお家であるゲージ。ここはダンダレイスの寝室か。

「喉が渇いた」
「今、持ってくる」
「ん?」

 ちょうど扉が開いて、小さな銀器ののった盆を手にした執事のスティーブンが入ってきた。「お目覚めになられたようでよろしゅうございました」といいながら、銀器を置いた小卓をベッドサイドへと寄せる。

「アイスクリームか!」

 アルファードのくりっとした濃紺に金の星を散らしたような瞳が輝く。ダンダレイスが銀のデザート用スプーンで、白くて冷たいそれを口許に運んでくれるのに、ぺろぺろとなめる。ん、乾いた喉には最高だ。
 それを一口二口食べていると、やってきたメイドがスティーブンに皿を渡し「こちらもどうぞ」と執事が卓にそれを置く。
 色とりどりのマカロン。アルファードはさっそくちんまりしたお手々で、一つ手にとった。それはピンクのラズベリー。しゃくしゃくと食べる。そう外側はさくさくで中はしっとり、あまずっばいソースも絶品だ。

 一つ食べて、ひとごこちついたところで「話がある」とダンダレイスが言った。「ああ」とアルファードは、差し出された彼の手の平に乗った。持ち上げられて目線を合わせられる。目の端でスティーブンが一礼して部屋を出て行くのが見えた。
 部屋にはダンダレイスと自分だけとなる。
 改まった会話をするときは、ちんまいこの身体としっかり目を合わせるために、自分を手の平に乗せるのが、ダンダレイスのクセとなりつつあるようだ。

「まず、お爺さまを生き返らせてくれたこと、礼を言う。ありがとう」
「うむ、出来ると思ったからしただけだ」
「…………」

 アルファードが胸を張ると、ダンダレイスはいささか微妙な沈黙のあとに、もっぷのような前髪で半分顔を隠された下、形のよい唇が開く。

「上位の回復魔法の使い手ならば、死んだ直後の人間を生き返らせることは可能だ」
「うん、そうだな」

 回復魔法の属性は土、風、水……火だけが除外であるが、そのどれかの最高位の癒し手であれば“死にたて”であれば、蘇生が可能だ。

「だが、最上位魔族の瘴気を祓うには“聖女”の光の力が必要だ。どんな癒し手でも聖女以外、穢れを受けたものを救うことは出来ない」

 ダンダレイスの父親の前将軍はその傷が元で、亡くなったと聞いている。

「穢れを受けたお爺さまをあなたは癒し、生き返られた。そのとき、あなたの小さな身体が輝くのを、私は見た。あの光は聖女の……いや、あなたは。
 聖人だ」





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