チンチラおじさん転生~ゲージと回し車は持参してきた!~

志麻友紀

文字の大きさ
40 / 84

【40】本当に怖いお人

しおりを挟む
   



「さて、ストルアンよ、そなたの前の宰相は誰であったか」

 唐突な老王の問いにストルアンはとっさに答えることは出来なかった。アルガーノンは「ああ、ツァーネルの奴だったか」とつぶやく。老いてなお頭脳明晰な王が、前宰相の名を忘れるはずがない。

 ツァーネル・ラッセル・グリマルディ侯爵は、ストルアンの前の宰相であった。老王アルガーノンの一人息子ハイウェル皇太子の正妃であるオクタヴィアの父だ。ハイウェルの不幸な落馬事故に続けて、その孫息子であるヒメーシュ王子が立太子も前に夭折した。それに落胆し政界から退いたことになっているが。
 実際は次期国王の外戚としての縁を無くし、その政治力を失ったことは明らかだ。
 老王が次の宰相に指名したのがストルアンだ。王家に残された直系男子で“王子”の称号を名乗ることを許されたレジナルドの父であったからだろう。ダンダレイスの父であるモーレイ公は北の守り。宰相になることはない。

 前宰相の名を出した老王の言いたいことは一つ。宰相など、いくらでも首のすげ替えがきく立場だということだ。
 ストルアンのまつりごとは善政でもないが悪政でもない。国は小さな不具合はあれど回っている。

 だから“今は”お前に任せている“だけ”なのだと。

 まつりごととは清濁あわせのむことだと、老獪な王はストルアン以上によく知っている。そう“老獪”という言葉がこれほど似合う王はいない。
 ストルアンはそれ以上ダンダレイスを糾弾出来ず、ただ勇者と聖女を“予定を早めて”近衛騎士団と第二騎士団をつけて、北へと出すことを王の了承を得て、丸い背をさらに丸めて退出したのだった。



   ◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇



「お爺さま」

 書斎より私室の居間へと移動したアルガーノンの元へと、レジナルドが“戻って”きた。
 父である宰相ストルアンと共に別宮をいったん出たが、本宮の執務室へと向かう彼と別れてきたのだった。
 その呼び名も“陛下”ではなく、私的な場の“家族”として“お爺さま”呼びとなっている。
 この別宮でレジナルドがアルガーノンと会っていることをストルアンは知らない訳ではない。
 むしろ、ダンダレイスよりも呼び出される頻度が高いことを、父である宰相は喜んでいた。自分の息子は老王の“気に入り”であると。

 実の所、会う頻度は低くとも、ダンダレイスに対してのほうが、この老王が祖父らしく“甘い”態度を見せることをストルアンは知らない。
 レジナルドはそれを知っている。
 知っているからこそ、先日、この老王に直接“猛抗議”したのだ。

 「あれほど可愛がっているダンをどうして、行かせたのですか?」と。

 強力な魔族の瘴気に対抗できるのは勇者と聖女のみ。だから自分達も同行すると直訴したのだ。たとえ、父宰相の反対があろうとも王命ならば、それを変えることは出来ない。
 アルガーノンはただ「レイスには“守護”がある。しばらく静観してもよいだろう」と答えるのみだった。

「お爺さまはアルファード卿の“正体”がわかっていたからダンを北に行かせたのですね」

 チェスのテーブルを挟んで、一人がけのソファに相対して座り、レジナルドは問いかける。侍従が脇に卓を寄せて、そこにグラスが二つ泡立つ金色の液体が注がれる。王と王子ではなくこの私室では祖父と孫として、先に遠慮なく口にしたレジナルドは怪訝な顔をした。白ワインだと思っていたのだ。「リンゴ酒シードルよ」とアルガーノンはいう。「ワインもすごし過ぎてはよくないとアーネストがうるさくてな」と。王付きの執事の名だ。

「お爺さまには長生きしていただかないと」
「生きるのはともかく、さっさと勇者に魔王を倒してもらい王冠を譲り楽な“余生”を送りたいものだ」

 アルガーノンは幼い頃よりたびたびレジナルドを呼び出し“帝王教育”をほどこした。
 そして「お前が次の王になるのだ」といった。
 そのためには勇者として正しい姿を“装え”。“心に思ってなくとも”公明正大で常に正しいことを心から思っているという態度で話せ。
 お前の両親のことは放っておけ。だがけして、彼らの言葉には流されるな。取り巻きの貴族達も同様。
 奴らの言葉に有頂天になる“馬鹿”になどなるな。清く正しい勇者として笑顔の仮面をはりつけ、受け流しておけ。

 レジナルドはある日不思議に思い訊ねた。
 なぜダンダレイスではなく自分なのか? と。

 彼のほうが魔力量が膨大であり、幼い頃から剣をあわせて勝てた試しなど一度もなかった。さらには人間ばなれした怪力は、もしや獣人の血が入っているのでは? と噂されたほどだった。
 彼ほど勇者に相応しいものはいない。
 だが老王はいった。「レイスはモーレイ公、北の盾となるものだ」と。





しおりを挟む
感想 62

あなたにおすすめの小説

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

巨人の国に勇者として召喚されたけどメチャクチャ弱いのでキノコ狩りからはじめました。

篠崎笙
BL
ごく普通の高校生だった優輝は勇者として招かれたが、レベル1だった。弱いキノコ狩りをしながらレベルアップをしているうち、黒衣の騎士風の謎のイケメンと出会うが……。 

限界オタクだった俺が異世界に転生して王様になったら、何故か聖剣を抜いて勇者にクラスチェンジした元近衛騎士に娶られました。

篠崎笙
BL
限界ヲタクだった来栖翔太はトラックに撥ねられ、肌色の本を撒き散らして無惨に死んだ。だが、異世界で美少年のクリスティアン王子として転生する。ヲタクな自分を捨て、立派な王様になるべく努力した王子だったが。近衛騎士のアルベルトが勇者にクラスチェンジし、竜を退治した褒美として結婚するように脅され……。 

記憶を失くしたはずの元夫が、どうか自分と結婚してくれと求婚してくるのですが。

鷲井戸リミカ
BL
メルヴィンは夫レスターと結婚し幸せの絶頂にいた。しかしレスターが勇者に選ばれ、魔王討伐の旅に出る。やがて勇者レスターが魔王を討ち取ったものの、メルヴィンは夫が自分と離婚し、聖女との再婚を望んでいると知らされる。 死を望まれたメルヴィンだったが、不思議な魔石の力により脱出に成功する。国境を越え、小さな町で暮らし始めたメルヴィン。ある日、ならず者に絡まれたメルヴィンを助けてくれたのは、元夫だった。なんと彼は記憶を失くしているらしい。 君を幸せにしたいと求婚され、メルヴィンの心は揺れる。しかし、メルヴィンは元夫がとある目的のために自分に近づいたのだと知り、慌てて逃げ出そうとするが……。 ハッピーエンドです。 この作品は他サイトにも投稿しております。

ゲームの世界はどこいった?

水場奨
BL
小さな時から夢に見る、ゲームという世界。 そこで僕はあっという間に消される悪役だったはずなのに、気がついたらちゃんと大人になっていた。 あれ?ゲームの世界、どこいった? ムーン様でも公開しています

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

転生×召喚

135
BL
大加賀秋都は生徒会メンバーに断罪されている最中に生徒会メンバーたちと異世界召喚されてしまった。 周りは生徒会メンバーの愛し子を聖女だとはやし立てている。 これはオマケの子イベント?! 既に転生して自分の立ち位置をぼんやり把握していた秋都はその場から逃げて、悠々自適な農村ライフを送ることにした―…。 主人公総受けです、ご注意ください。

【完結】白豚王子に転生したら、前世の恋人が敵国の皇帝となって病んでました

志麻友紀
BL
「聖女アンジェラよ。お前との婚約は破棄だ!」 そう叫んだとたん、白豚王子ことリシェリード・オ・ルラ・ラルランドの前世の記憶とそして聖女の仮面を被った“魔女”によって破滅する未来が視えた。 その三ヶ月後、民の怒声のなか、リシェリードは処刑台に引き出されていた。 罪人をあらわす顔を覆うずた袋が取り払われたとき、人々は大きくどよめいた。 無様に太っていた白豚王子は、ほっそりとした白鳥のような美少年になっていたのだ。 そして、リシェリードは宣言する。 「この死刑執行は中止だ!」 その瞬間、空に雷鳴がとどろき、処刑台は粉々となった。 白豚王子様が前世の記憶を思い出した上に、白鳥王子へと転身して無双するお話です。ざまぁエンドはなしよwハッピーエンドです。  ムーンライトノベルズさんにも掲載しています。

処理中です...